列車内の座席で、少々のことでは目覚めない様子で寝ているオリエ。
乗客は、このオリエとユカのみだった。
ユカはドア付近に立っており、外を眺めていた。
愛する者を奪われてから、その表情には影が色濃く出るようになった。
外は、そのような心象風景を写しているかのような夜だった。
ユカは、ビジネスホテルで暮らすようになっても定期的にアパートに出入りしていた。
あまりにも急だったため、私物の持ち出しがほとんどできていなかったのだ。
この日も私物の持ち出しに訪れていた。
エントランスの鍵を開けようとしていたところを、物陰に潜んでいたスキンヘッドが背後から厚めの布で口と鼻を塞ぐ。
「!?」
大きく目を見開いていたが、薬を嗅がされたようで、程なくして脱力したように目を閉じていく。