2019/04/26

任務進行中03


間接照明がロウソクのように灯っている室内。
生まれたままの姿のユカとダイジロウが、大声を上げながら激しく抱き合い、縺れ合い、感じ合っている。
肢体には大粒の汗が浮かび、艶やかに光っている。

しかめ面のオリエ。
口元はへの字。

2つ折りの布団とパイプハンガーのみの、殺風景な6畳のワンルーム。
どこからともなく、愛と欲望の営みと思われる声が聞こえてくる。

オリエは不機嫌そうに壁に耳を当てるが、何も聞こえてこない。
床に耳を当てる。
絶頂を迎えつつあるかのような男女の声が聞こえてくる。
目を細め、小刻みに舌打ちをしつつも、聞き耳を立て続ける。

2019/04/23

任務進行中02


閑静な住宅街。
一心同体に等しいユカとダイジロウが歩いている。
必然的に歩みはゆっくりしていた。

その後ろに、一定の距離を保ったスキンヘッドが続いている。
時折、スマートフォンで、フラッシュを防ぐためか街灯の近くで2人の写真を撮ったり、それ以外の場所では動画を撮ったりしていた。

右側に2階建の、10世帯規模の鉄筋造アパートが見えてくる。
愛の巣なのか、恋人たちは別れを惜しむ儀式はせずに、そのまま入っていく。
2階には上がらずに、入ってすぐの部屋の鍵を開けようとしているユカ。

スマートフォンを見ながら歩いてくるスキンヘッド。
ちょうどドアが開き、入っていく2人。

通りに面した窓に、室内の明かりらしきものが映る。
窓ガラスは、外からは見えないような加工がされていた。
スキンヘッドは、そちらにスマートフォンを向けたまま歩いていく。

オリエが歩いている。
左側に2階建の、10世帯規模の鉄筋造アパートと、その近くを歩いているスキンヘッドが見えてくる。
心成しか、体の向きが建物側に寄っているように見えた。

11番右の部屋に明かりが点く。
スキンヘッドは、立ち止まることはなかったが、その様子を写真か動画に撮ろうとしているせいか、オリエからは背中が見えるほど体の向きが変わっていた。

オリエは、見て見ぬ振りをするようにその反対側へ移動する。

意に介さない様子で体を進行方向へ戻し、歩いてくるスキンヘッド。
瞬き1つしない、身の回りを認識しているか定かではない眼差し。

すれ違いざまに横目で一瞥するオリエ。
気がついていない様子で通り過ぎるスキンヘッド。

明かりの点いていた部屋の雨戸が降ろされる。
ユカかダイジロウかまではわからなかった。

オリエも同じアパートの中へ入っていき、2階へ上がっていく。

2019/04/16

任務進行中01


停止し、ドアが開く。
固く手をつなぎ、体を密着させた2人が降りていく。
少しあとに、自然さを装ったスキンヘッドが続く。

オリエは我に返ったように、反対側のドアが開いていることに気づく。
ドアが閉まることを告げる車内アナウンスが流れる。

「ウソ!?」

ちょうどドアが閉まりかけていたが、慌てて車外に飛び出していく。

全く意に介さない様子のマサヨシ。
閉まりかけるドアに何かが引っかかるような、挟まりかけるような音が聞こえ、軽く顔を上げるが、すぐに元に戻す。

『昨日、男性10名の変死体が川に浮かんでいるのが発見される。死体の状態から、ほぼ同時に殺害されたと見られている』

『依然として、2030代の女性が行方不明になり続けている。一度に多人数が失踪するわけではなく、1人また1人という状況。手口は似ているようだが、現状手がかりは皆無の状態』

マサヨシの眼差しに紅蓮の炎が宿り始める。

2019/04/12

任務進行中00


乗客の疎らな列車内。
かつては、特定の時間帯や鉄道会社のみによる現象だったが、現在は混み合うことの方が稀だった。

列車外は、夜のようで、黒地に所々明かりが混じっているような景観だった。

その車両の乗客は5人だった。
ドア付近に立ち、面白くなさそうにスマートフォンを見ながら、時折車外やほかの乗客を眺めているオリエ。

残りの3人は離れた座席に座っており、1人はドア付近に立っていた。
ちょうど冬から春へ移行しつつある季節柄、身に着けるものに差が出やすい時期ではあるが、この人物は、鍛え上げられた腕やタトゥー、そして上半身を誇示するかのようなタンクトップ姿のオトコだった。
身長は170175cm程度だったが、スキンヘッドということもあり、人目につきやすい風貌ではあった。
スマートフォンを見ながら、ほとんど瞬きをしないガラス玉のような目で、時折対面の座席に座っているユカとダイジロウの様子をそれとなく観察していた。

彼らは恋人同士のようで、固く手をつないでおり、体の密着度も高かった。
お揃いの黒縁メガネや、肌の露出がほぼ皆無に等しい色合いも地味な服装、草食動物のような円らな瞳。
元々は他人同士だったはずが、まるで同一人物が2人いるかのようだった。

オリエも似たような風貌だったが、相違点は黒縁メガネをかけていないこと、服装の色合いがメディアからの受け折りだということだった。

そこから少々離れた座席では、マサヨシが顔をしかめながらノートパソコンと睨めっこをしていた。
全体的に、メディアの情報やファッションセンスからはほど遠い風貌で、その眼差しには怒りや憎しみ、そして苛立ちが混じり合った負の光が、松明やランタンの炎のように宿っていた。

停車駅が近づいているのか減速し始める列車。
最寄駅なのか、ユカとダイジロウが一緒に立ち上がりドアに近づいていく。
その様子をスキンヘッドが一瞥する。

2019/04/09

始動02


栄枯盛衰は世の常でもある。
右肩上がりの時期があれば、必ずその逆もある。

この孤島も例外ではなく、戦後7080年の頃から徐々に成長に翳りが出始めだした。
輸出先が次第に豊かになり始め、これまで以上の性能や品質を求め始めたのである。
無論、国内も同様だった。

そうなると、否が応でも原材料・製造コストが上がり、製造過程の複雑化により納期遅れも出やすくなる。

とはいえ、これらコストを価格へ必要以上に上乗せすると、消費者から不必要な苦情が増え、その対処にまたコストがかかるため、断念せざるを得ない企業が増えていく。

その結果、企業の売買による粗利率も目減りしていく悪循環しか生み出されない。

しかし、まだ成長曲線上では安定期で、且つ全国民の暮らし向きに困窮さが出ているわけではなかったため、確実に迫る衰退が肌感覚で感じにくい状態でもあった。

それどころか、2030年頃前から急速に発達し出したITAIで再び成長期になるとさえ言い出す連中もいた。

連中の言い分はこうだ。

ITAIにルーチンワークを委ねれば、その分コストが浮き、これまで以上に安価で高品質な商品が出来上がる。
携わっていた人間も時間がより増えるようになる。
その結果売れ行きがよくなり、粗利も増える。
この好循環によって、再び成長期が訪れる。

これが妄言虚言であり、詭弁でもあることに誰しもが気がつくまでに、それほど時間はかからなかった。

2019/04/05

始動01


この人口調整は、生まれる子供の性別が女だと判明したときに行われていた。
生まれる前に堕胎させられていたのだ。

国は、焦土となった状態から復興するために、筋力に勝る存在を重視していたのである。
その結果、2030年ほどでインフラの回復や整備が進み、同時に強化も図られた。
それ以降、約50年ほど成長期のような状態が続く。
原材料を輸入し、それを加工して製品を造り輸出するというビジネスモデルが功を奏していた。
製品造りに欠かせない原材料に乏しいという事情もあったが、輸出入の粗利が多かったため、それほど問題視されなかった。

なお、人口調整は少しずつ行われなくなったが、成長期の途中まで行われており、戦後約50年ほど続いた。

2019/04/01

始動00


それは、国家ぐるみで極秘に始められたプロジェクトだった。

その国は南北に長い島で、かつては人口1億人を抱える世界第2位の大国でもあった。
しかし、四方を荒れる海に囲まれている地勢学要因による閉鎖的な国民性や約100年前に起きた世界規模の戦争からの復興に伴う人口調整で男女比が歪となり、その結果少子高齢化や人口減少が急速に進み、もはや見る影もなかった。

加えて、これまで全世界で主流だった大量生産・消費・廃棄のツケに等しい異常気象や頻発する自然災害が追い討ちをかけていた。

そのような状況の打開策は、ほかには存在しない。

少なくとも、実際に携わっていた者たちはそう信じて止まなかった。