そして、しばらくは非常に劣悪な環境で過ごさざるを得なかったが、最も尊い、愛し、愛されることを経験した。
……はい。
全部、見てた、んですよね?
無論だ。
これまで味わったことのない、甘美で濃密なときを過ごせたであろう?
………はい。
もう、これ以上何もいらないって、心から思っちゃいました。
それは、そなたが愛したあの者も同様だったようだ。
そして、一足先に死の世界へ旅立って行った。
…やっぱり、タカシはもう、戻ってこないんですよね?
ここにも、生の世界にも…
いかにも。
残念ながら、私にも死の世界にいる者をこの世界へ、ましてや生の世界へ呼ぶことはできない。
そう、ですよね…
…ねぇ、あたしは、いつ死の世界に行けるんですか?
まさか、このままずっと、この微妙な状態でいなきゃいけないとか、ですか?
あの者に会いたいのか?
はい、会いたいです…
てか、触れ合ってたいです…
そうか。
実は、そなたに残された時間は少ない。
とはいえ、即日死の世界へ向かえるかといえば、そうでもない。
てことは、あと1年とか2年とかは無理だけど、1ヶ月ぐらいとかだったら生の世界にいられるかも、って感じですか?
そう思ってもらって差し支えない。
じゃあ、どうすればいいですか?
あと、タカシはまだいるんですよね?
もう、動くことはないかもですけど。
漆黒の遣いは答えず、アヤカを見つめている。
…どう、したん、!!
アヤカの体を黒い塊が貫通する。
遣いの姿は見当たらない。
虚ろな眼差しのアヤカ。
ゆっくりと目を閉じていく。
…