活気がなく、人の気配もほとんどないマンション帯。
ここ2~3年の不動産バブルによる負の遺産だった。
数年前に起きた大地震からの復興が順調に進んでいることを、内外に示すためのものでもあった。
少子高齢化による未曽有の人口減少時代に逆行するような動きだったが、誰しもが現実逃避をしたいがために異を唱えなかった。
また、IT化・AI化で職を追われた連中が大量に野に放たれている状況でもあった。
どこからともなく聞こえてくる、重く陰鬱な鐘の音。
空は分厚い雲に覆われている。
黒に近いダークグレー。
あてもなく歩いているタカシ。
アヤカより20~30cm程度背が高かったが、栄養不足気味なのか線が細かった。
小顔に切れ長な目。
しかし、目の下にはドス黒いクマ。
大きく落ち窪んだ頰。
虚ろな瞳で、全体的に覇気がなかった。
立ち並ぶマンションはどれも外観こそ様々な趣向が凝らされていたが、人の気配はなく、本来の役割は果たしていないも同然だった。
しかし、防犯用の無人ヘリコプターは各マンションに1機ずつ割り当てられているようで、随時巡回していた。
まるで小型模型のようだった。
1人のみすぼらしい男が、無人機が見えなくなるのを見計らったように、エントランスへ駆け寄っていく。
空き巣か無賃居住をしようとしているかのどちらかと思われた。
しかしエントランスはビクともしない。
近くにオートロックの解除装置があるため、当然である。
それに気付いていないのか、ただ単に破れかぶれになったのか、男は全身の力を駆使してエントランスを開けようとしている。
タカシは見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。
ちょうど速度を上げた無人機がやってくるところだった。
無論男は気付いていない。
無人機は10m程度離れた場所で静止し、一瞬だったが機体が光る。
体液らしきものが残っていたが、男の姿は影も形もなくなっていた。
何事もなかったように、通常任務へ戻る無人機。