2017/10/19

034

漆黒のボディスーツを身につけたキウェイン
口元は無一文字
両目は暗視ゴーグルで隠れていた

短刀で喉を切り裂かれた、恋人同士または夫婦と思われる、20代後半から30代前半の男女が倒れていた

キウェインの足元にある草は黒くなっていた
手に握られた短刀の切先から滴り落ちる、犠牲者たちの血によるものだった



少女は腰が竦み、声も出なくなっているようだった
顔は完全に泣き顔になっており、目には涙が溢れていた
飼い主に捨てられた子犬を彷彿とさせる、悲しげで円らな瞳だった

暗視ゴーグルが外れたキウェインの顔は、輪郭がシャープで切れ長な目だった
美形だったが、恐ろしく無表情で、黒目よりも白目の割合が多かった
その黒目も、どこを見ているかわからないような目付きだったが、どことなく少女を視界に見据えてはいるようだった

少女は言葉を発することができず、口元は震えていた
すでに涙は止めどなく流れていた

キウェインは短刀を折り畳み、少女の前にしゃがんだ

「!?」

その目には、大量の涙と怯えの感情が浮かんでいた
キウェインの顔には表情がなかったが、目には労わりの感情が見え隠れしていた

少女の目に浮かんでいた涙と怯えの感情が少しずつ消えていった

「オレはキウェイン。おまえは?」

「?」

「おまえには名前はあるか?オレはキウェイン」

「あたしは……ルミ」

「そうか。なんでだかわかんねぇけど、今日のオレはおまえを殺せないみたいなんだ」

キウェインは立ち上がり、ルミに背を向けた



四方を緑に囲まれた川の流れは、静かで穏やかだった
川岸にはキウェインが倒れていた

おそらく上流から流されてきたのだろう

右肩にできた裂傷は、完全に治癒しているかは定かではなかったが、止血の意味合いで白い布で固く縛られていた