2017/08/30

■58

香織は実家暮らしで、最初のうちは土日やその前日に体を重ね合わせていたが、次第にお互いを求める度合いが強くなっていくにつれて、週の半分は営みに費やすようになっていった

「ねぇ…。今日は大丈夫だよ…」

香織が幾度となく耳元で囁くことが増えてきた
しかも、俺の理性が完全に失いかける一歩手前のタイミングで言われるので、その度に我に返り、香織の要望には応えられないことを伝えるのだった

どうやら俺はどんな状況であっても、理性の欠片を残しておくことが出来るようだ
さすがの香織も俺の理性を完全に剥ぎ取ることは出来ないようだった

香織は身も心も俺と結ばれたいと本気で思っているようだった
そして、その身にお互いの愛の結晶を宿したいとも思っているようだった

確かに一時の感情に全てを委ねてしまいたくなることは何度もあった
香織と一生を共にするのも悪くないと思い始めていた

しかし、どういうわけかその一線を超えることは出来なかった
香織の中に入るときは常に薄いゴムでしっかり包んだ状態だった

「私はいつでもいいよ…」

香織はいつも優しく微笑んでくれたが、その表情にはその都度寂しさや落胆も滲み出ていた
俺は自分が情けなくもあったが、実際『やっちゃった』では済まないのだ
まだ自分が親になることなど到底イメージが出来ない
香織には不安はないのだろうか?

「もちろん不安がないわけじゃないけど、先のことは実際になってみなきゃわかんないよね?」

確かに一理ある
人生は敷かれたレールの上を走る列車ではないのだ
一寸先がどうなるかもわからないような状態だ
だからこそ、極力負わなくてもいいリスクは負いたくないというのが本音だったりもする
別に香織との間に子供が出来ることがリスクだということではないが…