会場は既に満員だった
クラシックコンサートに使われることもありそうなホールで収容人数は少なく見積もっても1000人はいけそうだった
俺と香織の席は既に予約済みだったようで、真奈美がハンドバックとコートで席を取っていた
場所はちょうど最後尾だった
「お二人さんが隣同士になるような席を用意しといたから」
通路側に座っていた真奈美は相変わらずニヤニヤしていた
どうやら香織のうろたえる反応を面白がっているようだった
「そう。どうもありがとう」
一瞬真奈美に面白くなさそうな表情が浮かんだ
香織はいつも通りのナチュラルさで受け流したようだった
「あ、電話だ」
真奈美は携帯電話を片手に席を立ち、会場の外に出ていった
どうやら、香織が思った通りの反応を示さなかったのが、気に入らなかったようだ
人間は一瞬見せる表情で全てを物語ってしまえる生き物だと思わざるを得ない
とりあえず俺は一番奥に座ることにした
香織はその隣に座った
ちょうど司会がスピーチを始めたところだった