2017/06/29

Submerged in blackness

日が落ち始める。
1つ、また1つと街灯が点灯し始める。

辺りに反響するような叫び声をあげながら、全速力で走ってくるヨシキ。
防毒マスクはつけていなかった。

それとなく観察しているものの、何事もなかったかのように業務に勤しんでいるリュウスケ。



何かにつまずいたのか、足がもつれたのか、突然倒れるヨシキ。
以後微動だにしなくなる。

ゆっくりと近寄って行き、ヨシキを見下ろすリュウスケ。

「…」


悲しみに暮れた様子でトイレから出てくるサヤ。

全開放状態の玄関。
投げ出された防毒マスク。

ヨシキ…

……

まだ、そんなに遠くには、行ってない、よね…




うつ伏せのまま動かないヨシキ。
すでに息をしていない様子。

「…」

ヨシキを見下ろしたままのリュウスケ。
人工知能が1体、背後に近寄ってくる。

「…処理を頼む」

そのままヨシキに近づき、担ぎ上げようとする人工知能。

「いや、待て」

人工知能の動きが停止する。

ヨシキよりも明らかに遅いものの、精一杯のスピードで走ってくるサヤ。

「ここは俺がやる」

立ち去っていく人工知能。

ヨシキのそばでしゃがみ込み、肩を息をしているサヤ。

「スマホで字打てるようになったら教えてくれ」




辺りは黒く塗りつぶされており、街灯は全て点灯していた。
リュウスケが操作したのか、人工知能たちが寄ってくることはなかった。

サヤの肩の動きが緩やかになっていく。

「もしかして、彼氏か?」

ぎこちなくスマートフォンを取り出し、文字を打ち込むサヤ。

『はい、そうです』

「何があったかわからんが、生身の状態で、ありえないぐらいデカイ声あげながら走ってきたんだ」

『そうですか…』

「で、力尽きたみたいにここでコケて、それっきりだ」



「それはそうと、俺はそろそろ上がりだ。もし、まだそばにいたいなら、ロボットたちを近づけないようにしておくが、どうする?」



『実は、私、お腹に彼の子供がいるんです』

「そうか…」

『元々私も働いてたんですけど、声以外にも色々ダメになって働けなくなっちゃって、彼に全て頼るしかなくなっちゃって、でも、収入は増えないし』

「なるほど、そういうことか…」

『こんな世界だし、私も体がボロボロだけど、でも授かった命は育みたいし、生みたい。だから…』

顔を上げるサヤ。
交錯する視線。

「悪いがそれはできねぇ。俺には、アンタを養えるだけの収入はねぇんだ」

視線を外し、立ち去ろうとするリュウスケ。
懇願するようにその手を掴むサヤ。

立ち止まるが、振り返らないリュウスケ。



「…無理なもんは無理だ」



手を離すサヤ。
そのまま立ち去っていくリュウスケ。

サヤの足元に落ちる防毒マスク。



川に何かが落ちるような音が聞こえてくる。
立ち止まるリュウスケ。

「…」

振り返ることなく、そのまま歩いていくリュウスケ。




-----完-----


※あとがき的なもの

現在、太陽の黒点はかつてのマウンダー極小期並みか、それ以上に少ないと言われている。
無論太陽の活性度も、それに比例して低い状態にあると言われている。

しかし、地球は温室効果ガスの影響で温暖化が進む一方だ。
つまり、それだけの化石燃料が消費されているということでもある。

今回の世界は、 化石燃料が消費されすぎた結果、重度の大気汚染を引き起こした、あまりにも悲観的な近未来のシミュレーションでもある。

そして、哲学的な視点で見るなら、受動的ニヒリズム極まりない展開でもある。

また賛否両論くっきりなものが出来上がってしまったが、私の創作意欲はまだ衰える兆候がない。
困ったことに、すでに次回作の構想も少しずつ湧き出している。

まだ、どう展開するかは未知数だが、おそらく読者の皆さんの期待を悪い意味で裏切ることはないだろう。

年内に着手できると思うが、それまでは、まだ公開していない旧作を公開しつつ、英語版の電子書籍作成をやりたいと思うので、今しばらく待っていただければ幸いである。