2017/10/31

03

そんな、どっかの飼い犬みたいに、地べたに座り込んで

○×してくれるまで絶対に動かない

みたいな顔でオレを見るなよ

オレは別におまえに首輪と綱をつけてなどいない

仮についてたとしても、オレの用意したものではない

おまえが勝手に用意したんだろ?

もしくはついてると勘違いしてただけだろ?

オレに一体何を期待していたんだ?

1つ確かなことがある


それは、おまえの目に映っているオレは、おまえが抱いていた浅はかで愚かな偶像に過ぎないということ

2017/10/30

02

オレは学校生活が死ぬほどキライだった

「あのころに戻りたい」
「あのときが1番楽しかった」

残念ながらこのようなことを言ってくる連中と仲良くなることは、ほぼ100%なかった
そもそも、この「楽しい」という感覚が理解できなかった

「みんなで一緒に仲良くしましょう、何かしましょう、それは楽しいものなのです」

というのを強要される場でしかなかった
オレにとっては苦痛以外の何物でもなかった

そんな中で、唯一の例外が中学時代の3年間だった

オレは昔から団体行動が出来ない、重度の乗り物酔い、という学校生活をまともに送るにはあまりにも致命的な爆弾を抱えていた

特に小学生の頃は団体行動の極みである修学旅行や林間学校、社会科見学は常に別行動だった

世間体に過敏な身近な他人たちにとっては、醜態以外の何物でもなかったに違いない

「お前は失敗作だ」
「お前の中に私の遺伝子が入っていることはない」

幼少の身にはあまりにもショックな言葉だ

そもそも、オレを望んでもいないのにこの世に誕生させておいて言うセリフではない


それだからかもしれないが、オレの通っていた中学は、何らかの事情で親元で暮らせない連中が半数いるところだった

2017/10/29

01

「知っていたが再確認した」

そう思うことが増えてきた

多くの場合、悪い方面で再確認する
良いことを再確認することはほとんどない

オレは、大学という学校生活の中で最も退屈で、最も無意味としか思えない場所を卒業後、東海地方に本社がある食品メーカーに就職した

そこに所属したかったわけではない
そこに行くしか選択肢がなかったのだ

オレの、両親と呼ばれる1番身近な他人たちは世間体を気にする人種だった
彼らを黙らせるための手段でしかなかった

オレが自分たちの扶養家族に入っていることを盾に、自分たちの言うことを聞くのが当然とでも言わんばかりの態度を取ってきた

「私たちはあなたを生んであげた」
「私たちはあなたを食うに困らないようにしてあげた」

だからなんだと言うのだろう?

そもそもオレはあなたたちに生んでほしいと懇願した覚えはない
オレをこの世に生誕させるという選択をしたのは、ほかならぬあなたたちのはず

とはいえ、人間は他の動物のようにすぐに独りで生きていくのは非常に困難だ
実際に食うに困らない状況であったのは確かだった

それに対する借りを作らないということで、ある程度はあなたたちの求めるように生きてきた

ただそれだけだった

2017/10/28

00

オレの名はミョウジン
気付いたら24年も生きていた

これが長いのか短いのかは、よくわからない…
そもそも長いか短いかなどはどうでもよかった
24年生きたという事実があるだけに過ぎない…

それに対してどういった意味付けをするかは、各々の判断というか価値観などによって変わってくると思うが…
そんなことはどうでもよかった
第一、興味がない

「まだ若いのにねぇ」

オレは自分で自分を「若い」とか「年取った」とか思うことはなかった
むしろこのセリフの裏に潜んでいるものに言いようのない引っ掛かりを感じることが多かった

「まだ若いのにねぇ(若いくせにわかったようなこと言ってんじゃねぇよ)」
「まだ若いのにねぇ(オレよりも10歳以上若いお前に何がわかるってんだ?)」
「若い=人生経験が浅い、思慮が浅い」

この手の連中は脳内でこんな図式が成立し、全てをそれに当てはめようとしているのだろう…
生きる年月の長短が、生き方の密度の濃淡に正比例すると思っているのだろう?

無論ある程度は正しいように思うが、当てはまらないケースというのも少なからず存在する

彼らはこういった考えを持つことはなかったのだろう…
持つこともなく、何の疑問を抱くことすらなく、年月をいたずらに重ねてきただけ…

人間は言葉でウソをつくことは出来ても、空気感でウソをつくことは出来ない生き物…
そう思わざるを得ない…

2017/10/26

041

どうした?なぜ、刺さなかった?」

ルミはキウェインに抱きついていた
投げ捨てられた短刀

「死んでるはず。それはあたしも一緒。あなたは、あたしのお父さんとお母さんを殺した。でも、あたしはあなたに助けられた」

「殺せなかっただけさ。それだけだ。理由は、わからない」

「それ、あたしも同じ。覚えてる?あなたが川岸で倒れてたときのこと」

……ああ。確かに、あのときのオレは、瀕死どころか死んでてもおかしくなかったな。殺そうと思えば殺せただろ?むしろ、殺したかっただろ?」

ルミの体が小刻みに震えていた
キウェインを抱きしめている手に力が入っていく

「でも、あなたを助けたいっていう気持ちの方が強かった

「そうか

宙を仰いでいたキウェインが、ルミを見下ろす
その、震えている小柄で華奢な体躯を抱きしめた

「オレで、いいのか?」

「あなたが、いい」

濃くなっていく闇夜

2人を邪魔するものは何もなかった



-----完-----

2017/10/25

040

川の流れる音
流れは速そうだった

トリプルワンはキウェインを担いでいた
キウェインの存在自体を水に流そうと考えていたに違いない

川は幅が10mほどだった
やはり流れは速かった
1人程度ならば、あっという間に押し流してしまうだろう


キウェインは川の流れに飲み込まれ、押し流されて行った

2017/10/24

039

キウェインは、両手を広げ、目は閉じたまま宙を仰いでいた
口元には、何かを達観したような笑みが浮かんでいた

ルミの手に握られていた短刀の、小刻みな震えが止まった
ルミの目は、ガラス玉のように無機質なままだった

漆黒の闇
等間隔で設置された街灯
辺りは、静寂に包まれていた

ルミは短刀を両手持ちし、切先をキウェインに向けた
目には涙が溢れていた


そのままキウェイン目掛けて突進していくルミ

2人の間に、邪魔となるものは何もなかった

2017/10/23

038

幼いルミはただ立ち尽くしていた

そこには死体となった両親の姿があった
死体には首がなかった
鋭利な刃物で切り取られていたようだった

変わり果てた両親の姿を見せつけられて、完全に思考停止状態になっていたのだろう



ルミはキウェインの右肩にできた傷跡に気付いた
古傷だったが、鋭利な刃物で切り付けられ、相当量の出血があったに違いない、深い傷跡だった



ルミは、キウェインの傷跡にそっとキスをし、優しく抱き締めた

2017/10/22

037

「なぁ、そろそろ隠れてないで出てこいよ」

闇の中から現れたのはルミだった
手に握られた短刀の切先が、僅かな明かりを反射していたせいか、白く光っていた

「まさか、コイツと一緒に尾けてたのか?」

キウェインはトリプルワンを一瞥した
ルミは首を横に振った

ルミの眼差しは虚ろで、視界にキウェインは入っていたようだったが、どこを見ているかわからないような目付きだった

キウェインは不敵な笑みを浮かべていた

「ここまでわざわざ来たってことは、だよな?」

ルミの目はガラス玉のようだった
短刀を握っている手に力が入っているのだろう
短刀が小刻みに震えていた

「いいさ、好きにしろよ。オレは、さっきも言ったが、本来だったら死んでるはずの人間だ」

キウェインは両手を広げて目を閉じた
恐怖心や躊躇いを全く感じていないような佇まいだった

2017/10/21

036

樹海を抜けた先にあったものは、荒れ果てた街だった
所々に街灯の明かりはあるものの、間隔が長いためか薄暗かった
家屋らしきものはなく、廃屋と化した56階建のビルが立ち並んでいるのみだった

ここが「貧民街」と呼ばれる場所なのだろう
キウェインがいる場所は「21区」だったが、このような景観が「30区」までひたすら続いているのだろうか

辺りに人影はなかったが、気配らしきものはあった
立ち並ぶビルに人が潜んでいるのだろう



「懐かしい場所だな。昔から何も変わっちゃいない」

音もなくトリプルワンが現れた

アンタもここで生まれたんだったよな?」

キウェインは振り返らなかったが、背後にトリプルワンがいることは認識しているようだった

「ああ。だが、正確にはわからん。オレは親の顔を見たことは1度もない。こんな場所だ。きっと、オレを捨ててスラムに逃げようとしたんだろうな」

「さっきは、待ってたのか?オレの記憶が戻るのを」

「ああ。殺ろうと思えばいつでも殺れたさ」

キウェインは嘲るように鼻で笑った

「何がおかしい?」

トリプルワンの声には怒気が篭っていた

「アンタ、気付いてるか?あんときあった圧倒的な殺気が相当落ちてるってことに。オレに手出さなかったのは、返り討ちを恐れたからだろ?」

キウェインが振り返った
その表情は、かつて最前線で数多くの任務をこなしてきた殺戮マシーンそのものだった


しばしの間、両者に沈黙が流れた

「トリプルゼロ。おまえは、あの監視場から出たいと思ったことはあるか?」

「いや、別に」

「オレは、出たいと思わなかった日は1日とてなかった。あそこでは実績が全てだった。憐れな貧民どもをどれだけ殺したかっていう実績がな」

「へぇ

「おまえさえいなければ。あのとき、ただのガキだと思って生かしさえしなければ

トリプルワンの歯軋りが響く

「アンタはさぁ、色々と考えることはできるし、セコさもあるけど、中途半端っていうか、詰めが甘いよな」

キウェインには嘲るような笑みが浮かんでいた

「だから、何がおかしいってんだ!!」

トリプルワンの怒号が響き渡る

「オレは本来なら死んでるはずなんだ。あんときのアンタだったら、オレを殺すのは余裕だっただろ?それが生き残っちまったんだ。おかしくないわけないだろ?」

「ぶっ殺

トリプルワンの胸にキウェインのつま先がめり込んでいた

「ムダが多すぎなんだよ。それと、人間は急所を確実に突けば、結構簡単に死ぬもんだぜ」

トリプルワンは崩れ落ちるように倒れ、微動だにしなかった

2017/10/20

035

設置されていた街灯に明かりが点いていた
明かりから外れた場所は漆黒の闇に覆われていた

キウェインは肩で息をしていた
急激に記憶が戻ってきた影響で、精神的・肉体的に負荷がかかったのだろう

明かりに照らされた道を辿って行けば、スラム街と貧民街の境界線に着くのは間違いなさそうだった



徒歩で、さらに10分程度進んだ頃だろうか
スラムの監視員数人が、罵声や馬鹿笑いとともに、貧民街からの脱出者1人に殴る・蹴るの暴行を加えていた

脱出者は何とか命乞いをしていたが、すでに立つこともできないほど消耗していたようだった
おそらく全身の骨は相当数折れてしまっているだろう

やがて、微動だにしなくなった


少年は10歳ほどだろう
瞬きもせずに、ひたすら目の前で起きていることを眺めているようだった

数人の監視員たちが罵声とともに2人の人間に暴行を加えていた
彼らは少年の両親だった

少年は恐ろしく無表情だった
目はどこを見ているかよくわからないような目付きだった
また、黒目よりも白目の方が多かった


「お~い。おまえいつからそこにいたんだぁ~?」

監視員の1人がキウェインに近付いてきた
焦点の定まっていない、クスリのお世話になっているかのような目をしていた

「…ついさっき」

「はぁ~?なめてんのかぁ~?てめぇ、貧民のくせにいいもん着てんじゃねぇかよ~」

キウェインは嘲るように鼻で笑った


少年の手には鮮血の付いた短刀が握られていた
足元は滴り落ちる鮮血で赤く染まっていった

少年は彼らの元に、ゆっくりと向かって行った
表情、顔色1つ変えずに



「そうか…。そういうことか…」

暴行を受けていた脱出者に加え、監視員たちも死体となっていた

「…トリプル、ゼロ…」

キウェインは鮮血で染まった右手を見つめていた
瞬き1つしない、恐ろしく無表情な目付きだった

2017/10/19

034

漆黒のボディスーツを身につけたキウェイン
口元は無一文字
両目は暗視ゴーグルで隠れていた

短刀で喉を切り裂かれた、恋人同士または夫婦と思われる、20代後半から30代前半の男女が倒れていた

キウェインの足元にある草は黒くなっていた
手に握られた短刀の切先から滴り落ちる、犠牲者たちの血によるものだった



少女は腰が竦み、声も出なくなっているようだった
顔は完全に泣き顔になっており、目には涙が溢れていた
飼い主に捨てられた子犬を彷彿とさせる、悲しげで円らな瞳だった

暗視ゴーグルが外れたキウェインの顔は、輪郭がシャープで切れ長な目だった
美形だったが、恐ろしく無表情で、黒目よりも白目の割合が多かった
その黒目も、どこを見ているかわからないような目付きだったが、どことなく少女を視界に見据えてはいるようだった

少女は言葉を発することができず、口元は震えていた
すでに涙は止めどなく流れていた

キウェインは短刀を折り畳み、少女の前にしゃがんだ

「!?」

その目には、大量の涙と怯えの感情が浮かんでいた
キウェインの顔には表情がなかったが、目には労わりの感情が見え隠れしていた

少女の目に浮かんでいた涙と怯えの感情が少しずつ消えていった

「オレはキウェイン。おまえは?」

「?」

「おまえには名前はあるか?オレはキウェイン」

「あたしは……ルミ」

「そうか。なんでだかわかんねぇけど、今日のオレはおまえを殺せないみたいなんだ」

キウェインは立ち上がり、ルミに背を向けた



四方を緑に囲まれた川の流れは、静かで穏やかだった
川岸にはキウェインが倒れていた

おそらく上流から流されてきたのだろう

右肩にできた裂傷は、完全に治癒しているかは定かではなかったが、止血の意味合いで白い布で固く縛られていた

2017/10/17

033

キウェインは咄嗟に身をかわした
乾いた音とともに短刀が木に刺さった

「クッ

キウェインは右肩を圧迫するように押さえたが、右肩には裂傷が出来ているようで、指先から血が滴り落ちていた

「ククク。よけるのが遅すぎたようだな。その出方だと静脈切れてると思うぜ?」

キウェインの指先から滴り落ちる血は一定のペースだった
圧迫していても止まることなく出血していた

だから、どうした?」

キウェインは、顔色1つ、表情1つ変えずにいた

「静脈でも、切れると縫わない限り血は出続ける。このままだと、出血多量で意識が飛んで死ぬぜ?それとも、今すぐにラクになりたいか?」

トリプルワンは、力の差を誇示するようにニヤニヤしていた

アンタの、好きにしろよ」

キウェインは右肩を押さえるのを止め、腕を脱力したように垂らしていた
出血のペースが若干速くなったようだった
しかし、顔色1つ、表情1つ変わらなかった

「フッ、トリプルゼロ。おまえは素晴らしいよ。素晴らしすぎて今すぐ殺してやる!!」

トリプルワンは、目に留まらない速さで短刀を、少なくとも2本は投げた
しかし、キウェインの手に短刀が握られることはなかった

「何!?」

トリプルワンの両腕には、間違いなく自らが投げたはずの短刀が刺さっていた

「なぁ、アンタ、オレになんか投げたのか?だとしたら、動きが遅すぎて欠伸出そうだったぜ」

「クッ。バカな

キウェインは、トリプルワンが投げつけた短刀を受け取り、そのまま投げ返したのだろう

「さて、これで形成逆転だが、どう

キウェインの胸にトリプルワンのつま先がめり込んでいた

「言い忘れてたが、オレには足っていう武器もあるんだが?」

キウェインは崩れ落ちるように倒れた

完全に意識を失っているようだった

2017/10/16

032

樹海は広葉樹が主体だったため、所々木漏れ日はあったものの、日光はほぼ遮られている状態だった
月明かりがなければ、夜の訪れとともに漆黒の闇となるのは間違いなかった

そのためか一定の間隔で街灯が設置されていた
おそらく日没の時間とともに点灯するのだろう

10分程度歩いた頃だろうか
道端に、全身に切り刻まれたような傷を負った男が倒れていた

おそらく貧民街の犠牲者だろう
命からがら逃げ出してきたようだったが、すでに息はしていなかった

「う!?」


キウェインは激しい頭痛に襲われたようで、頭を抱えて蹲ってしまった

2017/10/15

031

ルミは虚ろな目をしていた
手には短刀が握られていたが、視界には入っていないようだった


死体となった両親の姿
死体には首がなかった
鋭利な刃物で切り取られていたようだった

暗視ゴーグルを外すキウェイン
顔の輪郭はシャープで、切れ長な目だった
美形だったが、恐ろしく無表情で、黒目よりも白目の割合が多かった

キウェインの足元にある草は黒くなっていた
手に握られた短刀の切先から滴り落ちる、犠牲者たちの血によるものだった


ルミの目から大量の涙が滴り落ちていた

短刀を握っている手に力が入っていく

2017/10/14

030

時刻は14時ごろだった
電車内に「20区」への到着を告げるアナウンスが流れていた
今回は、キウェイン自身の意思に基くものだった

目的地は、スラム街と貧民街の境界線にある24時間体制の監視場だった
ここで行われていることは、秩序を守るという名目の殺戮なのだ

果たしてキウェイン自身が、過去にその殺戮に加担していたかどうか
そして、欠落している記憶を取り戻すための手がかりが見つかるかどうか

これらを確認しに行くためのものでもあった

キウェインは事前に所在地を確認していた
まともな交通機関は無きに等しい場所だったため、徒歩で向かうしかないようだった
所要時間は1時間程度の見込みだった



30分程度歩いた頃だろうか
そこには、同じスラムとは言い難い景観があった

キウェインの目の前には、広大な樹海が広がっていた
多くの樹が生い茂り、鬱蒼としていた
辛うじて街並みと呼べる箇所は、1520分程度歩いたところで影を潜めてしまった


樹海に通じている道は、舗装はされていそうな道1本のみだった

2017/10/13

029

「なんかさ…」

「ん?」

キウェインとルミは、ちょうど、男女のスキンシップ後に訪れる余韻に浸っているところだった

「オレらって……前にも会ってたっけ?」

「なんで?」

「上手く言えないけど…なんか、初めて会ったはずなのに、初めてじゃない気がするんだよな」

「ふ~ん…」

「…なわけ、ないか」

キウェインはルミを一瞥した
焦点は定まっていないようだったが、その視線は冷たく鋭かった
ほんの一瞬だったが、ルミに怯えの色が浮かんだ

「どうか、した?」

「いや、何でもないよ…」

ルミは咄嗟に平静を装ったようだったが、どことなく漂う不自然さまでは払拭できなかったようだった

2017/10/12

028

キウェインが、アイコと数え切れないほどの回数、体を重ね合わせたホテルで殺人事件があったようだった
被害者は女性で、年齢は3035歳程度、身長は170cmほど、とのことだった

清掃に入ったホテルの従業員が発見したとき、すでに女性は死亡していたようだった
着衣をしておらず、胸を刃物で刺され、死亡していた
なお、凶器は犯人が持ち去ったようで、捜索しても見つからなかった、とのことだった

キウェインは昔からテレビを見なかった
このニュースはインターネットで確認した

あるときから見なくなったのか、元から見なかったのか
おそらくは後者だろうが、幼少時の記憶は欠落したままだったため、詳細は不明だった

被害者の身元は、現時点では確認できていないようだったが、ほぼ間違いなくアイコだろう
容疑者は「トリプルワン」と名乗った、あのオトコに違いない

犯行動機はなんだろうか
浮気に対する報復だろうか
それ以外の理由もあるのだろうか


真相は本人のみぞ知る、ということになるのだろうが

2017/10/11

027

キウェインは「1区」にある次元転送マシーンに向かっていた
アイコと約束をしていた日だったからだ
また、通常よりも多くの報酬を手にすることができる日でもあった

次元転送マシーンのある場所には誰もいないことが多かったが、今回はキウェインとよく似た体型のオトコがいた
ティアドロップ型のサングラスをしており、レンズが黒かったため、表情を窺い知ることはできなかった

「う!?」

キウェインは右肩と胸を押さえた

「久しぶりだな、トリプルゼロ。どうした?傷が痛むのか?フッ、体は思いのほか正直だな」

トリプル、ゼロ?」

「まだ記憶は消えたままのようだな。まぁ、いい。こないだおまえに打ったメールはオレが打った。そして、アイコはオレの妻だった」

どういう、ことだ?」

「アイコは死んだ。正確にはオレが殺した。あのメールはアイコの端末から送った」

オトコは短刀を取り出した

「見覚えあるか?トリプルゼロ

「う!?頭が、痛い。あ、アンタは、一体

キウェインは頭を抱えて蹲った

「オレは、殺戮マシーン・トリプルワン。おまえは、殺戮マシーン・トリプルゼロだ。フッ、また会おうぜ

オトコは次元転送マシーンに乗り込み消えた

……トリプル、ワン。……トリプル、ゼロ。殺戮、マシーン……


キウェインはしばらくその場から動くことができなかった

2017/10/10

026

電車内に、「20区」への到着を告げるアナウンスが流れていた
どうやら、キウェインは寝過ごしてしまい、「9区」で降り損ねたようだった
ルミとの激しい一夜で、体力の消耗も激しかったのだろう

「この電車、車庫に入りますので降りてくださ~い」

キウェインは駅員の声に従い、車外に出た
目は覚めていたが、思考はほぼ停止している状態だった

電車内に残っていたのはキウェインのみだったようで、ガランとしていた



キウェインのスマートフォンに、メールの受信を知らせるLEDが点灯していた
アイコからだった

『また近いうちに会えるかな?』

おそらく1週間以内、という意味合いだろう

『ずいぶん早いなぁw
 あんだけしゃぶりまくったのにまだ足りないのか?w
 オレだって無限に体力あるわけぢゃねんだぞ?w
 報酬を2倍にしてくれんだったら考えるけどw』

アイコと男女の営みを行うのは、今までは、23週間に1回程度のペースだった
いくら夫の稼ぎがいいとは言え、1回当たりの報酬は、決して安いわけではない
アイコなりの防衛策だろう

『うん。全然足りない報酬も倍にしたげるから、23日中にまた会いたい』

『しょうがねぇなぁ~w
 ぢゃあ、明後日いつもの場所でいいか?
 そんなにオレとやってばっかだとガバガバになるぜw』

『うんじゃあね~

いつになくアイコからの返信が早かった
偶然、すぐにメールが打てる状況だったのかもしれないが



キウェインは、ホームのベンチから「20区」の景観を眺めていた

限りなく貧民街に近いスラム街だけあって、これといった商業施設はなく、かといって「9区」のような住宅街でもなく、殺風景だった

街の様子はどことなく活気がなく、ホームにいる人間たちは、いずれも貧乏神を具現化したような風貌だった

土地の単価が安いということもあり、経済力のない連中が必然的に集まってくるのだろう
活性化する要素がないのは明らかだった

1区」方面に向かう電車が到着していた
構内アナウンスはあったのだろうか

キウェインが聞き逃しただけかもしれないが

2017/10/09

025

ルミはうっすらと目を開けていった
キウェインは眠っていた
シーツは、全力でお互いの中に入り合った、その激しさを物語るかのように、濡れていた

!?」

ルミはキウェインの右肩にできた傷跡に気付いた
古傷だったが、鋭利な刃物で切り付けられ、相当量の出血があったに違いない、深い傷跡だった



ルミは、キウェインの傷跡にそっとキスをし、優しく抱き締めた

2017/10/08

024

オトコはアイコのスマートフォンを操作していた

「欲求不満だと?それはおまえのことだろ?なぁ、アイコ

そこは、先日キウェインとアイコが男女の営みを行った部屋と酷似していた

アイコはベッドに横たわった状態で事切れていた
着衣はしておらず、胸には短刀が刺さっていた
それは、かつてキウェインに放った短刀と同じ形をしていた

「ククク、トリプルゼロ。次はおまえの番だ


アイコのスマートフォンには、キウェインとやり取りをしていたメールが多数表示されていた

2017/10/07

023

そこには死体となった両親の姿があった
死体には首がなかった
鋭利な刃物で切り取られていたようだった

幼いルミはただ立ち尽くすしかなかった
変わり果てた両親の姿を見せつけられて、完全に思考停止状態になっていたのだろう

「それ以上見ない方がいいぜ」

キウェインは、背後から目隠しをするように、ルミの両目を押さえた

「!?」

「何も言うなよ。死にたくなかったらな

キウェインは、ルミの喉近くに短刀を持ってきた
その表情は殺戮マシーンそのものだった
ルミは、その尋常でない殺気を感じたのか、小刻みに震えていた

「安心しな。大人しくオレの言うこと聞いてれば殺さねぇから」


ルミは震えが収まらないようだった

「ゆっくりでいい。回れ右しな」

ルミは言われるがままに応じた
実際は回れ左になっていたが、ルミとキウェインが死体に対して背を向ける形になれば、問題なかったのだろう

キウェインはルミから目隠しを解いた
木々に囲まれた一本道と所々に電灯らしき物も見えた

「オレが短刀をしまったら、あの道をそのまま進んで行け。振り返るなよ。いいな

キウェインは、ルミの喉の辺りにあった短刀を引っ込めた
ルミは、涙を流しながら一目散に走って行った


ルミを突き動かしていたものは、両親を殺された精神的ショックや悲しみ以上に、「殺されたくない」という本能だったに違いない

2017/10/06

022

オトコは物思いに耽るように葉巻タバコを吸っていた
大きさは通常の紙巻タバコと同じぐらいだった

「好きだよねぇ、そのサングラス。完全に怪しい人っぽいけど」

アイコだった
全身を隙間無くブランド物で固めていた
おそらく総額で100200クレジットほどだろう

オトコはアイコを認識しているようだったが、一瞥することはなく、深く吸い込んでいた煙をゆっくりと吐き出した

「まぁな

「てか、誘ってくれるの珍しいよね」

「今回はそういう気分だっただけさ」

「アタシを抱けなかったから、欲求不満だったんでしょ~?」

そうかもな」


オトコは葉巻を咥えながら、不気味な笑いを浮かべていた