2017/09/11

■70

マナーモードになっている携帯電話が鳴っているのに気付いた
メール受信のときとは振動の仕方が違っていた

おそらく電話だろう
いつも通り大城かと思ったが、真奈美からだった

「もしもし」

『もしもし

体調が悪そうで、気持ちも落ち込んでいそうな声だった

「どうした? なんか体調悪そうな声だけど」

『うん

真奈美から言い出すのを待つことにした

お腹が痛いの。すっごく痛いの

どうやら女性特有の現象のようだ
声が落ち込んでいるように聞こえるのは、妊娠を望んでいたのに関わらず、それが叶わなかったからだろう

「そう、か

何を言えばいいかわからなかった
気休め的な慰めや励ましはしたくなかった

『こんなに痛いの初めて

血の涙を流していた香織が脳裏に浮かんだ
見えない力が真奈美の妊娠を阻んでいるのだろうか?
だが、それではあまりにも非科学的で根拠がない

ねぇ』

「ん?」

『まだ、チャンスあるよね?』

「ああ、大丈夫さ」

こういう状況では、不確かなことでもイエスと言わざるを得ない
今回の目的は真奈美を元気付けることなのだ

不謹慎かもしれないが、妊娠が失敗したのを聞いて少しホッとしたのも事実だった
経済的にも精神的にも、現状では独りで生きていくのに精一杯だった
この状況に子供が加わってしまうのは、俺の許容範囲が破綻することと同じことだ
最も今の真奈美には口が裂けても言えないが

『そうだよね。初めてエッチしたときからずっとあたしタバコ吸ってないし。今回はたまたまだよね

「ああ、きっとな」

『いっぱい出てたもんね

「ああ

実際の原因は何なのか、俺にはわからなかった
無論、真奈美も同じ気持ちだろう
ただ一つ言えることは、結果として避妊をしない状態でセックスをしたにも関わらず、真奈美は妊娠をしなかったということだ

妊娠しやすい体位というのは証明されていないようだし、そもそも妊娠自体が確率的な問題だという説もあるようだが

『きっと君のおたまも元気なかったんだよ』

そうかもな」

確かに精子の活性度はストレスや食生活に影響を受けやすいと言われているので、真奈美の言うことも一理あるかもしれなかった

『ちゃんとご飯食べてる~?』

「ああ、朝と昼はな」

『あ、やっぱし~。細すぎだもんね』

「メタボよりマシだろ?」

『まあね~。てか、今度さ。元気の出るもの作ったげるよ』

「あ、そう。そりゃ、どうも」

正直なところどうでもよかった
滋養強壮に効果のある料理と言われれば、ある程度見当は尽くが、果たしてその効果がどの程度出るかというのは疑わしかった

『楽しみにしててね~』

「ああ

どうやら真奈美はいつもの元気を取り戻したようだった

とりあえずは一安心といったところだろうか

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