2017/09/07

■66

いつも以上に気だるい朝がやってきた
その理由は言うまでもなく、俺の腕の中に香織がいないこと、そしてシーツに悲しみの染みが出来ているためだった

香織がいなくなってから4~5時間は経っていると思うが、未だに出来たばかりのようにシーツは濡れていた

俺は目の前が曇り始めるのを感じた
涙腺が緩んだのは何年振りだろうか?

映画やドラマの悲しいシーンを見ても、涙を流すことは全くと言っていいほどないが、やはり自分自身に直接起こった出来事とブラウン管上で起こっている出来事との違いだろうか?

いつしか濃霧の中にいるように目の前が白くなった
湧き上がる感情を抑えられなくなっているようだ
涙と共に全て流してしまった方がいいかもしれない



京王八王子駅のホームに備え付けられたベンチに座っている香織
ほぼ放心状態に近い様子だった

構内アナウンスと共に列車が到着した
ドアが開くと同時に、人だかりが一斉に上りエスカレーターに向かって行った
階段を使う人物は皆無に等しかった
まるで、何かに取り付かれているように見える

香織はもちろん見ていなかった
むしろ、見えていなかったという方が正しいかもしれないが…

「おう。香織じゃん。何してんだ?」

我に返ったように顔を上げる香織
若干くたびれた様子の大城がいた
トレードマークになりつつあるバーバリーブラックレーベルのスーツは、しっかりとアイロンがけされているようだった

「うん…。ちょっとね……」

香織は精一杯笑顔を見せるようにした

「ふ~ん…。ちょっとね、か」

ニヤニヤしながら香織の隣に座る大城

「まあ、何があったかなんてぇのは敢えて聞かねぇことにするぜ。言いたくないだろ?」

「…」

香織の目から涙が一滴零れ落ちる
大城はその様子を一瞥する

「最近さぁ、俺もショッキングなことがあってさ。ここ2~3日軽くへこみ気味だったんだわ」

横目で香織を観察しながら話す大城
香織の両目から一滴ずつ涙が零れ落ちた

「俺のダウンで一番稼いでたヤツが他社に行っちまったんだ。それも何の前触れもなく、突然だぜ?しかも、そいつアドレス変えやがったみたいで、もう一切連絡取れなくなっちまった。マジ裏切られた気分だったぜ」

香織は大城の手を握り締めた

「ん?」

大城は香織を見た
香織は涙の浮かんだ目で大城を見つめていた
涙は頬を伝っており、手に滴り落ちていた

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