2017/08/17

■45

スタジオアルタ前にある広場で電話をしている真奈美

「えぇ~?なんでぇ~?今日約束したじゃん。…もしかして、あたしがセミナー途中で帰ったからとかなの?う~ん…。あっ!ちょっと」

電話の切れる音。慌てて架け直すが、呼び出し音が鳴るばかり
タバコに火を点けようとする真奈美
ガスが切れているせいかなかなか火が点かない

「…最悪」



京王八王子駅のベンチに俺と香織は手を繋ぎ、お互い寄り添うように座っていた
時計を見ると、まだ13時だった
にも関わらず既にデート後の仕上げを残すのみというような雰囲気になっていた

「まだ1時なんですね…」

「そうみたいですね…」

「明神さんはどこに住んでるんですか?」

「駅から3分ぐらいのとこに住んでますよ。来ます?」

「そうですね…。行ってみたいですね」

「じゃあ、行きますか」

そう言ってはみたものの、なかなか腰が上がらなかった
どうやらさっきまでの余韻が残っており、動く気が起きなかった

「…私は、もうちょっとこうしてたいです」

香織は俺の手をくすぐるように握り返してきた
香織に限らず女性の手はなぜこんなに柔らかいのだろうか?
男より脂肪分が多いからと言われてしまえばそれまでだが…

確かにまだ仕上げに持っていくには、あまりにも時間的に早すぎるだろう

「明神さんは…下の名前は何ていうんですか?」

香織の声は甘く、うわ言を言っているような感じだった

「崇(タカシ)ですね」

「…タカシ君て呼んでいいですか?」

「いいですよ」

「敬語で話すのも止めにしません?」

「それも、そうだね。…カオリって呼んでいいのかな?」

「…うん」

香織の携帯電話が鳴る

「出なくていいの?」

頷く香織

「…こんなときに電話してくる方が悪いよ」

「それもそうだな」

確かにこの状況だったら俺も電話などに出るわけがない

「だって…。大事な用だったら、電話に出なかったらメールとかするはずだよね?」

「確かに」

香織の携帯電話が先程とは違った音で鳴る

「どうやら、重要な用かな?」

「…邪魔しないで欲しいなぁ」

不満そうに携帯電話を見る香織

「何これ…。真奈美がこんなメール送って来たよ」

「ん?」

香織から差し出された携帯電話を見てみると、『お二人さんラブラブだね~』と書かれており、俺と香織が手を繋いで歩いているように見える後姿の画像が添付されていた
大分遠くから撮ったのだろう
中野サンプラザから帰るときに途中まであとをつけて来たに違いない

「あの子は一体何がしたいのかな…」

「ん~。俺は今日会っただけだから何ともわからないな」

「あれ? 着信は小松さんからだ」

「あの子からじゃなかったんだ」

「何だろう…。今日のセミナーのことかな…」

「たぶん」

「一応電話しとこうかな…」

「だね」

電話を架ける香織
すぐに小松に繋がったようだった
まるで香織からの折り返しを待っていたかのようなタイミングだった

『もしもし』

「お疲れ。電話があったみたいだけど?」

『おお、そうそう。セミナーどうだった?』

「う~ん…。あんまり面白くなかったな。真奈美もセミナーが始まってすぐに外に出ちゃったし」

『そうなんだ。真奈美のアップには会った?』

「いや、会ってないよ。というか来てなかったみたい」

『ダウンが動員してんのに、来ないとはね…。そいつアップ失格だね。今八王子にいるの?』

「今新宿だよ」

明らかに嘘だった
構内アナウンスがかかっていなかったため、小松には嘘だとはわからないだろう

『そっかあ。今日さ、香織ちゃんのグループの子のマケ入ってたんだけど、決まんなくてさ。今度は決めるよ』

「まあ、上手くいかないときは誰でもあるからね」

香織は早く電話を切りたがっているようだった
声のトーンには出てはいないようだったが

『おう。ありがとう。とりあえず状況はわかったよ。じゃあ、また』

「うん。お疲れ」

電話を切る香織

「予想通りって感じ?」

「うん。まあ、アップ的に気になるのは当然だしね。相変わらず話は長かったけどね」

「早く切りたい感が思いっ切り出てたけどね」

「さすが、お見通しって感じ?」

「俺は電話越しで相手の心理とかを読んだりするからね。軽く職業病かもしれないな」

「すごいね…」

「でも、カオリも声には出してなかったよね?」

「うん。そうしないように頑張ったよ。ちゃんと出来てた?」

「問題ないと思う」

「良かった…」

微笑む香織
その笑顔には包み込んでくれるような優しさが感じられた

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