日が落ち始める。
1つ、また1つと街灯が点灯し始める。
辺りに反響するような叫び声をあげながら、全速力で走ってくるヨシキ。
防毒マスクはつけていなかった。
それとなく観察しているものの、何事もなかったかのように業務に勤しんでいるリュウスケ。
…
何かにつまずいたのか、足がもつれたのか、突然倒れるヨシキ。
以後微動だにしなくなる。
ゆっくりと近寄って行き、ヨシキを見下ろすリュウスケ。
「…」
悲しみに暮れた様子でトイレから出てくるサヤ。
全開放状態の玄関。
投げ出された防毒マスク。
ヨシキ…
……
まだ、そんなに遠くには、行ってない、よね…
…
うつ伏せのまま動かないヨシキ。
すでに息をしていない様子。
「…」
ヨシキを見下ろしたままのリュウスケ。
人工知能が1体、背後に近寄ってくる。
「…処理を頼む」
そのままヨシキに近づき、担ぎ上げようとする人工知能。
「いや、待て」
人工知能の動きが停止する。
ヨシキよりも明らかに遅いものの、精一杯のスピードで走ってくるサヤ。
「ここは俺がやる」
立ち去っていく人工知能。
ヨシキのそばでしゃがみ込み、肩を息をしているサヤ。
「スマホで字打てるようになったら教えてくれ」
…
辺りは黒く塗りつぶされており、街灯は全て点灯していた。
リュウスケが操作したのか、人工知能たちが寄ってくることはなかった。
サヤの肩の動きが緩やかになっていく。
「もしかして、彼氏か?」
ぎこちなくスマートフォンを取り出し、文字を打ち込むサヤ。
『はい、そうです』
「何があったかわからんが、生身の状態で、ありえないぐらいデカイ声あげながら走ってきたんだ」
『そうですか…』
「で、力尽きたみたいにここでコケて、それっきりだ」
…
「それはそうと、俺はそろそろ上がりだ。もし、まだそばにいたいなら、ロボットたちを近づけないようにしておくが、どうする?」
…
『実は、私、お腹に彼の子供がいるんです』
「そうか…」
『元々私も働いてたんですけど、声以外にも色々ダメになって働けなくなっちゃって、彼に全て頼るしかなくなっちゃって、でも、収入は増えないし』
「なるほど、そういうことか…」
『こんな世界だし、私も体がボロボロだけど、でも授かった命は育みたいし、生みたい。だから…』
顔を上げるサヤ。
交錯する視線。
「悪いがそれはできねぇ。俺には、アンタを養えるだけの収入はねぇんだ」
視線を外し、立ち去ろうとするリュウスケ。
懇願するようにその手を掴むサヤ。
立ち止まるが、振り返らないリュウスケ。
…
「…無理なもんは無理だ」
…
手を離すサヤ。
そのまま立ち去っていくリュウスケ。
サヤの足元に落ちる防毒マスク。
…
川に何かが落ちるような音が聞こえてくる。
立ち止まるリュウスケ。
「…」
振り返ることなく、そのまま歩いていくリュウスケ。
…
-----完-----
※あとがき的なもの
現在、太陽の黒点はかつてのマウンダー極小期並みか、それ以上に少ないと言われている。
無論太陽の活性度も、それに比例して低い状態にあると言われている。
しかし、地球は温室効果ガスの影響で温暖化が進む一方だ。
つまり、それだけの化石燃料が消費されているということでもある。
今回の世界は、 化石燃料が消費されすぎた結果、重度の大気汚染を引き起こした、あまりにも悲観的な近未来のシミュレーションでもある。
そして、哲学的な視点で見るなら、受動的ニヒリズム極まりない展開でもある。
また賛否両論くっきりなものが出来上がってしまったが、私の創作意欲はまだ衰える兆候がない。
困ったことに、すでに次回作の構想も少しずつ湧き出している。
まだ、どう展開するかは未知数だが、おそらく読者の皆さんの期待を悪い意味で裏切ることはないだろう。
年内に着手できると思うが、それまでは、まだ公開していない旧作を公開しつつ、英語版の電子書籍作成をやりたいと思うので、今しばらく待っていただければ幸いである。
My novel's theme is nihilism. Including the elements are darkness, death, emptiness, eroticism.
2017/06/29
2017/06/19
omen II
勢いよく流れる水の音。
重装備状態のまま、全身を痙攣させながら、トイレで蹲っているサヤ。
はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……
どうしよう…
できた、よね、きっと…
「サヤ、帰ったよ」
驚いて、口元を手で隠して振り返るサヤ。
「サヤ、どうした?こんなとこで…」
無表情なヨシキ。
サヤは怯えたようにヨシキを見つめている。
「なぁ、まさか…。もしかして、まさか、なのか?」
ヨシキは無表情なままだったが、声には責めるようなニュアンスが含まれていた。
サヤはヨシキを見つめるばかりだったが、目には涙が浮かび始めていた。
「どうなんだ!!答えろ!!」
唇を震わせながら俯くサヤ。
涙が一滴、また一滴とこぼれ落ちていく。
「あ、あ…、ああ…、あーーーーーーーーーー!!!!!!」
そのまま飛び出していくヨシキ。
叫び声が、徐々に小さくなりながら、辺りに響き渡る。
重装備状態のまま、全身を痙攣させながら、トイレで蹲っているサヤ。
はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……
どうしよう…
できた、よね、きっと…
「サヤ、帰ったよ」
驚いて、口元を手で隠して振り返るサヤ。
「サヤ、どうした?こんなとこで…」
無表情なヨシキ。
サヤは怯えたようにヨシキを見つめている。
「なぁ、まさか…。もしかして、まさか、なのか?」
ヨシキは無表情なままだったが、声には責めるようなニュアンスが含まれていた。
サヤはヨシキを見つめるばかりだったが、目には涙が浮かび始めていた。
「どうなんだ!!答えろ!!」
唇を震わせながら俯くサヤ。
涙が一滴、また一滴とこぼれ落ちていく。
「あ、あ…、ああ…、あーーーーーーーーーー!!!!!!」
そのまま飛び出していくヨシキ。
叫び声が、徐々に小さくなりながら、辺りに響き渡る。
2017/06/11
omen
日々自殺者が埋葬されているいつもの場所を歩いているヨシキ。
ちょうど家路に向かっているところだった。
時刻は15時。
珍しく業務量が少なく、会社は残り時間分の賃金を受け取らないことを条件とした帰宅希望者を募ることになり、ヨシキも希望を出し、それが通ったのだった。
…
体の大半が白骨化した、顔立ちがヨシキやサヤとよく似た人物。
薄闇に浮かぶ、一糸纏わぬ仰向け状態のサヤ。
微動だにせず、目は固く閉じられている。
…
リュウスケがヨシキを一瞥する。
眼中にない様子で通り過ぎるヨシキ。
…
ちょうど家路に向かっているところだった。
時刻は15時。
珍しく業務量が少なく、会社は残り時間分の賃金を受け取らないことを条件とした帰宅希望者を募ることになり、ヨシキも希望を出し、それが通ったのだった。
…
体の大半が白骨化した、顔立ちがヨシキやサヤとよく似た人物。
薄闇に浮かぶ、一糸纏わぬ仰向け状態のサヤ。
微動だにせず、目は固く閉じられている。
…
リュウスケがヨシキを一瞥する。
眼中にない様子で通り過ぎるヨシキ。
…
2017/06/09
Premonition II
15時。
人工知能やリュウスケが業務に勤しんでいるところに、家路に向かうところなのか、いつもとは逆方向からヨシキがやってくる。
周りの様子など眼中にない様子は相変わらずだった。
リュウスケも業務で身についた習性のためか、ヨシキを一瞥する。
そのまま通り過ぎていくヨシキ。
…
人工知能やリュウスケが業務に勤しんでいるところに、家路に向かうところなのか、いつもとは逆方向からヨシキがやってくる。
周りの様子など眼中にない様子は相変わらずだった。
リュウスケも業務で身についた習性のためか、ヨシキを一瞥する。
そのまま通り過ぎていくヨシキ。
…
2017/06/04
Premonition
はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……
どうしたんだろ……
体が、すっごい重い……
お腹と背中も痛いし……
サヤは足を引き摺るように歩いている。
リュウスケは従来通り業務をこなしているものの、サヤの様子はそれとなく観察していた。
!?
サヤの動きが止まり、力尽きるように膝と両手をつく。
はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……
ウソ……
そんな……
もしかして……
「大丈夫か?立てるか?」
肩で息をしながらも、ゆっくりと体を起こし、顔を上げるサヤ。
リュウスケだった。
一瞬だったが、お互いの視線が防毒マスク越しに交錯する。
…どうしよう、なんか言わなきゃ…
スマートフォンを取り出し、何かを打ち込む動作をするサヤ。
怪訝そうに様子を窺うリュウスケ。
…
打ち込みが終わったようで、スマートフォンを差し出すサヤ。
画面には『大丈夫です。すいません、私声帯がダメになっちゃってて、しゃべれないんです』と表示されている。
「なるほど、そういうことか」
ゆっくりと立ち上がり、再びスマートフォンに文字を打ち込み、差し出すサヤ。
『ありがとうございます。ホントは向こうに行きたかったんですけど、戻ります』
「ああ、わかった。気をつけてな」
力なく頷き、ゆっくりと足を引き摺るように戻っていくサヤ。
…
どうしたんだろ……
体が、すっごい重い……
お腹と背中も痛いし……
サヤは足を引き摺るように歩いている。
リュウスケは従来通り業務をこなしているものの、サヤの様子はそれとなく観察していた。
!?
サヤの動きが止まり、力尽きるように膝と両手をつく。
はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……、はあ……
ウソ……
そんな……
もしかして……
「大丈夫か?立てるか?」
肩で息をしながらも、ゆっくりと体を起こし、顔を上げるサヤ。
リュウスケだった。
一瞬だったが、お互いの視線が防毒マスク越しに交錯する。
…どうしよう、なんか言わなきゃ…
スマートフォンを取り出し、何かを打ち込む動作をするサヤ。
怪訝そうに様子を窺うリュウスケ。
…
打ち込みが終わったようで、スマートフォンを差し出すサヤ。
画面には『大丈夫です。すいません、私声帯がダメになっちゃってて、しゃべれないんです』と表示されている。
「なるほど、そういうことか」
ゆっくりと立ち上がり、再びスマートフォンに文字を打ち込み、差し出すサヤ。
『ありがとうございます。ホントは向こうに行きたかったんですけど、戻ります』
「ああ、わかった。気をつけてな」
力なく頷き、ゆっくりと足を引き摺るように戻っていくサヤ。
…
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