「ダメ!!」
カナミは蠢く右腕を押さえ、飛び退いた
「カナミ?」
「わたしに近付かないで!!うっ!!」
カナミの右腕は、もはや人間のものではなかった
異様に尖った爪
前腕部は鱗に覆われていた
右腕は蛇のように蠢いており、カナミはそれを必死に押さえていた
「…ミナね」
「え?!」
「わたしは逃げも隠れもしないわよ」
女性は、真っ直ぐカナミに視線を向けていた
「ミナが、いるの?!」
向けられた毅然とした視線は、外れることはなかった
「フフフ…。よくわかったね。勘てヤツ?」
外見はカナミのままだったが、顔付きは全くの別人に切り替わっていた
厭世的な雰囲気は一変し、内側に闇や憎悪を抱える禍々しさが感じられた
「わたしはあなたたちの…」
「それ、もう聞き飽きたよ。ったくどんだけ美化すりゃ気が済むわけ?わたしはあの人を愛していたとかさ、あなたたちは決して人体実験のために生まれたわけじゃないとかさ…。で、その結果がこのザマだよ!」
「…」
「確かに主犯はあの男かもしれないけど、アンタも十分共犯だよね。なんせ、あの子に事実を捻じ曲げて伝えたんだから。さも双子として生まれてきたみたいな言い方しやがって…」
「…」
「ボクたちは所詮、アイツのおぞましくて汚ねぇ私利私欲の産物なんだろ?どうなんだ?」
「違う!!わたしは人体実験なんかのために、あなたたちを産んだんじゃない!!」
「…じゃあ、何のため?」
「わかってほしいとは言わない…。わたしは、あの人を尊敬してたし、憧れていた。そして、気付いたら好きになってた…。すごく愛おしかったし、あの人の子供が欲しいって思ってた」
「ふ~ん…」
「それがこんなことになるなんて…」
「…」
「遺伝子操作をされたのはあなたたちだけじゃないの…。わたしの体は、あなたたちを産んだそのときから時を刻むことがなくなってしまった…。あの人は『人間が若々しく美しいのは一瞬だけだ。美しいものが老いて醜くなることは耐え難い』って言ってた」
「ハハ…。ホント狂ってるね、アイツ…。人間じゃねぇや。でもそれに気付けなかった、もしくは、気付いてても見て見ぬフリをした…」
ミナの右手が女性の体を貫通した
「それも同罪だよ」
…
!?
カナミの右腕が、ちょうど心臓の辺りを完全に貫通していた
その知的で美しい顔から、生気がなくなっていった
目は大きく見開かれていたが、やがて眼球は微動だにしなくなった
「あ…、ああ…」
カナミはすぐ右腕を引き抜いたが、既に手遅れなようで、女性の体は力なく前のめりになった
女性を抱きかかえたカナミの全身が、ダークグレーに染まっていった
…
慟哭は、止まることなく辺りに反響し続けていた