2016/10/22

▼96

洞窟内は真っ黒だった
光が入って来ないからではなく、異次元へ通じているからだろう

!!

突如洞窟内から漆黒の闇が吹き出し、2人を覆い尽くした

「実はここって1人しか入れない場所なんだよね。あの女はそれを知らなかったのか、アイツに記憶を消されたかわからないけど、キミと一緒に入っちゃったんだ」

「わたしはもう1つのセカイに行けたけど…」

「そう。あの女は生きてはいたけど、キミも見たように、ああいった形で外界とは接触できない状態になってしまった」

「…」

「さて、こんなとこかな。今までボクのコピーから聞かされたことは、ほぼ全てアイツがでっち上げたってことがわかったと思うけど、どうかな?」

「そうね…」

「じゃあ、そろそろ戻ろうか。キミはまだ表のセカイの住人だからね」

眩しいほどの明るい光が現れる
太陽を肉眼で直視したかのようだった

▼95

そこは、あの森だった
高さ・太さ・枝や、葉の付き方・大きさ・形など、全てが同じ木々

カナミをおぶって、心なしか早足で歩いている女性
これ以上犠牲者を出したくない…
そう思っていたに違いない

「この森には、もう1つのセカイへの入口があったんだ。もちろん、行ったら戻って来れないものだったけど。あの女はそこに向かっていた」

「そこが、あの地下シェルターに通じてた…」

「そうだね。キミは運が良かったと思うよ。あっちのセカイは既にエライことになってたからさ。地上に出てたら、有害物質の雨でひとたまりもないだろうし」

「まさか、ああなったのもアイツの仕業なの?」

「いや、関係ないよ。あっちのセカイは遅かれ早かれ崩壊する運命だった。たとえ大地震が起こらなかったとしてもね。わかるだろ?」

「…それは、そうね」

「止まることを知らない人間のエゴ…。膨れ上がりすぎて、破裂するのは時間の問題だった。人間もやっぱり動物だよね。いや、それだと彼らに失礼か。人間は死ななきゃわからないけど、彼らはそうなる前に回避するからね」

女性の前に洞窟が開いていた
もう1つのセカイへの入口なのは間違いない

女性は立ち止まり、肩で息をしていた
それに合わせてカナミの体も揺れていたが、目を覚ますことはなかった

▼94

まだ原形を留めたガラス容器は、もぬけの空だった

「か…。かは…」

男は目を見開いていた
カナミの腕は、男の体を貫通していた
その腕は硬い鱗に覆われており、人間のものというよりは、モンスターに等しかった

虚ろな眼差しのカナミ
顔色は、次第に生気が失われていき、土気色になっていった

女性は立ち竦んでいた
涼しげな瞳の中に、怯えの色が見えた

「どうやらキミの体の方が強かったみたい。急激な成長促進で命を落とすことなく、アイツの施した遺伝子操作も機能していた」

「…あの腕のことね」

「それ以外ではメタモルフォーゼかな」

「…」

「ディアボロス、ビースト、ベヒーモス…。いずれも強大な力を持ってるが故に、キミの体力と精神力は著しく消耗してしまう」

「代償、ってわけね」

「そうだね。このあとアイツの肉体は死ぬ。アタマはしぶとく生き残ってるみたいだけどね。キミも意識不明状態になる」

「…」

「この状況は明らかに普通じゃない。既に亡骸に等しい状態になったアイツとボク、生きてるかどうか定かではないキミ…。ここであの女は最も本能に忠実な行動を取った」

「わたしとミナを連れ出した…」

「残念ながらそれは出来なかった。女の力で人間の体2人分を運ぶのは無理だ。なので、少しでも生きてる可能性の高いキミを連れ出した。しょうがないよね。まぁ、あの男をどれだけ愛してたとは言っても、所詮は他人だ。ボクとキミは、あの女にとっては血の繋がった存在だからね」

「…なるほど」

「さて、これでだいぶ補完できたと思うけど、まだ気になるとこはあるかい?」

「……わたしは、どこに連れて行かれたの?」

「その前に1つ聞いてもいいかな?キミはこれからどうしたい?」

「え?」

「気付いてるとは思うけど、キミはあの男に利用されてる。ヤツは、とんでもないことをやらかそうとしてる」

「…」

「すぐには出なさそうだね。まぁ、いいや。とりあえず、キミが連れて行かれた場所に行こうか」

キミハコレカラドウシタイ?

カナミの中でこの言葉が何度も反響していた

▼93

あの男が肩を震わせていた
泣いているのだろうか?
それとも笑っているのだろうか?

奥にある2つのガラス容器には、人間が1人ずつ入っていた
カナミとミナなのは間違いないだろう

「ついに…ついにやったぞ!私は天才だ!ひゃひゃひゃひゃ!!」

「なぜ、コイツがこんなに嬉しがってるかわかるかな?生まれた赤ん坊を人為的に双子化することに成功したってだけじゃないんだ。何だと思う?」

「見当も付かない…」

男の狂喜乱舞は当分収まりそうになかった

「成長促進さ」

「成長、促進?」

「ああ。それも20年分ぐらいを一気にね」

「じゃあ、ミナはそのとき…」

「うん。そういうこと」

…!?

ガラス容器が突如青くなった
ミナは断末魔の叫びをあげ、ガラス容器を破壊した
血も凍るような叫びだった

「な、なんと!?」

「仮にボクがキミのクローンだったら、成功してたかもしれないけどね。クローンて全く同じ細胞だから」

もう一方の容器に入っているのはカナミだろう

「キミは昏睡したままだった。急激な成長促進の影響だろうね」

木端微塵に割れたガラス容器
うつ伏せに倒れているミナは微動だにしなかった

▼92

黒と白で彩られた書庫は、永遠に続くかと思われたが、すぐさま開けた空間になった

白衣の男女が抱き合っていた
固い抱擁だった
熱い抱擁だった

黒が主体の空間では、彼らの白がコントラストとしてやたらと目立った

「ここから先が、どうなるかはわかるだろうから、次行こうか。彼らが、どれだけお互いを好きだったとか、愛してたとかなんてどうでもいいよね?結果的に、キミやボクの元となる赤ん坊が誕生した。そして、母体となるあの女は、どのタイミングかわからないけど、遺伝子操作をされて、歳を重ねることがなくなってしまった」

「そうね…」

「女って、基本的に自分より年上で、自分の知らないことを知ってたり、自分の出来ないことが出来る男に憧れを感じて、それがやがて…みたいなのが多いよね。まあ、あの男はそれを巧く利用したわけだけど」

「うん…」

「さて、次だ」

2人はいつの間にか消えていた
場所は病院の手術室のようなところに切り替わっていた

▼91

そこは、全てのものが黒と白だけで構成された場所だった
面が黒、線が白だった

見覚えのある場所だった
洋館の中にある図書室、そんな場所だった

書庫は異様に高かった
小柄なカナミの、10倍ほどの高さだった

ここは、あの人体実験が行われていた場所?

「ここは、2つのセカイが1つになったことで生まれた闇さ。コインの表裏と同じ。どっちかを切り離すことは出来ないってわけ」

ミナの声だった
しかし、姿は見えなかった

「ボクは表のセカイでは既に死んでる。ただ、それはあくまでも肉体がってこと。さて、キミには見てもらわなきゃいけないことがある。そのまま真っ直ぐ歩いておいでよ。まあ、書庫があるから、いやでも真っ直ぐ歩かざるを得ないけどね」

それは、断片化した記憶を補完するものとなるだろう