2016/10/12

▼76

「まさか…。どうやって?」

ミナの言っていたことは、すぐには信じられなかった
記憶では、自分の中に埋め込まれた異形が殺めたはず
だが、ミナがウソを言っているとは思えなかった

「アイツめ…。ボクの記憶を操作しやがったな…。そうとしか思えない」

「…」

「ボクだけじゃない。キミもやられてる…」

それは一部分だけだろうか?
それとも、今までの記憶全てだろうか?

「あの野郎…。…ボクにはわかるんだ。いや、感じるんだ…。アイツが何らかの形で生存してるのが…」

「…まさか、残留思念として?」

「そうかもね。さて、準備は整った。あとはキミに来てもらうだけさ」

ミナは掻き消すように消えた
カナミの視界は、全てがモザイク状になっていった
耳鳴りが激しく鳴り響く

静謐な空間
音という概念が、最初から存在していなかったような場所

倒れたカナミが浮き上がってくることはなかった
目の前は、真っ白なままだった

▼75

アナイアレイション…
カンゼンナルハカイ…

ミナの放った言葉がひたすら反響し続けた

「フフフ…。そうさ、ボクは何もかもぶっ壊したいんだよ。何もかも…」

ミナは見るもの全てを凍てつかせるような、不気味な笑みを浮かべていた
カナミは、自分が衣類を身につけていないことに気付き、慌てて見られたくない場所を隠した
なんとなく身の危険を感じたからだ

「ハハハ、大丈夫だよ。ボクはこんな場所でキミと1つになりたくないから」

「……何もかもって言うけど、もう1つのセカイは既に壊れてる…」

「うん、そうだね」

「だったら、なんでセカイを1つにしようとするの?あとはこのセカイだけ破壊すればいいんじゃない?」

ミナはひたすら含み笑いをしていた
『何もわかってないんだね』と言っているようだった

「言ったろ?完全なる破壊って。それには分けられているセカイを1つにする必要があるのさ。どうしてもね…。それに…」

ミナの周囲が冷え込んでいくのを感じた
目には黒い憎悪の炎が燃え上がっていた

「どういうわけか、アイツは生きてやがるみたいなんだ…」

▼74

カナミは、すぐには二の句が告げなかった

「もっと言うと、ボクはキミの裏の顔ってわけ」

「…人為的に分けられた双子じゃなかったの?」

「アイツはそうしたかっただろうね。なんせ、遺伝子組み換えとか細胞分裂とかの専門家様だからね」

ミナの口元は笑っていたが、目は、言葉にするのもおぞましい、と言っているようだった

「思い出してもごらんよ。あの研究施設にはガラス容器が2つあったよね?人間1人がすっぽりと入るくらいの」

「ああ、そういえば…」

「アイツは、産まれてきた赤ん坊の精神を分離させること、体に得体の知れない何かを埋め込むこと、には成功したけどね」

「…」

「どうやら、ボクとキミはお互いのことが肉眼でも見えるみたいだね。なぜ見えてるのかまではわからないけど。少なくとも傍目には、キミとボクが入れ替わってるように見えてるみたい」

「ミナ…」

「ん?」

「ミナの、本当の目的は何?」

「ボクの、本当の目的、かぁ…」

「わたしと1つになりたいとか、セカイを1つにする、ってだけじゃないよね?わたしにはわかる。ミナには、それ以外にも目的があるっていうのが」

…しばしの間、静寂がその場を支配した
静寂を破ったのは、言うまでもなくミナだった
含み笑いとともに…

「そうだね。じゃあ、そろそろ話しておこうか。ボクの本当の目的、それは…」

ミナの口から聞き慣れない単語が発せられたが、よく聞き取れなかった

「ゆっくり言おうか。アナイアレイション(annihilation)。『完全なる破壊』、さ」

▼73

「ここでは、色のあるものは全てダークグレーなんだね…」

「…だから、何?」

「キミの体は、そのオンナの返り血を浴びているはずなのに、ダークグレーになっているから」

亡骸となった女性の体は、ゆっくりと確実に増えていた水に飲み込まれていた

「…で?」

「死んじゃったね」

「あなたが殺したんでしょ!!」

ミナの口元には薄ら笑いが浮かんでいた
フードで目元が見えないのは相変わらずだった

「まだ気付かないみたいだね」

ミナは被っていたフードを取る

「ボクはキミでもあるし、キミはボクでもある」

ミナは、表情に闇や憎悪が色濃く出ている以外は、カナミと全く同じ顔だった