2016/10/04

▼67

「…大きくなったよね」

「…いつの頃と比べて?」

「あなたがまだ、赤ちゃんだったときと比べて…」

「…よく覚えてない」

「確かにね…」

目眩は治まっていた
しかし、カナミは顔を上げる気にならなかった
女性と顔を合わせる勇気がなかったのだ
彼女の口から語られるだろう、その内容を聞き入れる勇気が…

「わたしが話さなくても、いずれは知ることになると思う…。でも、出来ればわたしの口から、あなたに伝えたい…」

水の高さは、間もなく膝を覆うほどになろうとしていた
ゆっくりとだが、確実に生身の体を覆っていく
透明度のない、ダークグレーの水だった

「…」

カナミは顔を上げた
シャープで整った顔立ちが目に留まった

女性は柔和な笑みを浮かべた
カナミも釣られて口元だけ笑ったような形になった
深い何かに包み込まれるような感覚があったからだ

それは、今まで感じたことのないものだった
柔らかく、何よりも温かった

カナミは水滴が頬を伝っていくのを感じた
それは一粒、また一粒と増えていった
いつしか女性の顔や回りの景色も滲んでいった

水滴は止めどなく流れていた
ダークグレーの水面に波紋がいくつも出来ていった

「カナミ…。あなたはわたしの子よ。ミナは…。あなたの双子なの」


柔らかい体に包み込まれるのを感じた
込み上げて来る感情を抑えるのは不可能だった