2016/10/02

▼65

どれくらい時間が経ったのだろうか?
何時間も意識を失ったままだったのだろうか?
それとも、ほんの数分だったのだろうか?

カナミは意識を取り戻していた
水溜りのような場所に、仰向けに寝転がっているようだった

目に付くのはダークグレー一色の無機質な空間
明らかに先ほどの神殿とは異なる場所だった

カナミは体を起こす気になれなかった
ただひたすらこの無機質な空間を眺めていた
目の焦点は合っておらず、放心状態に等しかった

静かだった
物音1つしなかった
そして、空気の流れもなかった

カナミは体に接する水の量が少しずつ増えていくのを感じた
この水はどこまで増えていくのだろうか?
体を覆い隠すほどの量になるのだろうか?

今は全く考える気力が湧かなかった

▼64

そこは、カナミが生きてきた約20年の歳月で、見たことも聞いたこともない場所だった
1度たりとも…

目に付くものは、どこかの神殿と思われるようなものばかりだった
色は全てダークグレーだった
無機質で妙に透明感のある色だった

カナミは体を起こした
そこで初めて気が付いた
自分が衣類を一切身に着けていないということに…

ちょ…!?
なんで??
いつから!?
誰が!?
何のために??

「忘れたのか?ここはそなたの内面や意識が具現化した場所だということに」

カナミの背後からベヒーモスの声が聞こえてきた
振り返る気にはなれなかった

「…我がやったわけではない。ってことでしょ?」

「フッ。我は人間ではない。従って人間の女には興味などない」

「…」

沈黙がその場を支配した
あのベヒーモスのことだ
カナミの前に回り込んでくることはないだろう
根拠はなかったが、確信はあった

カナミは振り返ってみた
手で隠すところは隠して…

??

ベヒーモスの姿は影も形もなかった

カナミは辺りを見回してみた
結果は同じだった

…もしかして

カナミは目を閉じ、ベヒーモスの姿をイメージした
一目で強烈な印象を与える風貌だったため、頭の中で思い描くのは容易かった
そして、その出来上がったベヒーモスに自らの意識を同化させていった

「フッ。合格だ。さあ、目を開けるがよい」

カナミはゆっくりと目を開いていく
目の前に大きな鏡が出現していた
そこに映っていたのはベヒーモスの姿そのものだった

「我の力が必要なときはいつでも呼ぶがよい」

鏡に映っていたベヒーモスが消えた
カナミは自身の体が人間に戻っていくのを感じた

急激に精神力を使ったせいだろうか?
目の前が歪んでいくのを感じた
そして、意識を失った

▼63

カナミはいつの間にか気を失っていたことに気がついた
引き込まれる勢いがあまりにも凄まじかったためだろう
高所から落ちたときもこのような感覚なのだろうか?

わたし、気を失ってた?
ここは…どこ?

カナミは背中が地に付いているのを感じた
そして、息を止めていなくても問題なく呼吸が出来る状態であることも

わたしは確かに水中に引き込まれたはず…
ここは水中じゃないってこと?

カナミは目を閉じていた
目の前は青ではなく黒だった

目を開けたら今度はどのような光景が広がっているのだろうか?
カナミはまだその心の準備が出来ていなかった

「ほぉ…。さすがだな…」


聞き覚えのある声だった

「…これはあなたの仕業なの?」

「フッ。我以外にこのようなことが出来る者がいるとでも?」

「相変わらずもったいぶるの好きね。で、ここはどこなの?まさか湖の底だったりとか?」

「それはそなた自身の目で確かめるがよい。我が語るより説得力があろう?」

「…」

カナミは少しずつ目を開け始めた

▼62

不測の事態だったが、カナミは水中に引き込まれた際、息を止めるのを忘れなかった
思わず目も閉じてしまったが…

水が体内に入り、肺にまで入ってしまった場合、タダでは済まない
引き込まれてしまったものはやむを得ないのだ
勢いからいって、無闇に抵抗したところでどうにもならない

仮にカナミの足に巻き付いているものを振り解いて水面に戻ったとしても、根本的な解決にならないのだ
かと言ってこのまま引き込まれ続けた方がいいというわけではないが…

カナミを引っ張り続ける勢いは衰える気配がなかった
この湖はどれだけ深いのだろうか?
目を開けるのはこの勢いが弱まってからの方がよさそうだ

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この湖はどれだけ大きいのだろうか?
カナミはやっとの思いで水面に辿り着いたが、目に映るのは水と空、そして地平線だった

これじゃ、どこに向かえばいいかわからない…

太陽の高さを見る限り、今は正午ぐらいだろう
下手に動かない方がよさそうだが、日が落ちると見通しが悪くなるのは確実なため、出来れば少しでも地に足が着く場所に移動したかった

!?

カナミは足に触手のようなものが巻き付いたのを感じた
それと同時に凄まじい勢いで水中に引き込まれてしまった

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まだなの?
一体どれだけ深いの?

光が降り注いでいるのは確認できていたが、カナミがいた場所は思った以上に深かったようだ
周りが青一色だったためか水面との距離がいまいち取れなかったのだ

く…
息止めてられるのも、限度があるって!

光の加減から、ようやく水面に近付いてきたようだった
しかし、カナミは気付いていなかった
底の方から近付いて来ている大きな得体の知れない影に…