2016/09/27

▼57

湖面は恐ろしく青かった
「深遠な青」という表現が相応しかった
青以外の色が入る余地はなかった

対岸は地平線のようだった
まるで海の地平線を見ているかのようだった

湖面にはさざ波1つ立っていなかった
深夜または廃墟内で感じるのとは違った静謐さがあった

カナミはこの青と同化したかのような錯覚を感じた
湖面に全く動きはなかった
しかし、辺りはいつの間にか青一色となっていた
「深遠な青」に飲み込まれたようだった

湖に落ちた?
だとしたら全然息苦しくないのはなぜ?

カナミは足元を見た
青以外の色は見えなかった

試しに体から力を抜いてみた
体が浮き上がるような感覚があった
やはりここは湖の中なのだろうか?

水泳のクロールのように手足を動かしてみた
水の中を泳いでいるような感覚があったが、青一色のためどの程度進んでいるかは全くわからなかった

▼56

太陽の出現とともに気温も上昇してきた
目を覚ますカナミ

いつの間にか眠っていたようだった
いつ眠りに落ちたかは覚えていなかった

霧は晴れていた
まるで霧など最初から発生していなかったかのようだった

目の前には湖が広がっていた
かなり大きかった
近くで見ると対岸は間違いなく見えないだろう

湖面は青かった
どちらかと言えば「紺碧」に近かった
おそらく透明度が高く、急激に深くなる場所があるため、青以外の光の反射が少ないのだろう

カナミは「もっと近くで見たい」という衝動を抑えることなく、湖畔へ向かった

▼55

霧の発生元はくり貫かれたような地形になっていた
俗に言う「盆地」だろう

霧は濃く、足を踏み入れると全てが真っ白に見えるのは想像に難くなかった
下手に先に進まない方がいいだろう

月や星の明かりがあるとはいえ今は夜なのだ
それに何が潜んでいるかわからない
木が突然体を貫こうとしてくるぐらいだから油断大敵だ

でも涼しい…

カナミにとっては束の間の休息だった
日中との気温差・霧に含まれる水蒸気が思いのほか心地良かった

▼54

辺りは月明かりと無数の星によって夜とは思えないほど明るかった
今までが暗すぎただけかもしれないが…

カナミは辺りを見回してみた
見渡す限り似た地形ばかりなのは言うまでもないが、日中と大きく異なる点があった
それほど遠くない場所に霧が発生している場所を見つけたのだ

池か湖でもあるのかな?

その憶測はあながち間違いではないだろう
霧は気温の高い日中に水が蒸発し、日没とともに急激に気温が低下することで、空気中を漂っていた水蒸気が小さな水粒となって空中に浮かんだ状態なのだ

カナミは霧の発生元に向かってみることにした
何らかの水源があれば、かねてから望んでいた「涼む」が満たされるのは確実だ

▼53

太陽が沈む
太陽と月が入れ替わる時が来た

気温が急激に下がり始めた
この調子なら地表が冷えるのも早いだろう
溜まっていた熱の放出も早いに違いない

だいぶ涼しくなってきたわね
25℃ぐらいかな?

辺りは暗くなってきた
木々がなくなったため、漆黒の闇とはならなかった

カナミは空を見上げてみた
無数の星が見えた
星の並びから何らかの星座かと思われたが、残念ながらよくわからなかった

…星ってこんなにもハッキリ見えるものだったのね

地下で暮らす前にも星空を見たことはあったが、地球は大気汚染がかなり進行していたため、今回のように見えることはなかった

▼52

日差しは強かった
カナミは優しさの欠片もない日差しだと思った
少し動くと頭がクラクラしそうだった
肌にも刺すような痛みがあった

太陽は中心部で水素の核融合を起こし、ガンマ線を発生する
ガンマ線は高温のため、固定されずに飛び交っている電子や陽子により直進を阻害される
直進を阻害されたガンマ線は、近くのガスに吸収されてエックス線として放出される
エックス線は、ガスへの吸収と放出を繰り返し、直進できるほどの外側部に到達したころには可視光線や赤外線、紫外線となる
これらが太陽光として放射されているのだ

地球に到達するまでに紫外線は成層圏のオゾン層で90%以上がカットされる
可視光線、赤外線も、大気圏中での反射・散乱・吸収などによって平均4割強が減衰し、地上に到達する

おそらくこの太陽光は、これらの物質が地球のそれよりも多いに違いない
いたずらに動き回るのは体力の消耗を早めるだけだ
夜になってから動く方が賢明かもしれない

▼51

太陽が昇る
月ほどではないが、地球にいるときに見えたものより若干大きく見えた

暑い…

今までは高さのある木々に覆われているおかげで気温が一定に保たれていたのだろう
カナミは全身にじっとりと汗をかき始めていた
現時点の気温は少なく見積もっても35℃はあるに違いない

カナミは汗をかきにくい体質だったが、気温が30℃を超えるとじわじわと汗が滲み出て来るのは自覚していた

…早く涼める場所を探さなきゃ

見渡す限り焼け野原になってしまったこの場所では難しいのは言うまでもない