2016/09/03

▼25

カナミは言われるがまま戻ることにした
あの場所には何らかの手がかりになりそうな情報が1つも見つからなかったのだから無理もない

研究施設なのだから報告書や資料の類があるかと思ったが、その手のものは何もなかった
元々なかったのか、何者かが処分したのかまでは無論わからない

今までの展開からすると、元来た道を戻ったはずなのに全く雰囲気の違う場所にワープするものかと予想していたが、それは見事に裏切られた
何事もなくエレベーターの前に辿り着き、ボタンを押すと何事もなかったかのように開いた

▼24

「驚いたかい?これは当時の状況を再現してみただけさ」

「…悪趣味」

「人聞きが悪いなぁ。キミがいいとこまで思い出してたもんだから、その答えを出してあげたのに」

「あなたもわたしと同じように人体実験のサンプルだったのね」

「ああ…」

心なしかミナの声のトーンが低くなった気がした

「ミナ?」

緑だった液体が突如青くなった
それと同時にミナは断末魔の叫びとしか言いようのない叫びをあげ、ガラス容器を破壊した

「な!?」

「残念ながらこっから先は覚えてないんだ。意識を失ってたから」

割れたはずのガラス容器は何事もなかったかのように元に戻っていた
容器に入っていたカナミもいなくなっていた

「あ、そうそう。あの男はセカイでも指折りの学者だったみたいだよ。確か細胞分裂とか遺伝子組み換えとかの専門家だったんだとか」

どこからともなくミナの声が聞こえてくる
姿は見えない

「このあとボクが意識を取り戻したとき、あの男は死んでた。んでキミも、どっちの手だかわからないけど、片手が真っ赤に染まっていた。んで真っ赤な液体がポタポタと滴り落ちてた。たぶんあの男の血だと思う。キミは人形のように無表情だった」

「…」

「さすがに言葉が出なかったよ。身の危険を感じたからね。ボクも同じようになってしまうんじゃないかって」

「わからない…」

「それはそうだろうね。あのときの表情は何かに取り憑かれたみたいだったから」

「でも、わたしもミナも生きている…」

「うん。それは紛れもない事実だ。でも、これ以降のことは覚えてないんだ。どうやらまた意識を失ったみたいなんだよね。気が付いたら、どこかの洞窟みたいな場所にキミといた。そのときのキミは息をしてなかった」

「じゃあ、ここにいるわたしは一体…」

「キミは確かにカナミだよ。どうやらあの男はキミの細胞というか遺伝子に何か得体の知れないものを埋め込んだんだと思う。それが何なのかはボクにはわからない」

「…」

「細胞とか遺伝子もそうだけど、生きているものに絶対はないと思うんだよね。キミの暴走は完全に想定外だったはずさ。それを思い知らされるための代償が自分の命だっていうんだから、皮肉だよね」

「…」

「さて、この辺にしておこうか。まだ何か思い出せそうかい?」

「…わからない」

「焦らなくていいよ。時が来れば全て明らかになることだから。とりあえず、ボクはセカイを1つにしたいだけだから。じゃあ、来た道を戻っておいでよ」

ミナの言うことはウソのような本当の話なのだろうか?
それとも本当のようなウソの話なのだろうか?
真実はカナミ自身で確かめるしかなかった

▼23

「気がついたみたいだね」

ミナの声だった
どこにいるかはわからなかった

「…」

「ああ、そうだよ。キミはさっきいたところと同じ場所にいるよ。ここはある男のおぞましきエゴに塗れた醜悪な研究施設さ」

カナミの目には天井がハッキリではなく、ぼんやりと映っていた
薄暗い緑色の光に照らされたレンガ造りの天井だった
先ほどまで視界に入っていた液体の色と酷似していた

「緑の液体…、白衣を着た男…、肩を震わせてた…」

「少しずつ記憶が戻ってきてるみたいだね。ほかに見えたものはあるかい?」

「…いや、それだけ」

カナミは体全体が浮いているような感覚があった
ありとあらゆる感覚が麻痺しているような感覚だった
全身麻酔をされるとこのような感覚になるのだろうか?

「まだキミは断片的な記憶が少しずつ戻って来ている状態だ。おそらくあるときを境に一気に戻ってくるのか、このまま断片状のものが同じように戻ってくるのかはわからないけどね」

「わたしは、人体、実験、だったの?」

「そうだよ。全てはあの男の私利私欲によるものさ」

カナミはだいぶ意識がハッキリとしてきたのを感じた
麻痺したような感覚も収まってきた

「起き上がれるかい?もし起き上がれるんだったら面白いものが見られると思うよ」

カナミは体を起こすことにした
やはり手術台と思われる場所に乗せられていたようだった

「ボクはここにいるよ」

例のガラス容器にミナが入っていた
内部には先ほど視界に入っていた緑の液体が容器いっぱいに入っていた

「そしてキミもね」

さすがのカナミも驚きを隠せなかった
もう一方の容器に入っていたのがカナミだったからだ

▼22

意識が薄っすらと戻ってきた

…どうやら緑の液体の中にいるようだ

…体は動かなかった

正確に言うと、麻酔によって麻痺しているような感じだった

視界には、白衣を着た学者のような身なりをした男の後姿が入った
男は肩を震わせているようだった
笑っているのか?
泣いているのか?
よくわからなかった

再び意識が遠退いてきた…
目の前が再び白くなっていく…

▼21

降りた先は何かの研究施設のようだった
ここはLEDの灯りが間接照明のような色合いだったせいか、若干有機的な印象だ

至るところに試験管やビーカー、フラスコが乱雑に置かれていた
また、棚には医薬用外劇物ないしは毒物と思われるものが大量に並んでいた
かつては化学的要素の強い研究を行っていたことだろう

ここも生物の気配が感じられないわね
ミナ、だっけ?
あの子はここは別のセカイだって言ってた
別のセカイもあっちと同じように人間の住めないセカイになってるってこと?

…!?

奥に進むにつれて様相が変わってきた
そこは西洋の洋館内にある図書室のような場所だった
書庫の高さは天井ほどだった
収められた書籍は分厚く、悠久の歴史を感じさせるものばかりだった

ここで終わりみたいね

まるで病院の手術室を彷彿とさせる場所だった
病院との違いは、書庫で囲まれていること、大人の人間が入ることが出来る大きさのガラス容器が2つ設置されていることだった

何に使ってたのかな?

…うっ!?
目の前がクラクラする?!

ここから逃げ出そう



え?!

ボクたちは人体実験


人体実験って??
あ、頭が…痛い!?

カナミは目の前が白くなっていくのを感じた

▼20

エレベーターは降りる階を指定することができない直通タイプのものだった
イメージとしては搬入や搬出に使用するエレベーターだろうか

どうやら上に向かっているようだ
エレベーターが動き出すとき、上の階に向かうときの一瞬体が浮き上がるような感覚があったからだ

エレベーター内は静かだった
まるでデパートにある直通エレベーターに乗っているようだった

ここもLEDの灯りは白く無機質だった
床も壁も天井も全て同じ作りだった



どうやら到着したようだ
エレベーターが止まるときの上から押さえつけられるような感覚があったからだ

▼19

カナミはひとまず道なりに歩いてみることにした
残念ながら宝箱は見当たらない
武器や防具も落ちている形跡もない

しかし予想に反して、歩き始めて視界に入ってくる景色で同じなのはLEDの灯りと無機質な空気感のみとなった

当初視界に入っていたのは、迷路のように入り組んでいる空間だった
それが進むにつれて一本道になっていった
後ろを振り返っても一本道があるのみだった

なぜ先ほどは迷路のような空間が視界に入ったのだろうか?
単なる目の錯覚なのか、それともミナと名乗る人物の仕業だろうか?

程なくしてエレベーターと思われる扉が目に付いた
どうやらこのエレベーターは正常に動作するようだ
ボタンを押すと音もなく開いた

この状況での選択肢は「乗る」以外にないのは言うまでもないだろう

▼18

この空間は視界に入る景色が全て同じだった
そのため、気を抜くと方向感覚が麻痺する危険性があった
カナミのいた場所は、見渡す限り出入口らしきものは何1つなかった

そもそも出入口自体あるかどうかが問題よね
しかもモンスターがいるって?
でも、何かがいそうな気配はしないわね
ひょっとしてゲームみたいに宝箱が置いてあって、武器とか防具が手に入るとか?

1つ確かなことは、この場に留まっていても状況は何も変わらないということだ