2016/08/31

▼15

50階は最上階ということもあり、展望台のような施設だった

カナミはこのフロアに足を踏み入れたのが、今回が初めてだった
まさかセカイが崩壊してから来ることになるとは、皮肉なものだ
しかも自らの意思ではなく、状況的にやむを得ないというのだから尚更だ

フロアは無機質で人の気配はない
そして、なぜか何事もなかったかのように整然としていた
無論崩落している箇所は皆無だった

なんか違和感あるわね…
上手く言えないけど…

「さすが。察しがいいね」

どこからともなく声が聞こえてきた
それと同時にフード付の黒いローブを着た人物が、非常階段の出入口に鍵をかけていた

「ちょっ!何してんの!?」

「見ればわかるだろ?てか本来聞きたいことはほかのことなんじゃない?カナミちゃん」

その人物はカナミを全く見ていなかったが、「カナミがどこにいるか」「カナミの一挙手一投足」「カナミの感情の揺れ動き」は全て把握しているようだった

「…あなたは誰?どうしてわたしの名前を?このビルは20階より上はなくなったはずなんじゃ?」

「フフ…。ずいぶん冷静なんだね。さすがあの崩壊から10年も生き延びていただけのことはあるね。でも、残念ながらその質問には現段階では答えられないな。ボクは、キミのことを忘れたことは1度もない…。そう1度も…」

どういうこと?
訳がわかんない…
わたしはあなたのことなんか知らない

カナミの心の内を察したかのように、その人物は向き直った
フードを目深に被っているせいか顔がよく見えなかった

「キミはキレイだ…。キミはかわいい…。キミは可憐だ…。キミはいじらしい…」

「うっ!?」

カナミは胸を何かに貫かれるのを感じた
すぐさま意識が遠退いていった
目の前もじわじわと黒くなり、やがて漆黒となった

「フフ…。キミはボクのもの…」

▼14

結論から言ってしまうと、非常階段は50階まで続いていた
しかも、21~49階までも全て開かずの間だった

ちょうどカナミは50階に辿り着いたところだった
不思議なことに天井や壁はどこにも損傷が見当たらない

やはり最初から20階より上も存在していたのだろうか?
それとも、本来ならなくなっているはずの階が、何か非科学的な現象に巻き込まれたことによって見えているのだろうか?

これは本来なら目に見えないはずの残留思念が実体化しているセカイだけに、十分起こり得る話だ

カナミはなかなか呼吸が整わなかった
走ったわけではなかったが、段差を上り続けるのはそれなりに体力を消耗する

ったく…
ホントに50階まであるなんて…
もし、ビルの管理人がいたら文句言わなきゃ

それには目の前にある扉が開くことが最低限必要なのは言うまでもない

▼13

開かない?

カナミは非常階段から20階へ入ろうとしていた
しかし、扉は開くことはなかった

階段はまだ上に続いている?

確かこのビルは20階より上の階は全て吹き飛んだ、もしくは崩落したという話だった
しかし非常階段は整然と、まるで崩壊など最初からなかったかのように上に続いていた

20階より上がなくなったというのはウソ?

ウソかホントかはこの際どうでもよかった
厳然たる事実としてあるのは「非常階段が何事もなかったかのように存在している」ということだ

行ってみるしかないみたいね
まさかこの階段、ホントに50階分あったりしてね

カナミにとってはそれもどうでもいいことだった

▼12

カナミは走り回ったわけでもないのに肩で息をしていた
ちょうど19階まで来たところだった

残留思念のいない階はなかった
事実上の最上階まであと1階
まさに八方塞に等しい状況
しかも1つ判断を間違えば自らの命を落とすというオマケも付いていた

「死ぬのは仕方がない。でも、殺されるのはいや。たとえ残留思念だったとしても」

確かなことは、19階までが既に残留思念に占拠されている、ということ
なぜ?どうして?はこの状況では全くの無意味
何の解決にもならない

少なくとも非常階段は安全なようだ
現時点での選択肢は1つだけ

「このまま非常階段を上り、最上階である20階に向かう」

それだけだった

▼11

カナミが1階に戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた
今までビル内に侵入して来なかった残留思念たちが大量にいたのだ

なぜ?
なぜ今頃?
どうやって?

考える間もなく、残留思念たちはカナミが生身の人間だと認識すると、一斉に襲いかかってきた

殺される!

すかさず非常階段へ逃げ込んだ
無論、扉を閉めるのは忘れなかったが

どうやら残留思念たちは扉を擦り抜けることはできないようだった
しかし、油断はできない
少なくとも、これで地下に戻るという選択肢がなくなってしまったのだから、必然的に残った階のいずれかを新たな拠点とするしかない

おそらく残留思念たちはエスカレーターで繋がっている3階までは全て占拠しているだろう
安全な場所は必然的に4階より上の階ということになるが、10階までは前述のようにとてもではないが、拠点足り得る場所ではなかった

10階より先は地下と同等の場所があるのかどうなのか
この状況では考えるだけ無駄だった

▼10

非常階段は非常灯が灯っており、思ったより明るかった
さすがにシェルター並みとは言えなかったが、闇よりはマシだろう
少なくとも足場は確認できるのだから

まだ食料はダンボール1箱分残っていたが、順番に上の階を探索することにした
食料がなくなってから動くのでは遅い、とカナミは考えていた
上の階に食料があるという保障はどこにもない
仮になかったとしてもそのまま地下に戻ればいいのだ

カナミはとりあえず4~10階までの様子を確認した
このビルはオフィスビルだったが、このあたりの階はクリニックや飲食店が入っていた

しかし食料はなく、地上から近いということもあり、核爆発の影響が大きかったせいか、かつての面影は全くなかった

だが、これはカナミにとっては想定内だった
あくまでも状況を探るというのが目的だったため、少なくともそれは達成できたわけだから