2016/08/30

▼9

フフ…

やっと動き出すんだね

待ち焦がれたよ

あれから10年も経つんだね

まさかキミがあの地下で10年も生きてたなんて…

でも、いいさ

キミはキレイだ…

キミは美しい…

キミは可憐だ…

キミはいじらしい…

キミはボクのもの…

さぁ、早くボクの元においで…

▼8

ビル内は生命の吐息の感じられない無機質且つ静謐な空間となっていた
かつては多くの人間が出入りする場所だったが、その人間たちがいなくなることで、無機質ぶりがより顕著になった

1階はロビーの面影が多少は残るものの、爆風で崩れた箇所が大半だった
しかし、天井は一部を除いてほとんど壊れていなかった

なお、残留思念たちはなぜかこのビル内には1体もいなかった
外界との仕切りとなるドアや窓等が1つ残らず吹き飛ばされており、化学反応で発生した蒸気も入ってきているので、それに紛れて侵入するのは容易なはずだが

無論、カナミにとってそれらはどうでもいいことだった
このビル内にいれば有害物質や残留思念によって、命を落とす危険はないのだから

ロビーはこの蒸気によって、見通しが若干悪かったが、目視でどこに何があるかまではおおよそ把握できた

エレベーターは電力系統の影響で使えない
エスカレーターは本来の機能は果たしていないものの、階段としては使える
しかし、3階までしか通っていなかった
唯一それより上の階に行けるのは非常階段のみだった

カナミは気が向いたときにちょくちょくビル内の探索はしていた
探索をしたのは3階までだったが、目ぼしいものは何もなかった

不必要に出回るのは得策でないと考えていたのと、足元が暗い非常階段を上り続けることに意味を感じなかったのだ

しかし、残された食料が少なくなってきていることもあるため、いつまでも地下にいるわけにはいかなかった

▼7

地下シェルターは廃墟と化した高層ビルの地下に作られていた
外観の大半は崩落しており、かつての面影はない

このビルは50階建だったが、セカイ崩壊時の核爆発の煽りを受け、20階建になってしまった
無論電力系統も全て麻痺したが、地下シェルターの自家発電機能は生きていたため、灯りを得たり、暖を取ったりすることができた
また、水道の機能も生きており、お湯を沸かすことも可能だった

それがどのような仕組みで動いているかの詳細まではわからなかったが
わかったところで、雨が止むわけでもなければ、残留思念が消えることもない
ならば知る必要もない

カナミはそう考えていた
物心ついたときからそのような考え方だった

正しいか正しくないかはこの状況では意味のないこと
少なくともこの場で生きているのはカナミのみなのだから

▼6

ニンゲンて愚かだよな

なぜ今まで起こってきたことを教訓にしようとしないんだろうな

そもそも自然の力はニンゲンごときにコントロールできるようなちっぽけなもんじゃない

想定外、想定外っていうけど

それって当たり前のことなのにな

コントロールできると思ってるから、そういう発言が出るんだよな

思い上がりもいいとこだ

青く光り輝く美しい星でなくなったのは、いわば自業自得

▼5

カナミはセカイ崩壊以降、ずっと地下のシェルターで暮らしていた
暮らしていたというよりは生き延びていた、という方が正しいかもしれないが

ほかの人間たちは皆死んで残留思念となってしまった
ある者はセカイ崩壊とともに
ある者は有害物質の雨に浸蝕され
ある者は残留思念に生命機能を停止され

皆、より安全でより食料の多い場所を求めていた
だが、地上の状況はあまりにも悪すぎた
何もかも崩壊してしまったこのセカイは人間の力などではどうにもならない

「バカな人たち…。ここにいればまだ生き延びられたかもしれないのに…」

カナミの判断は正しかったようだ
ある意味、ほかの人間たちがいなくなったからこそ、備蓄の食料が底を尽くまでの期間が長引いたのだ
まさかこの10年、地下で生きることになるとは思わなかったが

そもそもこのシェルターは災害時の一時避難用として用意されたものだ
長くとも1~2年程度生活することを想定したものになる
無論、備蓄の食料もその程度の量しかない

このセカイ崩壊および有害物質の雨・残留思念は想定外のものだが、リスクを冒してでもより安全な場所に移動した方が得策と考える人間たちばかりだったことに、カナミは憐れみさえ感じた

「でも、わたしだけ生き延びることになったのはなぜ?」

備蓄の食料は残すところダンボール大2箱のみとなった

▼4

希望なき理想郷…

まるでこのセカイを象徴するかのようだ…

インターネットをはじめとした科学技術の急速な進歩…

だが、オレも含め人間は進歩していない…

むしろ退化しているのではないかとすら思える…

科学技術はある意味、便利さを追求する人間のエゴにより産み出されたもの…

その科学技術に人間が翻弄される形になるとは…

皮肉でしかない…

この肥大化した科学技術は人間たちのエゴの象徴…

留まることをしない人間たちのエゴ…

それが破綻をするとき…

オレも死んでいたいものだ…

▼3

ねぇ…
なんでこんなことになっちゃったの?

この街にはもう誰もいない
外はずっと雨が降ってて、とても出歩けるような状態じゃない

ねぇ…
なんでわたしだけ生き残っちゃったの?

この街はもう死の街…
生命が誕生するサイクル自体が失われてしまっている

ほかの場所に行けばまだ生きている人たちがいるかもしれないけれど
どうすればいいのかわからない…

地下同士は繋がっていないみたいだし
仮に繋がってたとしても、ここより安全かどうか保証できないし
雨が止んだとしても、外には至るところに残留思念がいる

雨は防護服で長時間は難しいけれど、多少なりとも防ぐことが出来る
だけど、残留思念はそういうわけにはいかない

残留思念たちは外傷を与えることはないけれど、生命活動の源となる部分を即時停止しちゃうみたい
で、そうやって死んでいったありとあらゆる生物がみんな残留思念化していく

食べ物も残り少なくなってきちゃった…
あと何日持つんだろ?

▼2

なぜこのような状況に陥ったのだろうか?

セカイ崩壊の引き金は大地震だった
それは今まで世界各国で発生していたものとは比較にならないほどの規模だった

明確な原因は解明されていないが、地中に埋まっていた石油やメタンハイドレートなどの資源が枯渇することにより、激しい地殻変動が起こり、それが引き金となって引き起こされたと言われている

その揺れは全世界を巻き込んだ
そして、各国が軍備として保有していた核兵器を全て爆発させてしまった

そこから大量の核物質が漏れ出たのは言うまでもない
10年が経過した現在でもそれらが雨として地表に降り続いているのだから、相当な量だ

地球は既に死の星と化していた
生命の息吹や鼓動はおろか気配すら存在していなかった

なお、崩壊が著しい都市部では多くの残留思念が徘徊していた
死んだ人間たちだろう

よほどこの世に未練があるのだろうか?
崩壊以降増え続ける一方だ

▼1

現在はセカイ崩壊から10年ほど経過した状況
しかしながら、崩壊からの復興は遅々として進んでいない

特に都市部の崩壊が著しい
崩壊時に大気中に飛散した多量の有害物質は雨となり、今も地表に降り続いている

地表に落ちると何らかの化学反応を起こすせいか、溶けるような音に加え、蒸気と異臭も発生していた
それによって辺りが見舞わせないほどだ
濃霧に覆われている状態と言えばわかりやすいだろうか

なお、セカイ崩壊からこの雨が止んだことは1度もない

いつ止むのか?
そもそも止むということがあるのか?

土砂降りというほどではないが、梅雨時のような長時間降り続ける類いの雨だった
雲は分厚く、太陽の光は完全に遮断されている

あのときから地表に陽光が注ぐことは、当然ながらない
気温は常に氷点下近い
おそらく標高の高い場所は雪になっているだろう

地球は太陽系の中では数多くの生命に恵まれた彩りも美しい惑星
このように言われていた頃が懐かしい