2016/08/20

※37

セミナーが終わったあとは、私のグループメンバーのフォローを、近くにあったベローチェでコマツさんにやってもらった

やっぱりコマツさんはすごかった
みんなの士気を高めるのがホントにうまい

そのときの私はコマツさんを知れば知るほど好きになっていく感じだった
どんどん嵌って行くっていうのかな…

フォローが終わったのは夜の11時ごろだった
こういう状況だったら、私じゃなくても期待しちゃうよね…
ラブラブ出来るかもって…

まあ、でも新宿駅までみんなと一緒だったから、あるとしたら八王子かなって感じ
ちょうど、電車待っているときは2人きりだったし…

電車は終電が近いこともあって、結構人が乗っていた
そのせいかどうかわからないけれど、並んで座っているのにコマツさんはほとんど話さなかった

まあ、私はコマツさんと一緒にいられるだけで幸せだったから、特に寂しいって思うことはなかったけれどね

「直紹介の子たちかなりいい感じだね。3ヶ月もあれば乗数の法則が働いて、最低でも30人ぐらいになると思う」

ちょうど高幡不動っていう駅から電車が発車したときだった
車内の人口密度も一気に減ったので、コマツさんは人がいなくなるタイミングを見計らってたみたい

「ホントに?」

「ああ、直紹介が直紹介を連れてくるっていう連鎖が起こり出したら早いね。オレも全面的に協力するよ」

「…ありがとう」

このときすごく胸が熱くなった
それと同じくらい私の中のオンナも熱くなっちゃってた…
恥ずかしい部分を触られたら、それだけでびちょびちょになっちゃうほどだった…

「あ、あとさ…」

「ん?」

「…ちょっと言いにくいことなんだけど…」

「うん…」

これだけ歯切れの悪いコマツさんは初めてかもしれなかった
私にとって都合の悪いことだっていうのは想像ついたけれど…

「マナミがさ、オトコに走りやがったんだよ。しかも、オレが直紹介したマコトとくっ付いたんだ」

確か、コマツさんからアフターのときに1回だけ紹介されたことがあった
タイプ的にはマナミととてもよく似ていた気がした

マナミは恋多き人生を進むタイプなので、『それだけ?』と思ってしまった
トパーズには恋愛禁止令でもあるのかな?
それとも直紹介した人を寝取られた腹いせ?

「別にオレは恋愛禁止令とかはやってないけど、今まで色んな連中見て来て、メンバー同士でくっ付くと、必ずと言っていいほど共倒れになるんだよ。人間て何だかんだで楽な方に流れるもんだし」

「逆に彼氏が出来ることで2人3脚ってことにはならないの?」

「そうなるケースはビジネス始める前から付き合ってたっていうパターンだけだね。もちろんこのビジネスがきっかけで付き合って、結果もバンバン出ればホント言うことなしだけど、実際はそれとは逆の状態にしかならないもんだよ」

「…そうなんだ」

「もうアイツはセミナーに来ないし、カオリちゃんがフォローとかマケとか頼んでも応じないのは間違いないね」

正直なところ納得は出来なかった
理由はわからないけれど…

コマツさんの言っていることは正論だとは思うし、色んな人を見てきた上で言っていることなので間違いはないのもわかる
でも…

「信じたくないって気持ちはオレも同じだよ。でも、信じざるを得なかった。アイツ、マコトとヤッてるときにオレに電話してきやがったし。声聞いたときにすぐわかったよ。コイツヤッてたなって」

別に信じたくないってわけじゃないんだけどな…
どっちかって言うと、信じられないって感じ?

う~ん…
でも、それだけじゃないんだよね…

なんかコマツさんの言うことを聞き入れられない自分がいる
なんでこういう気持ちになったかわからないけれど…

「決定的だったのが、アイツこんな画像を送ってきやがったんだ。合成とかはしてないはず」

それはベッドにうつ伏せの体勢でいると思われる素っ裸のオトコの後姿だった
よく見ると、その背中にマナミのと思われる手があり、もう片方の手に携帯電話が握られていた
どうやって撮ったのだろうか?

「たぶん、天井が鏡みたいになってるラブホだったんじゃないかな。あと、こんなのもあるぜ」

今度のはマコト君とマナミが同じように全裸で抱き合ってディープキスをしている画像だった
マナミは睨みをきかせるみたいなカメラ目線だったけれど…
まあ、これはウソではないなって思った

※36

オレは渋谷と原宿を結ぶ、確かキャットストリートと呼ばれている遊歩道が好きだった

大通りの喧騒から一歩中に入るイメージだ
多少の別世界感を味わえるのがよかった

昼間は人通りが多いが、仕事が終わった18時半から19時ごろは適度に人気があるので、散歩をするにはちょうどいい
20~21時ごろは路面店が閉まり始めるので、寂れて来る

それだと逆にあまり居心地がよくない…

カオリとはよく来たことがあるが、マナミとはない…
なぜかふと思い出した…

※35

確かタカシと初めて会ったのは新宿文化センターのセミナーだった
コマツさんがオオシロ君を直紹介してから、1週間ぐらいで動員してきてた

ちょうど私も直紹介を4人して、グループも大きくなってきてて、オールモストが一番楽しいときだったな…

タカシはコマツさんほど背は高くなかったけれど、体形的には細身の長身そのものだった
セミナーに来たときは私服だったけれど、上も下も靴とかも黒で統一してて、しかもよく似合ってた

黒みたいな濃い色って人によってはその色に負けちゃうけれど、タカシはそういう色が映えるタイプだった
そういうのを分かった上でコーディネートしてそうだったから、センスがいいんだろうなって…

まあ、その日は初対面だったし、私もコマツさんにメンバーのフォローをお願いしてたからじっくり話すことはなかったけれどね
あと、結構警戒心が強いというか人見知りなのかなって思った

顔は笑うけれど、目は笑わないみたいな感じ…
自分の弱みを見せなさそうだし、人に心を許すこともほとんどなさそう…

でも、目に力があったし、肌もキレイで、何よりも独特の雰囲気があった
今まで付き合ってきたオトコたちとは一味も二味も違うものを感じた…

とは言っても、このときはまだコマツさんに対する気持ちというか想いの方が強かったから、すぐに付き合うとか体の関係を持つとかになるとは思っていなかった
セミナーから帰るときにコマツさんからあのことを聞くまでは…

※34

田町での仕事は9時から18時の定時で上がれる。まるで公務員のようだ…
なのに、収入に加えて仕事のラクさは明らかに上がっている

この世は不平等というか不均衡というか…

現実問題、生き延びるにはお金が必要だ
ならば、ないよりはあった方がいい
選択肢も増える

何よりもお金を持っていなさそうな連中が出す、貧乏神を具現化したような空気感が嫌いだった

見るとすぐわかる…
お金に好かれていない感が出ているのが…

※33

あのときの私、絶対どうかしてたな…
今じゃあり得ないぐらい頑張ってた気がする

ていうかこの会社、ホント夢も希望もないよね
なんか毎日がいつも同じって感じ。昨日も今日も明日も…

まあ、まだここから直接雇われてないだけいいか…
業務委託ってヤツだし

あ~あ
まさか、中退した大学の近くで仕事することになるなんて、絶対なんかのイヤガラセだよね
ランチのときに行ける場所限られちゃうし…

そういえば、あれからもう1年ぐらい経つんだっけ
早いなぁ…

私、このまま30になって40になって、みたいな感じで終わっちゃうのかな…
ずっとここにいたらそうなっちゃいそうだけど

ホント、あのときほど波乱だったときはないって感じだった
まさか半年ぐらいで今まで付き合ったことのないタイプのオトコ3人と付き合うとは思わなかったし
で、その誰とも結ばれてないし…

もちろん1人目はコマツさん
色々な意味で一番理想的だったけれど、彼には奥さんも子供もいたし、私は所詮都合のいい相手

でも、そうとわかっていてももしかしたら…みたいな期待はあった。
叶わなかったけれどね…

私が確か1ヶ月半ぐらいで直紹介4人を達成したときにコマツさんとは最初で最後のエッチをした
前戯、本番、後戯に限らず私が感じちゃうポイントを的確に攻めてきたし…

ちょっと力は強かったけれど、気持ちよかったし、何よりも普通に逝って終われたのがすごく良かった…

今までのオトコは、ただ私の上でとにかく力任せに動くだけ
ハッキリ言って痛くて…
逝ったフリをする気にもならなかった

コマツさんとの一夜があまりにも良かったから、私はもっとしたかったんだけど、あれ以降は一緒に帰るようなことはあっても、誘ってくれることはなかった

もちろん私から誘うこともあったけれど、いつも「オレは妻子持ちだから」って断られるばかりだった…

まあ、しょうがないないかって思ってはいても、体は疼いてばかりで、すごく欲求不満だった
そんなときにコマツさんが直紹介してきたオトコがいた

オオシロ君っていうコマツさんと同い年のオトコで、まさかエッチすることになるとは思わなかったけれど、そのときはちょうど2人目のオトコとすごく納得のいかない別れ方をしたあとで、心に空いた穴を埋めるためみたいな感じでやっちゃったんだよね…

まあ、1回で終わっちゃったけれど…

もちろん流れ作業みたいで気持ちがいいわけもなく、タイプ的には2人目のオトコと似ているところもあったけれど、トータル的に好きになれなかった…

私は基本的に元カレとやり直したいって思うことはないんだけど、唯一の例外がコマツさんの次に付き合ったオトコだった

オオシロ君が直紹介してきたオトコでミョウジンタカシという人だった
コマツさんみたいに強烈に魅かれたっていう感じではないけれど、気付いたら誰よりも好きになってた…

彼と過ごした時間は未だに色褪せることなく心と体に記憶として残っている…
まさか田町で再開できるとは思わなかったな…
もしかして、同じところで仕事してたりしてね…

タカシはあのときと変わっていなかった
少しだけ、前より表情に影が増えていたぐらい
私の気持ち、タカシは察してたかな?

※32

「なぁ、前から聞こうと思ってたんだけどさぁ…」

「なぁに?」

「自分さぁ、仕事してんの?」

「なんでそんなこと聞くの~?」

「いつも帰ってくると、当たり前のようにいるじゃん?気にならない方がおかしくね?」

「え~。いちゃいけないの?だってぇ、今月はまだアレが来ないってことは、妊娠してるってことじゃん?そんな状態で仕事なんて出来ないよ。ストレスとかでお腹の赤ちゃんに悪いじゃん。タカシだって元気な赤ちゃん見たいでしょ~?」

「ああ…。そうだな…」

正直どうでもよかった…
また、心にもないことを言ってしまった…
完全に職業病だ…

世間一般の普通と呼ばれる方々はこういった状況を素直に喜べるのだろう…
オレは既に感情が枯渇しているか凍りついているかのどちらかになるのだろう…

いつからそうなったのかはわからない…
気付いたらそうなっていた…
そんな感じだった

「タカシ?」

視界には入っていなかったが、マナミがオレの顔を覗き込んでいるようだ
オレの反応が逐一気になるのだろうか?

マナミと視線を合わせる気は起きなかった…
正直、最近はこうやって凝視されることにうんざり気味だった…

※31

『設定については何度も試してみてます!!対応エリアに入ってることも確認済ですって!!』

だから?
こっちのせいってこと?

てかさ、何度もメールしてんだろ?
うちらでわかるのは契約状態が正常かどうかってことだけだっつうの…
バカは死ななきゃ直らんってホントだな…

『違います!確かにそちらで申し込んだ無線LANです!機械もレンタルしてます!繋がらないのに料金だけかかるっておかしくないですか?』

いつも思うんだけど、あんたちゃんと利用規約読んでんの?
使ったか使ってないかじゃなくて契約したかしてないかで料金が発生するものなんだがなぁ…
賃貸契約みたいなもんなのにね…

しかも何を勘違いしてるのか、うちを通して申し込んでるサービスじゃねぇし…
ああ~、めんどくせ!

※30

「タカシ、だよね?」

ちょうど森永製菓のビルで仕事上がりの一服ならぬ一杯としてコーヒー牛乳を飲んでいたところだった
いつもはすぐ帰るのだが、今回は偶然そういう気分だった

カオリは基本的に変わっていなかった
よくありがちな付き合ったり、別れたりで別人のように雰囲気が変わることはなかった
強いて挙げるなら、表情に少し影が出ているくらいだった
オレと別れたことが直接の原因なのかはわからないが…

「ああ、久しぶり…」

カオリはまだやり直したいと思っているのだろうか?

「相変わらずだね…」

一瞬笑顔が見えた気がしたが、すぐに消えた

「ん?ああ、そうだな…」

その言葉の真意が図りかねた
考えすぎだろうか…

「…」

カオリが何か言いかけたように見えた

「とりあえず、元気そうで良かった…。じゃあ、またね…」

基本的にカオリは思っていることをなかなか言おうとしないところがあった
今回もご多分に漏れずだったが…

そして、どういうわけかオレの心にも言い様のないざわめきが発生していた
もう1度やり直したいということだろうか?
それとも、単なる肉欲だろうか?

すぐに答えは出せなかった
そもそも出す必要性がないかもしれないが…

※29

シャノアールに入るとコマツがタバコを吸っているのが見えた
言うまでもないが、そこにはマナミもほかのビジネスメンバーもいなかった
完全にコマツを独り占めできる状況だった

来る途中、それほど遠くない場所にラブホテルと思われる建物が見えた
カオリはもう少しオトコが喜びそうな下着を着てくれば良かったと思った

コマツはやや疲れているようにも見えたが、カオリの存在に気付くと思わず釣られて微笑してしまうような屈託のない笑顔を見せた
カオリは下半身が疼き始めるのを感じた

「お疲れ様です。まあ、ビジネスの話と言っても別に硬い話をするわけではないので、リラックスしてください」

「あ、はい」

カオリは内面を見透かされたと思い、ドキッとしてしまった

「大丈夫ですか?緊張してるように見えますけど?」

「まさかコマツさんと二人で会うことになるなんて思わなかったので…」

「そうですか…」

コマツは吸っていたタバコを消し始めた

「…コマツさん」

「はい…」

「私になんかお手伝い出来ることはありますか?」

「お手伝い、ですか?」

「なんか、いつもすごく忙しそうじゃないですか。今日とか特に。なので、私に出来ることがあればって思ったんです」

「そうですねぇ…」

どうやらコマツにとっては思い掛けないことだったようだ

「あと…。私…」

「わかってますよ」

「え?」

カオリは顔が赤くなるのを感じた

「であれば、まずは直紹介を4人してください。交換条件とかではないんですけど、何よりもカオリさんが稼げるようになりますし、それに併せて自分も稼げるようになるので。理想は3ヶ月ぐらいで出来ると一気にグループが増えます」

「わかりました」

旨く乗せられた気がしないでもなかったが、それほどカオリの中でコマツの存在が大きくなっていることの証明でもあった

※28

カオリの携帯電話が鳴る
コマツからだった

「もしもし」

『お疲れ様です。コマツです。もう帰った感じですか?』

「あ、まだ、です。今、八王子駅のエスカレーター、です」

『ああ、そごうのとこですよね?』

「あ、そうです」

『今日はすいません。新規の人が多かったので。セミナー終わったあとのすかいらーくにいたのも知ってたんですけど』

「ああ、気にしないでください。なんか忙しそうでしたし、マナミも帰っちゃったんで」

『そうでしたか…。このあとって空いてますか?』

カオリは胸が高鳴るのを感じた

「はい…。大丈夫です」

『じゃあ、南口のシャノアールに来てもらってもいいですか?』

「初めてコマツさんと会った場所でしたっけ?」

『確か、そうですね』

「わかりました」

『このビジネスは話しても話しても話しきれないことがいっぱいあるので』

カオリの頭の中はコマツと精神的に肉体的に距離を縮めることでいっぱいになっていた