2016/08/13

※10

マナミの言っていたその仕事はJR八王子駅南口にあるシャノアールで聞くことになった
店内は開けたような作りになっており、席同士の間隔も広かった

駅前という立地の割には人の入りは少なかった
1階が本屋になっており、店自体は2階にあるからだろうか?

眉毛からフェロモンが出ていると言われたその青年実業家はコマツという男で、確かに満更ウソでもないかもしれなかった
むしろ、全身からフェロモンというよりはオーラのようなものが出ていた

身長は180センチぐらいで、おそらくブランド物と思われる高価そうなダブルのスーツを着ていたり、金色のジッポでタバコに火を点けたり、ルイヴィトンのボストンバックを持って来たりしていたが、いわゆる成金的な厭らしさは感じなかった

「自分は元々金持ちじゃないですよ。4~5年前ぐらい前に、そのときはまだフリーターだったんですけど、出来ちゃった結婚してますからね」

「ギャル男だったんでしたっけ?」

付け足すようにマナミが言った
事前に打ち合わせをしたかのようだったが、特に違和感はなかった

「そうなんですよ。ガングロでしたし、髪型とか色はスーパーサイヤ人でしたし」

「え!そうなんですか?」

言われてみればそのような面影もある気がした

「でも、言われなきゃわかんないですよねぇ~」

「ああ、よく言われるね」

コマツは心なしか苦笑しているように見えた
確かにマナミのリアクションはいかにも演技をしているかのような不自然さが多少感じられた

「…さて、じゃあ、本題に移りましょうか。カオリさんて呼んでも大丈夫ですか?というかマナミちゃんからは苗字は聞いてないので」

「あれ?そうでしたっけ~。すいませ~ん」

マナミは悪戯っぽく笑って誤魔化していた
『オンナは愛嬌』という言葉がピッタリ当てはまるような笑い方だった

「は、はい。大丈夫です・・・」

カオリは少し緊張していた
声も喉に異物が引っかかっているかのようにすんなりと出なかった
咳払いをするほどではなかったが…

「仕事の話はどこまで聞いてますか?」

「とりあえず、スゴイっていうことしか聞いてないです。あとは、1年か2年後には働かなくても生活していけるようになるってことぐらいですね」

「なるほど。そうすると、内容は全然聞いてない感じですよね?」

「はい…」

マナミは『内容喋ってないからわかるわけないし』とでも言いたげにニヤニヤしていた

「わかりました。一言で言ってしまうと、流行らせる仕事です」

「え?流行らせる、仕事…ですか?」

「そうです。おそらく初めて聞く仕事だと思います。普通の仕事、例えば事務とか営業とかみたいに求人したりはしないので。もっと言うと、今日この場でセッティングがなければ、もしかすると一生聞くことがないかもしれないぐらいの情報でもありますね」

マナミはコマツの一言一言に同調するように、深く頷いてみたり、小刻みに頷いてみたりしていた
カオリも思わずつられてしまいそうになったが、いきなり流行らせる仕事と言われてもよくわからなかった

何を?
どのような形で?
そもそも学生の自分にも出来るのだろうか?

頭の中で色々な疑問点が出ては消え、出ては消えを繰り返していた

「大丈夫だって。高卒のあたしに出来るんだし。コマツさんだって大学中退してるし。そうでしたよね?」

コマツは『喋り過ぎだ』と言わんばかりに苦笑していた

「そうなんですよ。まあ、中退せざるを得なかったっていうのもありますけどね」

「だから、カオリって結構頭いい大学行ってんじゃん。出来ないわけないって」

「カオリさんて学生なんですか?」

「はい。今3年です」

「コマツさん。別に気にしなくていんじゃないですか~?カオリはあたしとタメですよ」

「う~ん…」

一瞬だが、ポーカーフェイスだったコマツの表情に困惑の色が見えた

「え。学生だと出来ないんですか?」

「別に学生証のコピーとかって出さなきゃダメみたいなのってないと思うんですけど?」

いつになくマナミから生きるか死ぬかの瀬戸際にいるかのような必死さが感じられた
カオリはなぜマナミがここまで必死になるのか、今まで見たことのない形相だっただけに余計にコマツの言っていたその仕事が気になった

コマツの持つ圧倒的なオーラや佇まいに惹かれるものを感じたのは言うまでもないが…

コマツはマナミとカオリを見比べながらしばらく考えていたが、全てを見透かしたかのように微笑し、閉ざしていた口を開いた

「わかりました。確かに学生証の提出などはやっていないですが、自分の信条としては学生の人には伝えないことにしているんです。理由としては、この仕事というかビジネスがあまりにもすご過ぎて学校を中退したり、中には学生であることを隠してこのビジネスをやる人間もいたりするからなんです。しかし今回は、もちろんこの場ではないですけど、特別にお話ししたいと思います。土曜日にBIZ新宿っていうところで自分がこのビジネスについてのセミナーをやることになっていますので、そこに来てもらえればと思います」

「はい」

「6時でしたよね?」

「確かそんな感じだったと思う」

「大丈夫だよね?カオリ?」

「うん」

不安がないわけではなかったが、カオリの中ではコマツとの距離を縮められるかもしれないという期待感に似た感情の方が強かった

※9

「ねぇねぇ。久しぶりにご飯でも行かない~?」

突然訪れた別れに失意の日々を送っていたカオリに、高校からの親友でもあるマナミから電話があった

確かに久しぶりだった
カオリは大学に進学したが、マナミは家庭の事情などもあり、定職には就いていなかったようだが、既に働いていた

そういった立場の違いもあり、連絡は取ってはいたものの、会うことは滅多になくなっていた
とは言え、大抵の話題は誰と付き合って別れてといったことだった
多いときは1ヶ月に10回ほどそういったメールが来たことがあった

カオリも恋愛が長続きしないタイプだったが、さすがにマナミほどではないと思っていた
終わってしまうのは自分に合わせることが出来ない男の方に原因があると思っていた

「あぁ~。確かにそういうのもあるよね~」

「でしょ?ホント困るよね」

「何か、カオリってそういう男ばっかだよねぇ~」

「うん。私は相手に合わせていける方なんだけどね」

「まぁ、モテてるうちが花だよね~。もっと楽しんだ方がいいかもよ。カオリはキレイ系だし、スタイルとかもいいんだからさ~」

「…うん。ありがと」

昔からマナミの言葉には不思議な説得力があった
まず心にもないことは言わないタイプだったし、思っていることを相手の心に響くように伝えることが出来るからだろう

「あ、そうそう。あたし、最近ね、スゴイ人に会って、スッゴイ仕事の話聞いちゃったんだ~」

「え?スゴイ人?スゴイ仕事?」

カオリには何のことだかすぐにはわからなかった

「そうそう。そのスゴイ人さ~。何の仕事してると思う~?」

「さぁ…」

いきなり言われても検討が付くはずがなかった

「青年実業家なんだよ~」

「え?青年、実業家?」

聞いたことのない職業だった
カオリは大学を卒業したあとは一般企業でOLをやることになるのだろうと思っていた

それに一生働くことはなく、遅くても20代後半には結婚をして、子供が出来て、主婦をやりながら小遣い稼ぎをパートや派遣ですることになる
そのように漠然と思っていた

「そうだよ~。青年実業家~。ってよくわかんないよね」

「うん…」

「まっ、それはあたしもおんなじなんだけど~。とりあえずイケメンなんだよね~。もちろんただカッコいいってだけじゃなくて、オーラがほかの男と違うんだよね~。眉毛からフェロモン出てるし♪」

「へぇ~。そうなんだ」

一体どのような人物なのだろうか?
マナミはどちらかと言えば面食いなところがあるので、ルックスは間違いなくいいだろう

「ねぇ、カオリ・・・」

マナミの目付きが急に鋭くなった
目鼻立ちがハッキリしており、目にも力があるタイプなので、カオリは思わずマナミをジッと見てしまった

「就活すんの?」

「ん~…」

思いがけない問いかけだったため、すぐに言葉が出てこなかった

「もう冬だし…。そろそろ動いた方がいいかなとは思ってるけど、あんまり気が進まないんだよね」

「ふ~ん…。そうなんだ~。てっきり、フツーに就職すんのかなって思ってたよ」

「そう?なんで?」

「ん?カオリは大学行ってんじゃん。まぁ、みんながってわけじゃないけど、あたしの中では大学行く子って、そのままフツーに就職して、結婚して、みたいな感じなんだよね~」

「ああ。確かにそれはあるかもね。でも、私は何かそれだけじゃ面白くないかなっていう気持ちもあるんだよね」

「ふ~ん…」

マナミはルイヴィトンのシガレットケースからタバコを取り出し、火を点けた
ライターは銀色で細長かった

「まぁ、何も会社に入るのが人生の全てってわけじゃないしね。今は色んな働き方があるし」

「うん。それもそうだね」

「あたしも今はキャバとか色々やってるけど、さっきちょこっと話したサイドビジネスってヤツで1年か2年後には働かなくても生活していけるようになるし」

マナミのタバコが残り3分の1ほどの長さになっていた

「へぇ。そんなにスゴイ仕事なんだ」

カオリはチラリとマナミのタバコを見る
マナミもその視線に気付く

「あ、こんなに短くなってるし~。ま、いっか」

灰皿でタバコの火を消すマナミ

「気になる~?」

「ちょっとね」

「ちょっと、なんだ~」

マナミはニヤニヤしていた
まるで『ちょっと、じゃなくてすごくでしょ?バレバレだし~』と言っているかのようだった

「うん。ちょっとだけ、ね」

「あ、そぉ~?」

「そうだってば!」

「じゃあ、教えてあげないっと」

「別にいいもん~」

カオリは相手に主導権を取られるような状況が好きではなかったが、本当はとても気になっていた
結局は後日、マナミに教えて欲しいとメールすることになったが…

※8

「タカシが…いっぱい入ってる…」

マナミの声はかすれていた

いつも以上に締りが良かった…
無論、湿り具合やお互いが擦れ合う感覚も…

粘りつくような、子ネコが鳴くような喘ぎ声…

擦れ合う速度が上がっていく…

「タカシぃ~…」

絶頂間近のようだ…

………

「すご~い…。ドクドクいってるね♪」

今回の結果はどうなるだろうか…