2016/08/11

§30

日が落ちていく
ダークグレーで廃墟のような街並が黒くなっていった
温度も下がってきたせいか、立ち上っていた陽炎も消えていった


日が落ちた
街など最初からなかったかのように、ただ黒く塗りつぶされた空間があるだけだった

無音だった
気流もなければ、生命の気配もなかった

そこには、静寂と闇があるだけだった



----完----

§29

濁流は激しくうねっており、全てを飲み込み、押し流してしまうかのようだった
俯せに浮かんでいるシュウが見えた
暴れる素振りは一切なかった

「これも必然か…」

キウェインだった
ちょうどシュウのいた場所だった


橋から身を乗り出し気味だったシュウは、そのまま頭の重みで、自然に落ちていった
キウェインは遠目に、何をするともなく、傍観するように、立っていた

迫り来る、荒れ狂う流れ
目は、飛び出しているかのように見開かれていた
口は三日月型になっており、言葉にならない何かを呟いているようだった

雲1つない青空
太陽は、冷たくプラチナ色に輝いていた


翌日、海に男か女かわからない遺体が浮かんでいるのが発見された
髪を含め、全身に毛らしきものが生えていなかった
身元を確認したところ、シュウだということが判明した

また、その翌々日、行方不明で捜索されていたカナエが、シュウの部屋で遺体で発見された
付着していた指紋から、シュウが素手で絞殺したようだった

なお、机には自治体から、3日以内に貧民街へ強制送還するため、自宅待機していること、守られなかった場合は、命の保証はない、という旨の通知が置かれていた

§28

カナエは、仰向けのまま、目を見開いたまま、微動だにしなかった
瞳孔は開いており、何をしても収縮、膨張することはなさそうだった

「バイバイ…」

シュウは、カナエの目を静かに閉じた
焦点の合っていないような眼差し
口元には歪んだ笑みが張り付いていた

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音は、全く聞こえなくなっていた
雨戸の隙間からは、微かに日の光りが漏れていた

§27

カナエの手が、情のない機械的な、しかし無駄のない的確な動きで、シュウの、下半身で最も敏感な場所を弄っていた

シュウは眠っているようだったが、口元には薄ら笑いが浮かんでいた

フフ…
大っきくなってきたね…

あ…
なんか出てきたよ?
これなぁに?

シュウはうっすらと目を開ける

黒い、無機質な、宝石のように輝く瞳
細身で、白く透明感のある、滑らかな触感をした素肌

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音
テンポはかなり速かった

日の光り、月の明かり
いずれも届かない部屋

カナエは、シュウの背中や二の腕を力の限り、指が食い込むほどの力で掴んでいた
機械的だった喘ぎ声が1オクターブ程度上がり、艶やかだった

シュウの動きはこれまでで1番早く、激しく、情熱的だった
背中に浮かぶ汗は、止まることがなかった

汗で光る、白く透き通るような素肌
形の良い胸の膨らみ
程よい肉付きをした、長く線の綺麗な脚が、シュウの脚に巻き付いていた

「もぉ〜、激しい〜」

!?

シュウの目の前にいたのは、あの小柄で細身の、黒目の割合が多い女性ではなく、取り立ててスタイルがいいわけでもなく、綺麗でも可愛いわけでもなく、何をやっても中途半端で、ただ目の前にあるもの、やってくるものをこなしているだけ、という印象の、カナエだった

§26

列車が「3区」に到着した
人はほとんど乗っていなかった

シュウは、濡れていない箇所を探すのが難しいほど濡れていた
足元には水たまりが出来ており、重くなった髪からは水滴が滴り落ちていた

瞬き1つしない、焦点の合っていないような眼差し
口元には歪んだ笑みが張り付いていた


車内に雨の音が響いていた
降り続く土砂降りは、収まる気配がなかった

ガラスには大量の水滴が付着していた
滲んだ黒と、明かりと思われる黄色が所々に混ざっていた

!?

カナエだった

「…どうしたの?すごい濡れてるけど?」

「…いや、…なんでもない」

肩を突かれて、驚いたように振り返ったシュウの、焦点の合っていない眼差しは、怪訝なカナエの視線を避けようとしているせいか、不自然に泳いでいた
口元の歪んだ笑みも、上手く隠すことが出来ず、左の口角だけ上がっており、顔全体が引き攣っていた

「……これから帰り?」

「…ああ」

2人は、「10区」に着くまでの約40分、一言も口を開かなかった
「4区」や「7区」でも乗ってくる人間は疎らだった
土砂降りが列車を打つ音は、大きくなるばかりだった