2016/12/05

●7

静かな雨音を掻き消すような轟音が響いてきた
これまで続いていた不毛な景観に、セルリアンブルーの水が流れる、対岸が見えない大きな滝が現れた



アッシェンの姿はどこにも見当たらなかった

「まさか、滝壺にでも落ちたと思った?」

「!?」

リオの振り返った先に、アッシェンが、ずっとその場にいたかのように立っていた

「どうしたの?ずいぶん驚いてるみたいだけど?」

これまで言葉の存在を知らなかったかのようなアッシェンが、確かにしゃべっていた
しかし声は、明らかに自らを不可視物質またはダークマターと名乗っていたそれだった

「…」

「フフフ…。じゃあ、順番にいこうか。アッシェンはあくまでアッシェンだ。この子が最初からダークマターだった、ということはない」

「…どこかで、乗り移ったの?」

「正確に言うと、同化したって感じかな」

「…あの森に来たときには、もう?」

「そうだね」

アッシェンは無表情で、どこかを見るともなく見ているような眼差しのまま、瞬き1つしなかった

「…その目、あのときと同じ…」


漆黒の水面が細波だっていた

アッシェンの髪が風になびいていた
リオはアッシェンに倒され、肩の辺りを掴まれて身動きができない状態だった



互いの視線が交錯していた
セルリアンブルーの瞳は、赤い景観に混ざることはなく、本来の色に見えた


「フフフ…よく気付いたね」

「でも、だとしたら、そのあとはどこから喋ってたの?」

「あれかい?あれはホントに池から喋ってたよ。で、あの子との同化も、あのときは解除してた」

「…」

「ほかにはあるかい?」

「…」

辺りには滝の轟音が響いていた
雨は降り続いていたが、異形となってしまったアッシェンは全く濡れていないように見えた



アッシェンの脚に力が入ったように見えた

「!?」

錯覚ではなく、間違いなくアッシェンはじりじりと近づいてきた

「…」

リオは、アッシェンを凝視しながら後退りしていた
アッシェンの口元に歪んだ笑みが浮かんだ

「!?」

水が滝壺に落ちる音が、一段と大きく聞こえた
これ以上の後退りは、そのまま落下することを意味していた

アッシェンは、手を伸ばせば届くほどの距離まで近づいていた

「何を怯えてるんだい?」

「いや…、来ないで…」

リオの瞳は潤んでおり、白目は赤黒くなっていた

「その感じだと、ボクも赤いかい?」

「…」

リオの唇は震えており、目には赤黒い液体が溢れていた

「そんなに悲しいかい?フフフ…それには及ばないよ。だって、キミの胎内には」

「いや!!」

リオは目を閉じて激しく首を振った
赤黒い液体が頬を伝っていた

「フフフ…、じゃあどうするの?」

「…」

リオはゆっくりと目を開けた
赤黒い水たまりに、無機質に輝く黒目が浮かんでいるようだった



リオの足が静かに後退りをした
体は頭の重みで、轟音の中に向かっていった

「無駄だよ。キミはボクのもの…。逃れることなんてできやしないのさ…」

アッシェンは不気味な薄笑いを浮かべていた

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