2016/12/31

Monologue

あ…

あ、あ、あ…

あん!



ヨシキ、今日も激しい…

でも、ここ最近はなんか違う…

なんだろう…

愛されてるんじゃなくて、当たられてるような感じ…

う!



仕事でよくないことでもあったのかな…

それとも、私が声を失って、体もボロボロになっちゃって、働けなくなっちゃったから?



もしくはその両方?



ヨシキ…

2016/12/29

Time of obligation

薄闇に覆われた空間。
荒い息遣いが反響している。

白く浮かび上がっているヨシキの後ろ姿。
背中には力の限り掴んでいる手、足には程よい肉付きをした足が絡みついている。

サヤだった。
ヨシキは身長が165cmほどだが、サヤの全身はその後ろ姿に、完全に覆い隠されていた。

中肉中背の体が前後・上下に激しく動いている。
荒い息遣いに低めの唸り声が加わり、背中に大粒の汗が浮かんでいく。

サヤの指はその背中に食い込み、足も解くことができないほど絡みついていく。
いずれも小刻みに震えていた。



反響し続ける荒い息遣いと低めの唸り声。
しかし、本来なら上がるはずの高めの喘ぎ声が、全く上がってこなかった。

2016/12/28

Ashen planet

漆黒の宇宙空間に浮かぶ灰色の惑星。
ちょうど金色の惑星と赤色の惑星に挟まれる位置にあり、所々が薄くなっている以外は、全て濃くなっていた。

かつては、多種多様な生命が生存する青い星と呼ばれていたのが嘘のような状態だった。

2016/12/27

●0

対岸が見えないほどの大きな滝だった
滝壺に落ちる水量も膨大で、落差は100mほどだったため、落下速度が早く、轟音とともにおびただしい水煙が立ち上っていた

これまで昼夜問わずセルリアンブルーだった水が、ターコイスブルーに変わっていた
雲に覆われているときも色が変わらないことから、光の反射によるものではないようだった

滝の裏には洞窟があった

太陽光の届かない、暗闇、ひんやりとした空気に覆われた場所ではなく、ターコイスブルー一色だった
所々から、上を流れる川からのものと思われる水が漏れていた
湧き水のように壁面を伝うばかりでなく、小さな滝のように落ちてもきており、川のような場所もあった

洞窟の最深部は、滝が流れておらず、開けており、湖のような、ターコイスブルー一色の水たまりがある静謐な空間だった



リオとアッシェンは、ターコイスブルーの水中で抱き合っていた
何も身につけておらず、手首には切り傷ができていた
既に体中の血液が全て流れ出たのか、傷口からは何も出ておらず、全身は蒼白だった



----完----

2016/12/26

●19



小刻みに震えていたリオの背中が、上下にゆっくりと動き出した

アッシェンが顔を上げた
谷間に埋めていたせいか、目から下はほぼ全て赤黒くなっていた

リオは優しく微笑し、アッシェンの目の下を舐め始めた

「…汚しちゃったね。キミの胸、赤黒くなっちゃった…」

リオは何も言わずにアッシェンを見つめた
潤んだ黒目は、赤黒くなっていた白目を隠すほどの大きさになっていた



セルリアンブルー一色の静謐な空間に、お互いを感じ合い、愛し合う声や音がいつまでも響いていた

2016/12/25

●18

「…ミナ、痛い、よ」

「やっぱ、り…、……ミ?」

反響していた嗚咽が、少しずつ、段階的に弱まってきた

「違うよ…。あたしはリオだよ」

「…キミは、いつ、この世界に生まれたの?」

「たぶん、20年ぐらい前だと思う」

「…」

「何か、あったの?」

「アイツが…、世界を1つにしやがったんだ…」

「…アイツって、あの、白衣着た?」

「ああ…」

「でも、カナミに殺されてるんじゃ?」

「肉体はね…。精神は、しぶとく生きてやがった…」

「…」

「アイツは自分の頭脳を、どういう方法かわからないけど、世界中にデータとしてコピーしてたんだ」

「…そこまでして、何がしたかったんだろ…」

「信じられないかもだけど、世界は、キミが生まれる前は2つに分かれてた」

「そう、なんだ…」

「ずっと昔、ホント大昔に、究極生命体がやったって言われてる。ありえないくらいデカイ、機械みたいな生首なんだけどね」

「…」

「だから封印されてたんだけど、どうやら世界を1つにすると解けるみたいだったんだ」

「…それで、その究極、生命体?を復活させて、…まさか!?」

「その、まさかさ…。アイツは、自分の頭脳を同化させた」

「なんの、ために?」

「…」



「…究極生命体の力を、ただ単に体感してみたいだけ…」

「そ、…」

リオの両手が強くアッシェンの背中を抱いた

「…理由は謎だけど、世界を1つにするのに、カナミの真の力を目覚めさせる必要があったみたい…。アイツは、既に死んでるはずのボクのコピーを作り出して、カナミを誘き寄せつつ、それに成功した」

「…」

「カナミを剣で刺したのは、アイツなのさ…」

背中に食い込んでいる指が小刻みに震えていた
リオの背中も同様に震えていた

アッシェンの両手が、優しく、震える背中を抱いた

2016/12/24

●17

「そ…、それで…」

リオの背中は強く圧迫されたままだった

「…」

 リオは多少顔を歪めたものの、アッシェンの背中を優しく抱き、撫で続けた

「ボクは死んだ…。正確に言うと、肉体が、死んだ、んだ…」



「…ねぇ、1つ聞いてもいい?」

「…」

「だとしたら、あの場所…、えっと」

「森だったのが、焼き払われた、ような?」

「うん。そこにあった変な建物から出てきたよね?」

「…あれは、カナミの意識、だと思う。ボクは、既に肉体が死んでるから…」

「…そうだね。きっと、そうだね…」



「あの、ダークグレーな場所も、同じだと思う…」

「うん…、そう思う…」



「じゃあ、カナミを剣で刺したのは?」

「ボクじゃない…。ボクじゃないんだ…」

「!!」

アッシェンの指が、リオの背中が軋むほど食い込んでいた
リオの指もアッシェンの背中に食い込んだ



辺りにはアッシェンの嗚咽が反響していた

2016/12/23

●16

「アイツは…」

「うん…」

リオの背中を抱いている両手の力が弱まってきた
湧き出し続けていた感情も峠を越えたようだった

「生まれた子供を…、双子化しただけじゃない…」

「何をしたの?」

「…無理矢理、成長促進させたのさ。20年ぐらいを一気に…」

「…」

「それで…、そ……」

リオの背中が、再び両手で強く圧迫された

「…」

リオは顔を歪めることなく、アッシェンの背中を優しく抱いた

2016/12/22

●15

アッシェンの両手が強くリオの背中を抱いた

リオは顔を歪めたが、何も言わずに、しがみつくようにアッシェンを抱いた
指先は背中に食い込んでいた

アッシェンは、声を上げることはなかったが、内側から湧き出し続ける感情に身を任せるしかないようだった

リオは目を閉じ、受け入れ続けた
歪んでいた表情は、少しずつ元に戻っていった
背中に食い込んでいた指先も、力が弱まっていった

2016/12/21

●14

「ねぇ…」

「ん?」

「アッシェンを、返して…」

「んん〜?言ってることがよくわからないなぁ〜。ボクはアッシェンだよ」

「…乗っ取ったくせに」

「乗っ取ってはいないよ。同化しただけさ。さっき言ったじゃん」

「…」

「フフフ。まだ何かあるかい?」

「……なんで、あたしなの?」

「キミが好きだからさ。キミはキレイだ…。キミはかわいい…。キミは可憐だ…。キミはいじらしい…。それ以上の理由が必要なのかい?」

「…」

リオは静かに目を閉じた

「フフフ、いい子だ。あ、あともう1つ付け加えておくと、キミはカナミに似てるんだ」

リオはそっと目を開けて、アッシェンを直視した

「…ミナ?」

「…え?もしかして?」

「いや、そういうわけじゃないけど…」

「ああ…、そうさ。ボクはミナ…。正確に言うと、ミナの残留思念というか精神なんだ」

「カナミとは、どういう関係だったの?」

「それを話す前に、キミにはこれまである映像というか情景を見せてたんだけど、どこまで覚えてる?」

「…」

「順番に行こうか。白衣を着た男とガラス容器を覗き込む女…。容器の中は緑の液体で満たされている…。これは?」

「覚えてる…。あの2人は、たぶん恋人同士で…。それで…、あなたとカナミが生まれた」

「ほぼ正解。でも残念ながら、生まれた子供は1人だけだった」

「…それって」

「どういうことか想像つくかな?」

「…」

「あの白衣を着た男が、生まれた子供を人為的に双子化したのさ」

「!!」

「それだけじゃない…」

無表情だったアッシェンに異変が起こった
両目に赤黒い液体が湧き水のように溢れ、止まることなく頬を伝っていった

「う…」

アッシェンは泣き顔になり、唇も小刻みに震えており、二の句が告げない状態だった

「…」

磔にされていた両手がアッシェンの背中を抱いた
磔にしていた両手は脱力したように下ろされた

強引に開かれていた両脚がアッシェンを包み込んだ
強引に開いていた両腿は下ろされ、その上にリオが跨った

2016/12/20

●13

辺りにはリオの荒い息遣いが響いていた
アッシェンの顔が左を向いたまま戻ってこなかった
両脚を押さえている手の力も、心なしか弱まっているようだった

「…」

アッシェンの異変に気付いたのか、リオも平手打ちをした右手をゆっくりと下ろした

「…そろそろかな」

「!!」

アッシェンは顔を元に戻すと同時に、リオの両腕を磔にするように掴んだ

「あ…」

閉じられていたリオの両脚は、アッシェンの両腿に、M字型に開脚させられていた

「フフフ…。そんなにボクが欲しかったのかい?」

リオは激しく首を横に振った
その他満足に動かせる箇所は両手首ぐらいだった
アッシェンがちょうど両手首の下辺りを押さえていたからだった

「じゃあ、なんでこんなに締め付けるのかなぁ?それに…」

「いや…」

リオは顔を明後日の方向に逸らした

アッシェンはニヤニヤしていた
顔は、何度も平手打ちを浴びていたにも関わらず、傷はおろか腫れすらなかった

2016/12/19

●12

「!?」

「ずいぶん元気だね。ずっと起き上がらないから、動けないのかと思ったよ」

リオは上半身を半分だけ起こし、飛び退くように後退った
一糸まとわぬ姿のアッシェンが、四つん這いの体勢をとっていた

「…」

リオの眼差しには敵意と怯えが込められていた
右手は胸を、左手は下半身を隠していた
両脚は摺り合せるような形になっていた

「フフフ。そんな目で見たってムダさ」

アッシェンは四つん這いの状態で、じりじりと近づいてきた
あくまで、敢えてそのようにしているかのようだった

「…」

リオも、アッシェンから目を離さずに、同じ体勢のままじりじりと後退った
溢れていた赤黒い涙は、途切れることなく流れ続けていた

「ねぇ、なんでボクがこんな体勢でいると思う?それと、キミはなんで両足で立たないの?」

アッシェンの口元には歪んだ笑みが浮かんでいた



リオの背中が壁に当たった

「それはね…」

アッシェンはリオの両脚を押さえた

「まだ意識が回復してそれほど時間が経ってないから、体が言うこと聞かないってこと」

「…」

リオは見る見る泣き顔になり、唇は小刻みに震えていた

「フフフ…。キミもかわいいね…」

アッシェンの手が摺り合わされた両脚を開こうとしていた

「いや!!」

リオは右手で平手打ちを浴びせた
アッシェンは顔を左に向けたが、全く意に介していない様子で、すぐに元に戻した
両脚を開こうとしているのは変わらずだった

「いや!!いや!!いやッ!!!!」

平手打ちは、両手で何度も浴びせられた
アッシェンの顔は、その都度左右に向けては戻しを繰り返していた

洞窟内には、リオの声と平手打ちの音が反響し続けていた

2016/12/18

●11

「おはよう」

ダークマターの声だった

固く閉じられていたリオの目が、しっかりと開いていた
白目は赤黒いままだった

「ここは何色に見えるかい?」

「…セルリアン、ブルー」

「そっか。てっきり赤く見えてるのかと思ったよ」



「キレイだよね…」

「…」

「でも、この色は全て化学物質なんだよね。たぶん、世界崩壊からずっとこの色なんだろうね。ただ、この湖みたいな水たまりはもっと色が薄かったんだ。なんで濃くなったと思う?」

「…さぁ」

「フフフ。この水たまりは、この洞窟の上を流れてる川とは水脈が違うのさ。だから化学物質の影響も多少なりとも少なかった。でも、ボクは見つけちゃったのさ。ここと外を繋げられる場所を」

「…」

「理由かい?理由なんてないさ。そもそも理由なんて必要なのかい?ただそうしたかっただけ。それだけさ」

「…」

「それはそうと、ここはどこだと思う?」

「……あの滝の裏にある、洞窟?」

「ああ、そうだよ。それも最下部さ」

「…」

「まさか、キミがあの滝から落ちようとするなんて思わなかったよ。でも大丈夫さ。キミを死なせたりなんかしない…」

「…あたし、滝壺に落ちたの?」

「いや、落ちてないよ。途中でしっかりと受け止めたからね」



リオの唇は震えており、目には赤黒い液体が溢れていた
溢れていた液体は、目尻から次々と止まるなく流れ落ちていた

2016/12/16

●10

「ここでは、色のあるものは全てダークグレーなんだね…」

「…だから、何?」

「キミの体は、そのオンナの返り血を浴びてるはずなのに、ダークグレーになってるから」

亡骸となった女性の体は、ゆっくりと確実に増えていた水に飲み込まれていた

「…で?」

「死んじゃったね」

「あなたが殺したんでしょ!!」

ミナの口元には薄ら笑いが浮かんでいた
フードで目元が見えないのは相変わらずだった

「まだ気付かないみたいだね」

ミナは被っていたフードを取る

「ボクはキミでもあるし、キミはボクでもある」

ミナは、表情に闇や憎悪が色濃く出ている以外は、カナミと全く同じ顔だった

2016/12/15

●9

「ダメ!!」

カナミは蠢く右腕を押さえ、飛び退いた

「カナミ?」

「わたしに近付かないで!!うっ!!」

カナミの右腕は、もはや人間のものではなかった
異様に尖った爪
前腕部は鱗に覆われていた

右腕は蛇のように蠢いており、カナミはそれを必死に押さえていた

「…ミナね」

「え?!」

「わたしは逃げも隠れもしないわよ」

女性は、真っ直ぐカナミに視線を向けていた

「ミナが、いるの?!」

向けられた毅然とした視線は、外れることはなかった

「フフフ…。よくわかったね。勘てヤツ?」

外見はカナミのままだったが、顔付きは全くの別人に切り替わっていた
厭世的な雰囲気は一変し、内側に闇や憎悪を抱える禍々しさが感じられた

「わたしはあなたたちの…」

「それ、もう聞き飽きたよ。ったくどんだけ美化すりゃ気が済むわけ?わたしはあの人を愛していたとかさ、あなたたちは決して人体実験のために生まれたわけじゃないとかさ…。で、その結果がこのザマだよ!」

「…」

「確かに主犯はあの男かもしれないけど、アンタも十分共犯だよね。なんせ、あの子に事実を捻じ曲げて伝えたんだから。さも双子として生まれてきたみたいな言い方しやがって…」

「…」

「ボクたちは所詮、アイツのおぞましくて汚ねぇ私利私欲の産物なんだろ?どうなんだ?」

「違う!!わたしは人体実験なんかのために、あなたたちを産んだんじゃない!!」

「…じゃあ、何のため?」

「わかってほしいとは言わない…。わたしは、あの人を尊敬してたし、憧れていた。そして、気付いたら好きになってた…。すごく愛おしかったし、あの人の子供が欲しいって思ってた」

「ふ~ん…」

「それがこんなことになるなんて…」

「…」

「遺伝子操作をされたのはあなたたちだけじゃないの…。わたしの体は、あなたたちを産んだそのときから時を刻むことがなくなってしまった…。あの人は『人間が若々しく美しいのは一瞬だけだ。美しいものが老いて醜くなることは耐え難い』って言ってた」

「ハハ…。ホント狂ってるね、アイツ…。人間じゃねぇや。でもそれに気付けなかった、もしくは、気付いてても見て見ぬフリをした…」

ミナの右手が女性の体を貫通した

「それも同罪だよ」



!?

カナミの右腕が、ちょうど心臓の辺りを完全に貫通していた

その知的で美しい顔から、生気がなくなっていった
目は大きく見開かれていたが、やがて眼球は微動だにしなくなった

「あ…、ああ…」

カナミはすぐ右腕を引き抜いたが、既に手遅れなようで、女性の体は力なく前のめりになった
女性を抱きかかえたカナミの全身が、ダークグレーに染まっていった



慟哭は、止まることなく辺りに反響し続けていた

2016/12/14

●8

……セ



コロセ…

誰!?

コロスンダ

うっ!?

止まることなく、一定のペースで滴り落ちる紅い液体に染まった手

その手は爪が異常に尖っており、質感も硬い鱗に覆われているようだった
人間のものというよりは、モンスターに等しかった

ハヤク!!

!?

右腕が意思とは無関係な、何者かに操られているかのような動きをしようとしていた

2016/12/13

●7

「…大きくなったよね」

「…いつの頃と比べて?」

「あなたがまだ、赤ちゃんだったときと比べて…」

「…よく覚えてない」

「確かにね…」



「わたしが話さなくても、いずれは知ることになると思う…。でも、できればわたしの口から、あなたに伝えたい…」

透明度のないダークグレーの水が、膝を覆うほどになろうとしていた

「…」

カナミは顔を上げた
シャープで整った顔立ちが目に留まった

女性は柔和な笑みを浮かべた
カナミも釣られて口元だけ笑ったような形になった



女性の顔や回りの景色が滲んでいた
カナミの頬を水滴が伝っていた

「カナミ…。あなたはわたしの子よ。ミナは…。あなたの双子なの」

女性の体が、優しくカナミを包み込んでいた
水面に波紋がいくつもできていき、カナミは、収まることなく吹き出す感情にひたすら身を任せていた

2016/12/12

●6

「やっと会えたね」

カナミのぼやけた視界には、女性と思われる人間の顔が映っていた
水は頭頂部まで来ており、辛うじて顔だけが出ている状態だった

「あなたは…」

焦点が徐々に合ってきたようで、逆さだったが、今度は女性の顔がハッキリと見えた

27~28歳ぐらいだろう
メガネが似合いそうな、小顔の知的美人だった

「だいぶ目付きもしっかりしてきたね。起きられそう?」

「…やってみる」



「う…」

カナミは、体育座りの体勢のまま蹲った

「大丈夫?やっぱりまだムリそう?」

「…頭が、クラクラする」

「そうだよね。もう少ししたら良くなってくるはずだから」

カナミは顔を上げることができなかったが、女性はカナミの前にしゃがんで話しかけてきているようだった

2016/12/11

●5

セルリアンブルー一色の空間だった
所々、同色の水が湧き水のように壁面を伝っており、小さな滝のようなものもあり、川のような場所もあった

リオが、一糸まとわぬ姿で仰向けに横たわっていた
目は固く閉じられており、微動だにしなかった

そこは、滝が流れておらず、開けており、湖のような、セルリアンブルー一色の水たまりがあった

アッシェンは無表情で、どこかを見るともなく見ているような眼差しのまま、瞬き1つしなかったが、瞳にはリオが映っていた

2016/12/10

●4

カナミは水溜りのような場所に、仰向けに寝転がっていた
ダークグレー一色の、物音1つしない、空気の流れも感じられない空間だった

「…」

カナミは焦点が合っていなかった
ただひたすら、この無機質な空間を眺めているかのようだった



ゆっくりと、カナミの体に接している水の量が増えていった

2016/12/09

●3

そこは、残存していた地下シェルターだった

リオは寝袋で静かに寝息を立てていた
ちょうど10歳になったころだった

「…」

リオと面影のよく似た、母親と思われる女性だった
悲しそうな、別れを惜しむような表情だった

「寝たか?」

父親と思われる男の声だった

「…」

女性の瞳にはリオが映っていたが、次第にその姿は崩れていった

「先に行ってるぞ」

男は、残っていた約1年分の食料が詰まったリュックを背負っていた


生気がなく、静寂に覆われた針葉樹の森
月明かりが葉と葉の間から漏れていた
透明感のある漆黒の池

リオは、寝袋で静かに寝息を立てたままだった
側には、約1年分の食料が詰まったリュックが置かれていた


リオの両親は、セルリアンブルーの水中で抱き合っていた
何も身につけておらず、手首には切り傷ができていた
既に体中の血液が全て流れ出たのか、傷口からは何も出ておらず、全身は蒼白だった

2016/12/08

●2

ミナの右腕がカナミの体を貫通した
カナミは膝をつき、頭を垂れた

これまで無表情だったミナに、一瞬「してやったり」の表情が浮かんだ

「?」

ミナの右腕がカナミの体から抜けることはなかった
カナミの両腕は、力が抜けたようになっているだけだった

「フフフ。どういうつもりだい?キミはまだ生きてるのかい?」

ミナの足元には闇が発生しており、すぐさま全身を覆い尽くした

2016/12/07

●1

黒い雲に覆われた、所々にできた切れ目が微かにプラチナ色になっている空
静かに降り注ぐ無数の水滴

轟音を上げる滝壺に落ちていくリオの視界には、それらが以前と同様に赤黒く見えた

視界が反転した
リオの体は、頭の重みで滝壺に対して垂直になった



リオは目を閉じた
飛び散っていく赤い塊は、上空からの水滴とぶつかり、かき消されていった

2016/12/06

●0

辺りには、カナミの荒い息遣いが響き渡っていた
ミナの右腕は、刃渡り1mほどの血塗られた剣になっており、切先からは鮮血が滴り落ちていた

「…」

カナミの体は闇に覆われていたが、腕を含め、そうでない場所には何らかの傷ができていた
出血量が多く、まともに体が動く状態ではなかった

2016/12/05

●7

静かな雨音を掻き消すような轟音が響いてきた
これまで続いていた不毛な景観に、セルリアンブルーの水が流れる、対岸が見えない大きな滝が現れた



アッシェンの姿はどこにも見当たらなかった

「まさか、滝壺にでも落ちたと思った?」

「!?」

リオの振り返った先に、アッシェンが、ずっとその場にいたかのように立っていた

「どうしたの?ずいぶん驚いてるみたいだけど?」

これまで言葉の存在を知らなかったかのようなアッシェンが、確かにしゃべっていた
しかし声は、明らかに自らを不可視物質またはダークマターと名乗っていたそれだった

「…」

「フフフ…。じゃあ、順番にいこうか。アッシェンはあくまでアッシェンだ。この子が最初からダークマターだった、ということはない」

「…どこかで、乗り移ったの?」

「正確に言うと、同化したって感じかな」

「…あの森に来たときには、もう?」

「そうだね」

アッシェンは無表情で、どこかを見るともなく見ているような眼差しのまま、瞬き1つしなかった

「…その目、あのときと同じ…」


漆黒の水面が細波だっていた

アッシェンの髪が風になびいていた
リオはアッシェンに倒され、肩の辺りを掴まれて身動きができない状態だった



互いの視線が交錯していた
セルリアンブルーの瞳は、赤い景観に混ざることはなく、本来の色に見えた


「フフフ…よく気付いたね」

「でも、だとしたら、そのあとはどこから喋ってたの?」

「あれかい?あれはホントに池から喋ってたよ。で、あの子との同化も、あのときは解除してた」

「…」

「ほかにはあるかい?」

「…」

辺りには滝の轟音が響いていた
雨は降り続いていたが、異形となってしまったアッシェンは全く濡れていないように見えた



アッシェンの脚に力が入ったように見えた

「!?」

錯覚ではなく、間違いなくアッシェンはじりじりと近づいてきた

「…」

リオは、アッシェンを凝視しながら後退りしていた
アッシェンの口元に歪んだ笑みが浮かんだ

「!?」

水が滝壺に落ちる音が、一段と大きく聞こえた
これ以上の後退りは、そのまま落下することを意味していた

アッシェンは、手を伸ばせば届くほどの距離まで近づいていた

「何を怯えてるんだい?」

「いや…、来ないで…」

リオの瞳は潤んでおり、白目は赤黒くなっていた

「その感じだと、ボクも赤いかい?」

「…」

リオの唇は震えており、目には赤黒い液体が溢れていた

「そんなに悲しいかい?フフフ…それには及ばないよ。だって、キミの胎内には」

「いや!!」

リオは目を閉じて激しく首を振った
赤黒い液体が頬を伝っていた

「フフフ…、じゃあどうするの?」

「…」

リオはゆっくりと目を開けた
赤黒い水たまりに、無機質に輝く黒目が浮かんでいるようだった



リオの足が静かに後退りをした
体は頭の重みで、轟音の中に向かっていった

「無駄だよ。キミはボクのもの…。逃れることなんてできやしないのさ…」

アッシェンは不気味な薄笑いを浮かべていた

2016/12/04

●6

漆黒の水面に規則正しく波紋ができ、消えていった
雨は一定のペースで降り続いており、辺りは薄闇に包まれていた

「…」

リオはゆっくりと、しっかり大地を踏みしめるように歩いていた
濡れて重くなった髪から、額や頬を伝って顎から、水滴が止まることなく滴り落ち続けていた

降り注ぐ無数の水の塊、漆黒の水たまり、静かに響く雨音

●5

水面に一滴の水滴が落ち、緩やかに波紋が広がっていった

「…アッシェ、ン…」

リオの瞳には、薄暗くなった、ひたすら続く大きな水たまりと黒い煤に覆われた大地が映っていた

水面に次々と水滴が落ちてきた
辺りは水煙こそ出ていなかったが、降り注ぐ水の塊が無数見えた

「…会いたいよ」

リオはゆっくりと、起き上がり、歩き出した

2016/12/03

●4

鮮明だった景観は、黒とプラチナが歪に混じり合った、輪郭がひどくぼやけた不鮮明なものになっていた
水面は、様々な大きさの波紋ができては消えを繰り返していた

「フフフ…」

不鮮明な景観に黒がより多く溶け出してきた

「…その声は」

「そうだよ。ボクさ。不可視物質さ」

「…」

「ダークマターって言った方がわかりやすいかな?」

「…たぶん」

「それはそうと、あの子、名前はアッシェンていうみたいだけど、このまま歩いて行くと、向こう岸が見えないぐらい大きい滝があって、そこにいるみたいだよ」

「…」

「まぁ、信じる信じないは勝手だけど、事実は1つだけさ。空はまた雲行きが怪しくなってきたから、またさっきみたいな雨が降るだろうし、アッシェンにも会いたいだろ?」

「…うん」

「フフフ、なら答えは1つだね」

「…もしかして、見てたの?」

「ボクはいつだって見てるさ」

「…」

「さぁ、急いだ方がいいかもよ。自然は待っちゃくれないからね」

不鮮明で滲んだ景観が次第に鮮明になっていった
日光の帯は消えており、かろうじてできていた黒い雲の切れ目が、微かにプラチナ色になっているだけだった

2016/12/02

●3

アッシェンの目の前には、対岸が見えないほどの大きな滝が広がっていた

滝壺に落ちる水量も膨大で、落差は100mほどだったため、落下速度が早く、轟音とともにおびただしい水煙が立ち上っていた
流れる水はセルリアンブルーのままだった

「…」

アッシェンの眼差しは、どこかを見るともなく見ているままだった


リオは、水に浸かっていた顔をゆっくりと上げた
髪からは、水滴が速いペースで滴り落ちており、目には涙が溢れていた

「…どこ、いっちゃったの?まだ名前、聞いてないのに…」

溢れていた涙が止めどなく頬を伝っていった
歪な細波に、次々と波紋ができていった

2016/12/01

●2

「!?」

足元にあったはずの水たまりが一気に迫ってきた

リオの体は水平に、水たまりに投げ出された
大量の水が跳ね上がり、水面に様々な大きさの波紋ができた

「…」

リオはそのまま動かなかった
水に浸かった指が、ゆっくりと引っ掻くように動き、握り拳となった

アッシェンの姿はどこにも見当たらなかった

固く握られた拳は小刻みに震えていた
水面には歪な細波ができていた