2016/08/31

▼15

50階は最上階ということもあり、展望台のような施設だった

カナミはこのフロアに足を踏み入れたのが、今回が初めてだった
まさかセカイが崩壊してから来ることになるとは、皮肉なものだ
しかも自らの意思ではなく、状況的にやむを得ないというのだから尚更だ

フロアは無機質で人の気配はない
そして、なぜか何事もなかったかのように整然としていた
無論崩落している箇所は皆無だった

なんか違和感あるわね…
上手く言えないけど…

「さすが。察しがいいね」

どこからともなく声が聞こえてきた
それと同時にフード付の黒いローブを着た人物が、非常階段の出入口に鍵をかけていた

「ちょっ!何してんの!?」

「見ればわかるだろ?てか本来聞きたいことはほかのことなんじゃない?カナミちゃん」

その人物はカナミを全く見ていなかったが、「カナミがどこにいるか」「カナミの一挙手一投足」「カナミの感情の揺れ動き」は全て把握しているようだった

「…あなたは誰?どうしてわたしの名前を?このビルは20階より上はなくなったはずなんじゃ?」

「フフ…。ずいぶん冷静なんだね。さすがあの崩壊から10年も生き延びていただけのことはあるね。でも、残念ながらその質問には現段階では答えられないな。ボクは、キミのことを忘れたことは1度もない…。そう1度も…」

どういうこと?
訳がわかんない…
わたしはあなたのことなんか知らない

カナミの心の内を察したかのように、その人物は向き直った
フードを目深に被っているせいか顔がよく見えなかった

「キミはキレイだ…。キミはかわいい…。キミは可憐だ…。キミはいじらしい…」

「うっ!?」

カナミは胸を何かに貫かれるのを感じた
すぐさま意識が遠退いていった
目の前もじわじわと黒くなり、やがて漆黒となった

「フフ…。キミはボクのもの…」

▼14

結論から言ってしまうと、非常階段は50階まで続いていた
しかも、21~49階までも全て開かずの間だった

ちょうどカナミは50階に辿り着いたところだった
不思議なことに天井や壁はどこにも損傷が見当たらない

やはり最初から20階より上も存在していたのだろうか?
それとも、本来ならなくなっているはずの階が、何か非科学的な現象に巻き込まれたことによって見えているのだろうか?

これは本来なら目に見えないはずの残留思念が実体化しているセカイだけに、十分起こり得る話だ

カナミはなかなか呼吸が整わなかった
走ったわけではなかったが、段差を上り続けるのはそれなりに体力を消耗する

ったく…
ホントに50階まであるなんて…
もし、ビルの管理人がいたら文句言わなきゃ

それには目の前にある扉が開くことが最低限必要なのは言うまでもない

▼13

開かない?

カナミは非常階段から20階へ入ろうとしていた
しかし、扉は開くことはなかった

階段はまだ上に続いている?

確かこのビルは20階より上の階は全て吹き飛んだ、もしくは崩落したという話だった
しかし非常階段は整然と、まるで崩壊など最初からなかったかのように上に続いていた

20階より上がなくなったというのはウソ?

ウソかホントかはこの際どうでもよかった
厳然たる事実としてあるのは「非常階段が何事もなかったかのように存在している」ということだ

行ってみるしかないみたいね
まさかこの階段、ホントに50階分あったりしてね

カナミにとってはそれもどうでもいいことだった

▼12

カナミは走り回ったわけでもないのに肩で息をしていた
ちょうど19階まで来たところだった

残留思念のいない階はなかった
事実上の最上階まであと1階
まさに八方塞に等しい状況
しかも1つ判断を間違えば自らの命を落とすというオマケも付いていた

「死ぬのは仕方がない。でも、殺されるのはいや。たとえ残留思念だったとしても」

確かなことは、19階までが既に残留思念に占拠されている、ということ
なぜ?どうして?はこの状況では全くの無意味
何の解決にもならない

少なくとも非常階段は安全なようだ
現時点での選択肢は1つだけ

「このまま非常階段を上り、最上階である20階に向かう」

それだけだった

▼11

カナミが1階に戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた
今までビル内に侵入して来なかった残留思念たちが大量にいたのだ

なぜ?
なぜ今頃?
どうやって?

考える間もなく、残留思念たちはカナミが生身の人間だと認識すると、一斉に襲いかかってきた

殺される!

すかさず非常階段へ逃げ込んだ
無論、扉を閉めるのは忘れなかったが

どうやら残留思念たちは扉を擦り抜けることはできないようだった
しかし、油断はできない
少なくとも、これで地下に戻るという選択肢がなくなってしまったのだから、必然的に残った階のいずれかを新たな拠点とするしかない

おそらく残留思念たちはエスカレーターで繋がっている3階までは全て占拠しているだろう
安全な場所は必然的に4階より上の階ということになるが、10階までは前述のようにとてもではないが、拠点足り得る場所ではなかった

10階より先は地下と同等の場所があるのかどうなのか
この状況では考えるだけ無駄だった

▼10

非常階段は非常灯が灯っており、思ったより明るかった
さすがにシェルター並みとは言えなかったが、闇よりはマシだろう
少なくとも足場は確認できるのだから

まだ食料はダンボール1箱分残っていたが、順番に上の階を探索することにした
食料がなくなってから動くのでは遅い、とカナミは考えていた
上の階に食料があるという保障はどこにもない
仮になかったとしてもそのまま地下に戻ればいいのだ

カナミはとりあえず4~10階までの様子を確認した
このビルはオフィスビルだったが、このあたりの階はクリニックや飲食店が入っていた

しかし食料はなく、地上から近いということもあり、核爆発の影響が大きかったせいか、かつての面影は全くなかった

だが、これはカナミにとっては想定内だった
あくまでも状況を探るというのが目的だったため、少なくともそれは達成できたわけだから

2016/08/30

▼9

フフ…

やっと動き出すんだね

待ち焦がれたよ

あれから10年も経つんだね

まさかキミがあの地下で10年も生きてたなんて…

でも、いいさ

キミはキレイだ…

キミは美しい…

キミは可憐だ…

キミはいじらしい…

キミはボクのもの…

さぁ、早くボクの元においで…

▼8

ビル内は生命の吐息の感じられない無機質且つ静謐な空間となっていた
かつては多くの人間が出入りする場所だったが、その人間たちがいなくなることで、無機質ぶりがより顕著になった

1階はロビーの面影が多少は残るものの、爆風で崩れた箇所が大半だった
しかし、天井は一部を除いてほとんど壊れていなかった

なお、残留思念たちはなぜかこのビル内には1体もいなかった
外界との仕切りとなるドアや窓等が1つ残らず吹き飛ばされており、化学反応で発生した蒸気も入ってきているので、それに紛れて侵入するのは容易なはずだが

無論、カナミにとってそれらはどうでもいいことだった
このビル内にいれば有害物質や残留思念によって、命を落とす危険はないのだから

ロビーはこの蒸気によって、見通しが若干悪かったが、目視でどこに何があるかまではおおよそ把握できた

エレベーターは電力系統の影響で使えない
エスカレーターは本来の機能は果たしていないものの、階段としては使える
しかし、3階までしか通っていなかった
唯一それより上の階に行けるのは非常階段のみだった

カナミは気が向いたときにちょくちょくビル内の探索はしていた
探索をしたのは3階までだったが、目ぼしいものは何もなかった

不必要に出回るのは得策でないと考えていたのと、足元が暗い非常階段を上り続けることに意味を感じなかったのだ

しかし、残された食料が少なくなってきていることもあるため、いつまでも地下にいるわけにはいかなかった

▼7

地下シェルターは廃墟と化した高層ビルの地下に作られていた
外観の大半は崩落しており、かつての面影はない

このビルは50階建だったが、セカイ崩壊時の核爆発の煽りを受け、20階建になってしまった
無論電力系統も全て麻痺したが、地下シェルターの自家発電機能は生きていたため、灯りを得たり、暖を取ったりすることができた
また、水道の機能も生きており、お湯を沸かすことも可能だった

それがどのような仕組みで動いているかの詳細まではわからなかったが
わかったところで、雨が止むわけでもなければ、残留思念が消えることもない
ならば知る必要もない

カナミはそう考えていた
物心ついたときからそのような考え方だった

正しいか正しくないかはこの状況では意味のないこと
少なくともこの場で生きているのはカナミのみなのだから

▼6

ニンゲンて愚かだよな

なぜ今まで起こってきたことを教訓にしようとしないんだろうな

そもそも自然の力はニンゲンごときにコントロールできるようなちっぽけなもんじゃない

想定外、想定外っていうけど

それって当たり前のことなのにな

コントロールできると思ってるから、そういう発言が出るんだよな

思い上がりもいいとこだ

青く光り輝く美しい星でなくなったのは、いわば自業自得

▼5

カナミはセカイ崩壊以降、ずっと地下のシェルターで暮らしていた
暮らしていたというよりは生き延びていた、という方が正しいかもしれないが

ほかの人間たちは皆死んで残留思念となってしまった
ある者はセカイ崩壊とともに
ある者は有害物質の雨に浸蝕され
ある者は残留思念に生命機能を停止され

皆、より安全でより食料の多い場所を求めていた
だが、地上の状況はあまりにも悪すぎた
何もかも崩壊してしまったこのセカイは人間の力などではどうにもならない

「バカな人たち…。ここにいればまだ生き延びられたかもしれないのに…」

カナミの判断は正しかったようだ
ある意味、ほかの人間たちがいなくなったからこそ、備蓄の食料が底を尽くまでの期間が長引いたのだ
まさかこの10年、地下で生きることになるとは思わなかったが

そもそもこのシェルターは災害時の一時避難用として用意されたものだ
長くとも1~2年程度生活することを想定したものになる
無論、備蓄の食料もその程度の量しかない

このセカイ崩壊および有害物質の雨・残留思念は想定外のものだが、リスクを冒してでもより安全な場所に移動した方が得策と考える人間たちばかりだったことに、カナミは憐れみさえ感じた

「でも、わたしだけ生き延びることになったのはなぜ?」

備蓄の食料は残すところダンボール大2箱のみとなった

▼4

希望なき理想郷…

まるでこのセカイを象徴するかのようだ…

インターネットをはじめとした科学技術の急速な進歩…

だが、オレも含め人間は進歩していない…

むしろ退化しているのではないかとすら思える…

科学技術はある意味、便利さを追求する人間のエゴにより産み出されたもの…

その科学技術に人間が翻弄される形になるとは…

皮肉でしかない…

この肥大化した科学技術は人間たちのエゴの象徴…

留まることをしない人間たちのエゴ…

それが破綻をするとき…

オレも死んでいたいものだ…

▼3

ねぇ…
なんでこんなことになっちゃったの?

この街にはもう誰もいない
外はずっと雨が降ってて、とても出歩けるような状態じゃない

ねぇ…
なんでわたしだけ生き残っちゃったの?

この街はもう死の街…
生命が誕生するサイクル自体が失われてしまっている

ほかの場所に行けばまだ生きている人たちがいるかもしれないけれど
どうすればいいのかわからない…

地下同士は繋がっていないみたいだし
仮に繋がってたとしても、ここより安全かどうか保証できないし
雨が止んだとしても、外には至るところに残留思念がいる

雨は防護服で長時間は難しいけれど、多少なりとも防ぐことが出来る
だけど、残留思念はそういうわけにはいかない

残留思念たちは外傷を与えることはないけれど、生命活動の源となる部分を即時停止しちゃうみたい
で、そうやって死んでいったありとあらゆる生物がみんな残留思念化していく

食べ物も残り少なくなってきちゃった…
あと何日持つんだろ?

▼2

なぜこのような状況に陥ったのだろうか?

セカイ崩壊の引き金は大地震だった
それは今まで世界各国で発生していたものとは比較にならないほどの規模だった

明確な原因は解明されていないが、地中に埋まっていた石油やメタンハイドレートなどの資源が枯渇することにより、激しい地殻変動が起こり、それが引き金となって引き起こされたと言われている

その揺れは全世界を巻き込んだ
そして、各国が軍備として保有していた核兵器を全て爆発させてしまった

そこから大量の核物質が漏れ出たのは言うまでもない
10年が経過した現在でもそれらが雨として地表に降り続いているのだから、相当な量だ

地球は既に死の星と化していた
生命の息吹や鼓動はおろか気配すら存在していなかった

なお、崩壊が著しい都市部では多くの残留思念が徘徊していた
死んだ人間たちだろう

よほどこの世に未練があるのだろうか?
崩壊以降増え続ける一方だ

▼1

現在はセカイ崩壊から10年ほど経過した状況
しかしながら、崩壊からの復興は遅々として進んでいない

特に都市部の崩壊が著しい
崩壊時に大気中に飛散した多量の有害物質は雨となり、今も地表に降り続いている

地表に落ちると何らかの化学反応を起こすせいか、溶けるような音に加え、蒸気と異臭も発生していた
それによって辺りが見舞わせないほどだ
濃霧に覆われている状態と言えばわかりやすいだろうか

なお、セカイ崩壊からこの雨が止んだことは1度もない

いつ止むのか?
そもそも止むということがあるのか?

土砂降りというほどではないが、梅雨時のような長時間降り続ける類いの雨だった
雲は分厚く、太陽の光は完全に遮断されている

あのときから地表に陽光が注ぐことは、当然ながらない
気温は常に氷点下近い
おそらく標高の高い場所は雪になっているだろう

地球は太陽系の中では数多くの生命に恵まれた彩りも美しい惑星
このように言われていた頃が懐かしい

2016/08/28

▼0

オレは棄てられた…
そう棄てられた…
ゴミ箱に捨てられた紙屑のようにぐちゃぐちゃにして…

棄てられた…

あとは収集車によって、焼却場に運ばれる…
跡形もなく処分される…

実にくだらない人生だ…
死ぬために生きているのだから…

どうした?
早く処分してくれ…

なぜオレを焼却場に持っていかない?



そうか…
オレは可燃ゴミではないのか…

ならば何だと言うのだろうか?

不燃ゴミ?
埋め立てゴミ?
有害ゴミ?

そもそもオレが決めることではないか…

2016/08/27

■30

クラウドコンピューティングの技術を利用して創られた、ソーシャルネットワーキングサイト「イリュージュ」

仮想現実のシステムが組み込まれており、全世界で約10億人が会員登録するほどのサイトだったが、突如閉鎖となった

意識失踪していた利用者たちは、皆意識を取り戻した

なお利用者たちには、会員登録していたメールアドレス宛に、イリュージュが閉鎖となる旨が記載された、簡素な内容のメールが送信されたのみだった

無論、具体的な理由はどこにも明記されていなかった

確実なことは、利用者全員は2度とイリュージュにログインできない状態になった、ということだ



---完---

■29

「ほぉ…まさかこんな形で、あのイリュージュの管理人と鉢合わせするとはな」

「…確かにオレはイリュージュを管理しているけど?」

「しかしよくできているな。趣味、というにはあまりにもよくできすぎている…」

「アンタ、何しに来たんだ?このサイバー空間を自由に出入りできるのは、オレだけのはずなんだが?」

「それに答える必要はなかろう。なぜなら、キミは私が何者か知っているはずだからな」

「いや、知らないな。生憎オレの知り合いには、まるで正規のアクセスであるかのように、不正アクセスしてくるヤツは誰1人としていないもんでね」

「フハハハハ!面白い!やはり伊達ではないということか。自らの頭脳や感覚、感性をネットワーク上で機能させ、不要となった肉体はその機能を停止させる。常人ではそこまでできる者などいるまい」

「…よくご存じで」

「当たり前だ。私は世界警察を自負する諜報機関の者だからな」

「で?そんなご大層なお方がオレに何の用だ?正規のアクセスを装って、わざわざオレのサイバー空間に侵入してくるんだから、単なる酔狂ってわけじゃないよな?」

「…」

「う!?」

「ここがセキュリティの高い空間だということは百も承知だ。だが、それはあくまで既知のウイルスや不正アクセスの類に対するものだろう?」

「あ、が…が……が…………」

「人間の世界で例えると、神経ガスのような作用をもたらすものを、ネットワークの至る所に仕掛けておいた。この空間はキミ自身でもあるのだろう?おっと、もう言葉を発することすらできないのだったな」

「…」

「どんな世界でも、超えてはいけない一線というものがあるのだよ。キミはそれを大幅に、しかも意図的に超えた。悪く思わないでくれたまえ。それに対しての然るべき措置、というわけだ」

「…」

「ククク…」

■28

これからのIT業界は、間違いなくクラウドコンピューティングが主流になるだろう
まあ、ユビキタス(Ubiquitous)ってことだね

このユビキタスって、語源は「遍在する」という意味のラテン語「ubique」なんだよね

IT業界でこの言葉が出てきたら、「ユビキタスネットワーク (ubiquitous network)」か「ユビキタスコンピューティング(ubiquitous computing)」を指すけれど、巷で出回っている情報は、それぞれの違いを把握した上で発信されているものではないことが多いね

それぞれの概念はこんな感じかな

■ユビキタスネットワーク (ubiquitous network)
いつでも・どこでも・だれでも・何でも、ネットワークにつながる

■ユビキタスコンピューティング(ubiquitous computing)
あらゆるモノにコンピュータが組み込まれ、コンピュータ同士が協調動作するという事に力点が置かれることにより、人間はコンピュータの存在を意識することなく、高い利便性を得ることが出来る

「何でも、ネットワークにつながる」

これって、有形無形問わずとも解釈できるよね
具現化できない、感覚や感性なんかもネットワークにつなげることができるってね

だから、オレは肉体の機能を停止させることにしたのさ
ネットワークというかサイバー空間で、頭脳や感覚、感性が機能しさえすればいいのだから

まあ、あのブラック会社にとってもいい見せしめになるだろうね

過剰労働によってオレが死んだ
っていうことにしてあるから

■27

いやぁ~、どの国も裏側はえげつないねぇ~
でも、面白いねぇ~

しかし、やっぱりあの国とあの国が同盟国っていうのは建て前だったんだね
これじゃ、植民地も同然だよ

まぁ、しょうがないか
昔戦争やって負けてるからね

そして、2度と立ち上がれないように棘の冠と十字架を背負わせた
それがあの憲法ってわけか

個人的には、あの国に2つある諜報機関の裏側が非常に気になるな

真相が謎に包まれた数々の事件
その裏側が記されたデータがね

■26

この会社はブラックなのだろうか?

サーバーの構築から保守まで、全て請け負います
というのは、外面的に間違いなくいいのはわかる

しかし、納期がタイトすぎるのは閉口せざるをえない
DBの規模を考慮せずに、一律1ヶ月以内に構築する、というのは明らかに無理がある

依頼主からしたら、納期を早く設定できる方を選ぶというのはわからないでもないが

そのプログラムを組むのはプログラマーだが、化物でもない限り、日々残業せずに業務を終えられることがない
納期間近になると、徹夜をすることもしばしばだという

SEはSEで、構築されたサーバーの保守をやるときはたいてい深夜だ
多くのユーザーが利用する時間帯にやると、どうなるかは火を見るより明らかだ

利用者の多くは、こちらの事情など知ったことではないのだから

ひどいときは、1ヶ月近く保守の案件を対応したこともあった
休日返上になることなど日常茶飯事だ

一説によると、時間外労働と休日労働の場合は割増賃金となるはずだ
就業時間は、9時から18時と設定されているのだから

しかし、給料明細にはその類の記載がどこにもない
支給額を見ても、割増は全くされていないようだった

しかも、残業代は月54時間を超えないと支払われないとなっている
つまり、2時間程度の残業はサービス残業も同然ということだ

このような状況なので、残業が1日2時間で済まないことも多い
それが明らかになると、2時間経過したあたりで無理矢理タイムカードを切らされたこともあった

この会社はブラックなのだろうか?

■25

※覚書

・シスコ(Cisco)
1984年に設立されたアメリカの通信機器メーカーの1つ
インターネットや企業内ネットワークで利用される、ルータやスイッチなどの通信装置で世界最大手の1つに数えられる
同社製品を扱う技術者の知識や技能を認定する資格試験も行っており、通信技術者の間では広く知られている

・イントラネット(intranet)
TCP/IPなどのインターネット標準の技術を用いて構築された企業内ネットワークのこと
Webブラウザやメールソフトなど、インターネットで使い慣れたアプリケーションソフトをそのまま流用することができ、インターネットとの操作性の統合や、インターネットと連携したシステムの構築などが容易に行うことができる
イントラネットでは、メールやスケジュール管理などの基本的なものから、業務用データベースシステムと連動したWebアプリケーションなど複雑なものまで、様々な種類のサービスが目的に応じて導入される

・JSP(JavaServer Pages)
Java言語を利用してWebサーバで動的にWebページを生成し、クライアントに送信する技術
通常のHTML形式になるため、Webブラウザに特殊な機能を組みこむことなくWebアプリケーションを構築できる

・ASP(Active Server Pages)
動的にWebページを生成するWebサーバの拡張機能の1つ
Microsoft社のWebサーバであるIISで利用でき、ブラウザからデータを受け取ってファイルに記録したり、データベースと連携した動的なWebページを作成したりすることができる

・VPN (Virtual Private Network)
公衆回線をあたかも専用回線であるかのように利用できるサービス
主に企業内ネットワークの拠点間接続などに使われる
古くは電話回線(音声通話サービス)で提供されていたもので、全国に拠点を持つ大企業の内線電話などを公衆網を中継して接続するサービスだった
最近では企業内LANを通信キャリアの持つバックボーンネットワークを通じて相互に接続するサービスを指す

■24

情報技術(information technology)の進歩・発展は、人間たちに大きな恩恵と可能性を齎すと同時に、格差の増大も齎した

これは当然といえば当然だ

今まで1人ではできなかったことが、1人でできるようになる
特定の業者を通さないとできなかったことも、1人でできるようになる

人間の能力は、色々な意味で元々不平等だ

この恩恵や可能性を享受、または有効活用できる者もいれば

そうでない者もいる

論外なのは、そういったことすら認識していない者

幸か不幸か、あらゆるものの進歩・発展を、享受または有効活用できる者は、いつだってごく一部だ

そう、選ばれし者、ということだ

■23

■アサインされた案件一覧
※アサイン(assign)とは、割り当てる・指名する・配属する・あてがう・帰する・代入するなどの意味だ
 ITの分野では、ある特定の資源や機能・処理・役割などを、記号や番号・操作などに対応付けることを意味する場合が多い
 今回は、割り当てという意味だが、それならばわざわざ英語でなくてもいいと思うのだが…

▼サーバー構築、保守など
・Ciscoルーター利用
 企業内ネットワークの構築
 既存ネットワークの追加・増強
 JSPやASP(Active Server Pages)を利用
 DB規模大きめ
 イントラネット

・VPNの導入
 支点間の内線電話システム、データ通信
 DB規模中規模
 イントラネット

・0からサーバー構築
 DB規模小~中規模
 拠点の増設に伴うもの
 WindowsかLinuxか
 取り扱っているデータ等のヒアリング要

※保守は実際に構築してからの話
 ユーザーが実際に利用する時間帯を避けるとなると、おのずと時間帯が決まってくる
 あまり考えたくない…

■22

好きな色と似合う色が合っていないヤツは、なぜか思いのほか多い
幸い、オレは好きな色と似合う色が一致していた

色が似合っていないヤツは、パーソナルカラーを知らずに、ただメディアから垂れ流される情報を鵜呑みにしているのだろう

肌の色や瞳の色は1人1人違うものだ
つまり、人それぞれ似合う色がある、ということになる

ファッションのコーディネートは形や素材も大切だが、最初に目に付くのは色だ
特に顔回りの色によって、顔色が良く見えたり、不健康そうで頼りなさそうにも見えたりする

第一印象を決めるのは色、これは言いすぎではないだろう

オレのパーソナルカラーは冬だ
青みのあるハッキリした色、もしくはコントラストの強い色の組み合わせが似合うタイプだ

一例としては、ピュアホワイト・トゥルーグレー・ネイビーブルー・トゥルーレッド・マゼンタ・パイングリーン・ロイヤルブルー・ロイヤルパープル

逆に合わない色は、淡い色・濁った色・黄みの強い色だ
無論、これらの色は避けてきたので、全く問題はなかったが

■21

ハンドルネーム(handle name)とは、インターネット上の掲示板などで名乗るニックネームのことだ
プライバシーを守りつつ個人を簡単に識別する手段でもある

オレは、このハンドルネームを「black」と設定していた

「black」は黒、という以外にも様々な意味がある
黒ずんだ、暗黒の、黒衣の、光明のない、暗澹とした、腹黒い、凶悪な、など

オレの場合は、ただ単純に黒が好きだった、という理由でしかなかったが

2016/08/25

■20

まぁ、安心してよ
キミたちの、命よりも大事な端末を破壊することはないから

やろうと思えばいつでもできるってのもあるけど
目的はそこじゃない

サイバー空間は海のようなもの
一見繋がってなさそうで、繋がっている

別にどこかの誰かが一元管理しているわけじゃないけれど、共通の通信手順を用いることで、様々なネットワークに入ることができる

もちろん世界各国の機密情報が保管されているような場所にもね…

さぁ、面白くなってきたぞ…

■19

いやぁ~、さすがサイバー空間の住人だね
無知で無能なマスゴミさんたちとは一線を画すね

でも、残念ながらキミたちにもこの現象を解明することはできないだろうね
だって、これは「不正アクセス」じゃなくて、「正規のアクセス」だから

どうやったかって?
まぁ、これまで培った技術を駆使すれば、造作もなくできることさ

それに、もともと「ハック(hack)」ってのは、高い技術力を駆使してシステムを操ることだよ
いつの間にか不正アクセスを行うっていう意味が定着してしまったけれど

強いて言うなら「クラッキング(cracking)」だよね
インターネットなどのネットワークを通じて外部から侵入して、悪意をもって他人のコンピュータのデータやプログラムを盗み見たり、改ざん・破壊などを行うことだけどね

これもどちらかと言えば、不正な侵入という意味合いが強い
繰り返すけれど、「不正なアクセス」じゃなくて、「正規のアクセス」だから
厳密に言うと「クラッキング(cracking)」ではないってこと

もっと言うと、罪に問われるとか、法の裁きを受けるとか、そういうことがあったとしたら、お門違いってわけさ

■18

▼とある掲示板からの引用

1.な、なんだぁーーーーー!!オレのスマホがいきなり、なんもしてないのに、アプリが起動しだした!?しかも、人間が操作してるみたいに起動しだしたw

2.オレなんて勝手にメール送信してた…。まだ空メールだったからよかったけど

3.オレはPCがおかしくなった

4.ハックされたんじゃね?

5.まぢかぁ~

6.いちお、ウィルススキャンしてみたけど、不正アクセスっぽいのはなかった。それどころか、いたって問題ナスってなったw

7.遠隔操作されたとか?

8.あるあるだねw

9.ったく人事だと思って

10.いや人事だしw

11.いつからそうなったか、だよな

12.あ~

13.確かに

14.う~ん

15.最近はエロサイト見てないし、うっかりスパイウェアいんすとーるした記憶もないし

16.そ~ゆうのって、フリーソフトと一緒についてくるけどなw

17.しらねぇよ

18.みんなそ~ゆんだよなw

19.う~ん

20.わからんなぁ

21.すべらんなぁ

22.それ違うからw

23.う~ん

24.謎だ

25.謎が謎を呼ぶぜw

26.いや、呼ばないからw

※これ以降は、同様のやり取りが1000件近く続くため、割愛

■17

最近は、いっちょ前にコンピュータにデフォルトで組み込まれている「ファイアウォール(firewall)」以外にも、セキュリティソフトを導入している輩が無駄に多いな

よく「不正アクセス(illegal access)」って言うけどさ
あれって、要はコンピュータへの正規のアクセス権を持たない人が、ソフトウェアの不具合などを悪用してアクセス権を取得し、不正にコンピュータを利用する、あるいは試みることなんだよね

主なものは、セキュリティホールを悪用してファイルを盗み見たり削除・改変する行為、盗聴や総当たり攻撃によるパスワード窃取、メールサーバーを悪用した迷惑メールのばらまきなどかな

あと、実際にコンピュータへの侵入に成功したら、バックドアやワームを仕掛け、そのコンピュータを踏み台に他のコンピュータへ侵入したり、アクセス妨害攻撃をしたり

「バックドア(backdoor)」ってのは、読んで字の如く「裏口」のこと
1度侵入したら次も侵入したいじゃない?
だから、こっそりと侵入経路を確保するわけ

バックドアが設置されていると、管理してるヤツが侵入に気づいて侵入路をふさいでも、前回設置したバックドアから再び侵入できるんだよね

また、コンピュータウイルスが感染する際に、外部からの操作を受け入れるための窓口としてバックドアを設置する場合もあるね

バックドアを使って侵入すると、たいていの場合はコンピュータのすべての機能を使用できる
だから、他のコンピュータへの攻撃の踏み台として利用されてしまうことも多いのさ

なので、バックドアを完全に消すにはディスクのフォーマットやOSの再インストールが必要だったりするね

ここで言う「ワーム(worm)」はコンピュータウイルスじゃない
ユーザーに気づかれないようにコンピュータに侵入し、破壊活動や別のコンピュータへの侵入などを行う悪意のあるプログラムのことさ

俗に言う「マルウェア(malware)」ってヤツだね

まぁ、これはあくまでも「不正アクセス」するときの話
セキュリティソフトとかファイアウォールって意外と性能がいいからね

つまり、「正規のアクセス」で行けば、何の問題もないってわけ

■16

ハッキリ言って、セキュリティ対策を何もしていない、しょっぼい携帯端末なんて興味ない
やろうと思えばいつでもクラックできるからね

搭載されているAndroidはLinuxベースで、個人的にはWindowsとかMacintoshよりも好きだね
Linuxは、世界中の開発者の知識を取り入れて、あらゆる方面に利用できる幅広い機能と柔軟性を獲得し、数多くのユーザーの協力によって問題を修正していくことで、高い信頼性を獲得したんだ

上位500のスーパーコンピュータのうち、90%以上がLinuxを使用していることからも、この信頼性が伺えるね

それなのに…

…まぁ、いいや

■15

そうさ…

ククク…

生殺与奪…

いい言葉だ…

ったく、大した金も払ってねぇくせにいっぱしの利用者面しやがって

そもそもおかしいよね

おまえらは自分の立場ってのをわかってる?
無料で使わせていただいてる立場なんだぜ?

おまえらみてぇなヤツらに、イリュージュと同等のものを創ることができるのか?
低脳で、虫けらかゴミ同然の、生きてる価値もねぇようなおまえらに

まあ、無理だろうけど

…思い知らせてあげるよ

おまえらは、生殺与奪の権限を全て掌握されてるってことをね

■14

ネットワークというかサイバー空間は例えるなら海だね
ネットワーク自体は、いわゆる一元管理されているものではないけれど、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)っていう通信プロトコル(Network Protocol)は万国共通だ

通信プロトコルは通信手順、通信規約って呼ばれることもある
要はネットワークを介してコンピュータ同士が通信を行う上で、相互に決められた約束事の集合だね

英語しか使えない人と日本語しか使えない人では会話ができないように、対応しているプロトコルが異なると通信することがそもそもできないってわけ

ちなみにTCP/IPはインターネットやイントラネットで標準的に使われるプロトコルだね
とある国が、核攻撃で部分的に破壊されても全体が停止することのないコンピュータネットワークを開発する過程で生まれた

つまり、サイバー空間に浮かんでいる通信できる端末の情報は、生殺与奪の権限をネットワークを管理する者に実質掌握されているも同然なのさ

■13

メールってさ、数々のサーバーをリレーのように経由して目的のメールサーバーに伝えられるんだよね
もちろん、ヘッダーフィールドで送信したヤツが使ってるメールソフトとか経由サーバーとかの情報は丸分かりさ

まあヘッダーフィールドは偽装も可能だけど、多くの低脳連中はこういうこと何も知らないでインターネットを使ってんだろうし

仮にこのヘッダーフィールドの見方を知っているヤツがいたとしても、文字・記号の多さに解析するのを諦めるんだろうね

上から見ていけばいいだけなのにね
こんな感じで

■Return-Path :
これは、メールが届かなかった場合に、そのメールが送り返されるメールアドレスだね

■Received :
どこのプロバイダやサーバーを経由して受信したかなどの経路(経由したサーバー)だね
通常はReceived: from ● by ▲ というような形式をとり、これは●から▲へという経路を通ったという意味になる

■From :
差出人メールアドレスだね

■To :
宛先メールアドレスだね

■Subject :
メールの件名だね

■Reply-To :
通常はFromの差出人メールアドレス宛になるけど、他のメールアドレス宛に返信してほしいときにメールソフト上で変更することができるね

■Date :
送信した日付・時刻だね

■X-Mailer :
差出人が使用したメールソフトだね
まあ、このX-の後ろは任意に設定できるんだよね
要はメールソフトやサーバーなどで任意に設定するから、必ずしもX-Mailerっていう記述になるとは限らないってこと

さて、予想通り抗議のメールがたくさん来てるね
たった数百人程度だってのに

抗議したって何も変わらないよ
このサイバー空間を破壊すれば何とかなるかもしれないけどね
まあ、できっこないと思うけど

大丈夫だよ
利用者諸君には迷惑がかからないようにサーバーの増強は完璧にしてあるから

■12

ハハハハハハ!!

「今まで見たことのない症状」?
「原因がわからない」?
しかも「仮想現実アプリ」?

頼むよ
これ以上笑わせないでくれよ
マスゴミさんたち

仮想現実はアプリじゃないからさ
イリュージュにシステムとして組み込んでいるものだから

まぁ、しょうがないか
アプリケーションとかクラウドコンピューティングが何かってことすら知らないような低脳な連中だろうから

今まで見たことがないとか原因不明ってのは当たり前さ
連中の意識をそのままサイバー空間に取り込んだんだから

だから、「意識不明」ってのは厳密に言うと間違い
「意識失踪」が適切かな

あと、今回の件でこっちからは何かを発信することはない
仮想現実を利用している全員に起こったことではないんだから

それに現実世界にいるより、仮想現実にいることを望んでいたわけだからさ
その望みを叶えてあげたにすぎない

何か問題でも?

■11

◆トップニュース

「イリュージュ」に常時ログインしていた数百人が意識不明の重体に

ソーシャルネットワーキングサイト「イリュージュ」を利用していた数百人が意識不明の重体になった
いずれも「イリュージュ」側の提供する「仮想現実アプリ」を利用しており、24時間常時ログインし、何らかのアプリを利用していたとのことだった

搬送された病院では「今まで見たことのない症状。原因がわからない」と困惑を隠せないようだった
なお本件について、「イリュージュ」の運営元からはコメントは出ていない

2016/08/24

■10

とりあえず、24時間常時ログインとかの、明らかに異常な数値を叩き出している連中に着目してみるか

…やっぱりこの国のヤツらか

平和ボケしてて、物質面は豊かなくせに、精神面は極貧
大人と呼べるヤツらは皆無で、体ばかりデカクなって、無駄に年だけ重ねたガキしかいない

国の借金は、明らかに先進国のそれと呼べるレベルじゃない
ハッキリ言って、いつ破綻してもおかしくないね
なのに、周辺にある準先進国とかその他開発途上国に資金援助していたりする

だから借金が膨れ上がる一方、てわけか…

さて、この常時ログインしている連中だけど、ただログアウトしていないだけっていう連中と、常時何らかのアプリケーションを利用している連中とに大別できるね

おおまかな傾向としてMACアドレスを見ると、ただログアウトしていない連中の利用端末はパソコンだね
搭載されたOS、利用履歴から、プライベートで利用しているのばかりだ

で、問題なのは常時何らかのアプリケーションを利用している連中だ

利用端末はスマートフォンが大半なんだけど、一部パソコンもある
しかもこのパソコン、ほぼ100%仕事で使ってそうなものばかりなんだよね

ったく何やってんだか…

まあ、一定時間経過したらセッションアウトしないように設計したのは、わざとだけど

スマートフォンもスマートフォンで、セキュリティ対策を全くしていない端末ばかりだし、これじゃあ、クラッキングも簡単だな

そして連中の共通点は、100%仮想現実にいる、ということ

…そうか

そんなに仮想現実が好きなんだね…

じゃあ、キミたちの望み、叶えてあげるよ

ククク…

■09

世界を4つのエリアに分けてみるか

■Aエリア:先進国
■Bエリア:準先進国
■Cエリア:開発途上国
■Dエリア:後発開発途上国

登録ユーザーの分布
■Aエリア:6億人
■Bエリア:3億人
■Cエリア:1億人
■Dエリア:0人

「Cエリア:1億人」か…
これは興味深いな

…なるほど

いずれの国も地域も、先進国の製造業が安価な労働力を求めて進出してきてるんだね
それによって国民所得の向上、教育水準の向上が進んでる
通信インフラの整備もご多分に漏れずってわけか

Dエリアに関してはやむを得ないだろうな

通称「最貧国」とも呼ばれる地域
1次産品に強く依存した経済
戦乱や災害に伴う労働力人口の減少

インターネットなんてやってる暇はないってことだね

さて、居座ってる時間を見てみようか

■Aエリア:10時間
■Bエリア:6時間
■Cエリア:3時間

これはあくまでも平均値だけど、「Aエリア」は異常値じゃないか?
1日は24時間だよ!
睡眠時間が8時間だとしたら…

…ああ、そういうことか

睡眠時間が6時間だったら辻褄が合うな
大半の連中は就業してるはずだし、就業時間は大抵8時間だろうし

いや、そうとも限らないか…

ちょっと調べてみるか…
1日の大半居座ってる連中が何人かいるからね

■08

サイバー空間てさ
「閉ざされた空間」じゃなくて「開かれた空間」なんだよね

なぜかって?

サイバー空間にアクセスできる各種端末には、識別番号である「IPアドレス(Internet Protocol Address)」が割り振られるし、端末にはID番号である「MACアドレス(Media Access Control Address)」がある

丸分かりなんだよね

どこからアクセスしてるか…
どんな端末使ってるか…
どの程度居座ってるか…

もちろん、NAT(Network Address Translation)とかNAPT(Network Address Port Translation)でアクセスしても分かるよ

確かにこれらを使えば、1つのIPアドレスを複数の端末で共有できるし、NAPTにいたっては、複数の端末と同時に通信するための補助アドレスをも動的に変換し、同時接続することが可能だ

でも、丸見えだね
1つのIPアドレスに何台の同胞がくっついているかなんて

まあ、動的(dynamic)ってのは、状態や構成が状況に応じて変化したり、状況に合わせて選択できたりする柔軟性を持っていること、だけどね

■07

おいおい、一体どうなってんだ?
イリュージュに会員登録するユーザーが10億人って

しかも、今回リリースした仮想現実へのアクセス数、尋常じゃないなぁ
1日あたり1億人て

まあ、仮想現実と認証システムの導入にあたってサーバーは増強してあるから、ハングアップすることはないけどね

しかし、みんなそんなに現実逃避したいのかねぇ…
実生活が充実してないってのもあんのかねぇ…
もしくは、見果てぬ夢を叶えるとか…

忘れてもらっちゃ困るのは、ここは仮想現実なんだってこと
仮想現実をどれだけ充実させてみたところで、キミたちの実生活には一切反映されない
実生活の充実は実生活でしか手に入れるしかないんだよね

■06

認証システムに使えそうなのは、「指紋認証(fingerprint authentication)」と「顔認識システム(facial recognition system)」かな

指紋認証は、人体の特徴を利用する生体認証の1つだ
指紋て、手指の皮膚に走る浅い溝のパターンだよね
読み取り装置に人差し指をかざし、あらかじめ登録されたパターンに一致するかどうかで個人を特定する

顔認識システムは、デジタル画像から人を自動的に識別するためのコンピュータ用アプリケーションだ
一般にセキュリティシステムに使われ、ライブ画像内の顔と思われる部分を抜き出し、顔面画像データベースと比較することで識別を行うものだ

これらも、従来は何らかの装置が必要だったけれど、イリュージュではタッチパネルの技術を応用して、パソコンやスマートフォン等の端末に指を触れることで指紋認証できるようにしようかな

あと、顔認証も各種端末の画面上でできるようにしたいね

もちろん、クラウドだからアプリケーションのダウンロードやインストールは要らない
ただ、そこにアクセスするだけ

さて、何人のユーザーがアクセスするだろうねぇ…

2016/08/23

■05

イリュージュ、ねぇ…

なんて安易で
なんて陳腐で
なんて、的を射てるんだろう

気付いてるヤツは気付いてるんだろうね

由来が、「幻想」を意味する「illusion」だってこと

現実にはないことをあるかのように心に思い描くこと
また、そのような想念

まあ、このサイバー空間はみんなが思い描いている虚構を、あたかも現実に起こっているかのように体感できる機能もあるけどね

仮想現実(virtual reality)っていうヤツ

これは単なる「人工的な現実感」じゃない

仮想現実には、体験可能な仮想空間(virtual world)の構築、五感(のうちのいくつか)に働きかけて得られる没入感(immersion)、対象者の位置や動作に対する感覚へのフィードバック(sensory feedback)、対象者が世界に働きかけることができる対話性(interactivity)の4つの要素が必要だ

この基準に照らし合わせると、小説は視聴覚による没入感が欠け、映画は対話性が欠けるため、仮想現実とは見なされない

仮想現実のシステムは、コンピュータと入出力機器の組み合わせによって構築される

頭に装着して視界を完全に覆うヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mount Display)
手の動きを入力したり、擬似的に触覚を与える手袋状のデータグローブ
体を完全に包み込む衣服状の入出力装置データスーツなど

様々な機器が考案されていて、そのいくつかは実用化されている

でも、このサイバー空間だとそこまで大掛かりな機器がなくても、仮想現実に入ることができるけどね

さて、広告収入も当初の予想を上回るほどの額になっているし
ユーザーの数も、思ってたよりも増加の度合いが大きい

そろそろ、かな…

2016/08/22

■04

インタビュアー(以下「イ」):「本日はお招きいただきありがとうございます」

black(以下「b」):「いえいえ」

イ:「まさか取材に応じていただけるとは思わなかったので」

b:「よく言われますね。取材は別にキライではないです」

イ:「この空間含めて、イリュージュも全てご自身でお創りになったんですか?」

b:「ええ、そうです。楽ではなかったですが、自分は今までシステムエンジニアとして様々な規模のサーバーを構築しましたし、プログラマーとして多種多様な言語に触れてきました。なので、楽しくできましたね」

イ:「しかし、画期的なシステムですよね。今までパソコンに何らかのソフトをインストールしないとできないようなことが、ユーザー登録すればできるので」

b:「確かにそうですね。わかりやすいところだと、メール機能とかファイルのアップロード機能でしょうか。これらはコンピュータに何らかのソフトウェアが必要でした。イリュージュのメール機能はメールサーバーをそのまま使ってますし、ファイルアップロード機能はオンラインストレージですし」

イ:「今のところ大半の機能というかサービスが無料のようですが、今後は有料のサービスを増やしていく予定ですか?」

b:「あまり考えてないですね。自分はイリュージュで商売をするつもりはなくて、あくまでも趣味の延長なんです。まあ、運営費程度の金額が手に入ればいいかなって程度ですね」

イ:「広告収入ですか?」

b:「そうですね。すでに様々な企業からそういった話が来てます」

イ:「イリュージュは特定の国や地域だけでなく、全世界対応なんですね」

b:「ええ。特定の国と地域に絞ってしまうと面白くないと思ったので。これからはグローバル化ですからね。とは言っても、全員が全員登録するとは思わないです。今、世界の人口は100臆ぐらいですよね?だとしたら、1億人ぐらいでいいかなと」

■03

blackの存在は謎に包まれていた

様々なメディアからの取材に応じることはあっても、公の場に姿を現すことはなく、取材する側は、皆専用のオンラインチャットルームで「guest」というIDナンバーを付与され、そこでやり取りをするのみだった

無論、そこはblackの構築したサイバー環境であり、やり取りをしたログは全て削除するような仕様となっていた

男性なのか?
女性なのか?
そもそも人間なのか?

様々な憶測が飛び交っていた
確かなことは、blackがIT業界の寵児的存在である、ということだった

■02

blackは「イリュージュ」というソーシャルネットワーキングサイト(通称SNS)を構築し、運営していた

利用者に必要な作業はユーザー登録だ
その後は、専用のハードウェアやソフトウェアをコンピュータに導入することなく、すぐに様々な機能やサービスを無料で利用することができた

まさに「クラウドコンピューティング」の技術が為せるものだ

なお、「イリュージュ」はblackが単独で創り上げた

これは、blackが優秀なハッカーであり、様々なプログラミング言語を用いたサーバー構築や保守、ソフトウェア開発に携わってきたからこそ、できることなのだ

■01

ハンドルネーム「black」は優秀なハッカーだった

まだユーザーがコンピュータのハードウェア・ソフトウェア・データなどを、自分自身で保有・管理していた、「クラウドコンピューティング(Cloud Computing)」が普及する以前から、その技術を用いたシステムを構築し、実用化していたのだ

クラウドコンピューティングは、手元のコンピュータで管理・利用していたようなハードウェアやソフトウェア・データなどを、インターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式だ

システム構成図で、ネットワークの向こう側を雲(cloud:クラウド)のマークで表す慣習があることから、このように呼ばれる

■00

ナイトメア(Nightmare)は、悪い夢にうなされること、またその現象以外では、「悪夢を象徴する黒い馬」「悪夢を体現させる夢魔」を表す

インターネット等のサイバー空間上でのナイトメアにあたる行為は、クラッカー(cracker)によるセキュリティ破壊や個人情報の盗用・改竄・漏洩などだろう

なお、クラッカーは「ハッカー(hacker)」と呼ばれることも多いが、本来ハッカーはコンピュータ技術に精通した人々に対する尊称であり、悪い意味はない

このため、古くからインターネットに関わっている技術者などの間では、悪さを働く者のみを「クラッカー」と呼んで、ハッカーとは区別すべきであるとの主張もあるくらいだ

2016/08/21

※46

時刻は0:00…
今日という日が終わりを告げ、明日という日に切り替わった…

時は規則正しく刻まれている…
いわゆるルーチンワークのように…

風の噂だが、コマツもオオシロもオールモストというかネットワークビジネス自体を辞めてしまったとのことだった

否定をするつもりはないが、あのシステムはこの日本という国では普及させるのは困難だろう…
おそらくは2人ともそれには気付いていただろうが、引くに引けなかった
そんな感じだろう…

無論、オレには彼らがその後どこで何をしているのかは一切わからなかった
わかったところでどうということもないが…

オレの中の時は動かない…
オレのココロは何も感じない…
しかし、カラダは動く…

時期が来ればいずれはそれも停止するだろう…
今はまだその時期ではないようだ…

凍結したオレのココロが溶けるのが先か…
それともカラダが停止するのが先か…
それは誰にもわからない…



-----完-----

※45

カオリとの関係が再開することはなかった
彼女はそれを望んでいたが、所詮はカラダ同士の繋がり合いでしかなかった…

ココロとココロを結び付けるものとはなり得なかった…

凍っているオレのココロを融解させるのは並大抵のことではない…

※44

マナミはあれから戻ってくることはなかった…
よく見ると私物がなくなっていた
今まで何かあると鬱陶しいほど電話やメールをしてきたが、それもピタリと止んだ…

あのときのメールは削除した
内容は押して知るべしだろうから、見る気にもならなかった…

おそらく、大作メールだっただろう…
1度もオレの目に留まることなく、闇へと消え去った…

※43

カオリの体や匂いはあの時と変わっていなかった…

艶やかで水滴をも弾く柔らかくハリのある肢体…
どこからともなく匂ってくる癒されるような匂い…

マナミと付き合っていることなどはもはやどうでもよかった
カオリの体のありとあらゆるところを味わった

触れ合うたびにその匂いが強くなる…
喘ぎ声のトーンも上がっていた…

どうやら同じタイミングで絶頂を迎えそうだった
あの時は1度もそういうことはなかった…

…皮肉なものだ

※42

珍しくマナミがいなかった
何かを感じ取ったのだろうか?

見る限り私物は残っている…

…まあ、オレとの結婚を考えているとは言え、マナミはまだ20代前半だ。
何だかんだで遊びたい盛りの歳だろう…

ケータイが鳴った
どうやらマナミからメールが来ているようだった

…今見ることもないだろう

※41

「おはよう」

カオリだった
ちょうど、人気のない休憩室にある備え付けのPCでネットサーフィンでもしようかと思っていた矢先だった

自宅にあるものと比べるとスペック的にも動作的にも見劣りがするので、今まではあまり手をつけなかったのだが…

「やっぱりね…。私…」

その次に出てくるセリフはおおよそ見当がついた
だが、敢えて先回りせずに待つことにした
肝心なことは本人の口から言わせるに限る…

※40

カオリの艶かしい喘ぎ声が響き渡る…
思ったよりも大きな声だった…

自分の部屋だったが、周りの住民に聞こえているかいないかはどうでもよかった
一時期隣の住民宅からその手の声が頻繁に聞こえてくることが多かったので、お互い様だ
声を出している本人はそんなことまでは頭が回らないだろうから…

「今の声、絶対隣に聞こえたぜ(笑)」

「やん!」

カオリは間もなく絶頂を迎えようとしていた
既に全身のありとあらゆる場所が濡れていた…
おそらく羞恥心と快感が入り混じった何とも表現のしようがない状態だろう

唇を吸われる妙な感じがあり、目が覚めた
犯人はマナミだった

「あたし、まだ逝ってないんだからね~。先に寝るなんてずるい~」

どうやらマナミに犯されることになりそうだ…

もはや義務と化していた…
愛も快感も快楽も感じなくなっていた
少なくとも愛は最初からなかったが…

夢は潜在意識の現れと言われるが…
まあ、考えてもしょうがない…

※39

土日祝日の田町は人の気配が全くもって感じられない
人嫌いのオレにとってはうってつけの場所だ

難点があるとすれば、稼働している会社が皆無に等しいため、営業している飲食店の選択肢も同じように少なくなることだ

勤務先は24時間体制だが、取引先の社員は週休でいないので、休憩室が快適に使えるのが良かった
平日は人が多すぎて人口密度が異常に高くなる
まるで、帰省ラッシュ時の乗車率並みに…

※38

コマツさんとはラブラブ出来たのかって?

それはご想像にお任せします
って言いたいところだけど、結局何もなかったよ

奥さんと約束してたんだって…
ウソかホントかわからないけれど、ここまで断られるとさすがに凹んじゃうな…

まあ、でもこれでほぼハッキリしたよね
私はコマツさんにとっては単なるセフレでしかないってことが…

2016/08/20

※37

セミナーが終わったあとは、私のグループメンバーのフォローを、近くにあったベローチェでコマツさんにやってもらった

やっぱりコマツさんはすごかった
みんなの士気を高めるのがホントにうまい

そのときの私はコマツさんを知れば知るほど好きになっていく感じだった
どんどん嵌って行くっていうのかな…

フォローが終わったのは夜の11時ごろだった
こういう状況だったら、私じゃなくても期待しちゃうよね…
ラブラブ出来るかもって…

まあ、でも新宿駅までみんなと一緒だったから、あるとしたら八王子かなって感じ
ちょうど、電車待っているときは2人きりだったし…

電車は終電が近いこともあって、結構人が乗っていた
そのせいかどうかわからないけれど、並んで座っているのにコマツさんはほとんど話さなかった

まあ、私はコマツさんと一緒にいられるだけで幸せだったから、特に寂しいって思うことはなかったけれどね

「直紹介の子たちかなりいい感じだね。3ヶ月もあれば乗数の法則が働いて、最低でも30人ぐらいになると思う」

ちょうど高幡不動っていう駅から電車が発車したときだった
車内の人口密度も一気に減ったので、コマツさんは人がいなくなるタイミングを見計らってたみたい

「ホントに?」

「ああ、直紹介が直紹介を連れてくるっていう連鎖が起こり出したら早いね。オレも全面的に協力するよ」

「…ありがとう」

このときすごく胸が熱くなった
それと同じくらい私の中のオンナも熱くなっちゃってた…
恥ずかしい部分を触られたら、それだけでびちょびちょになっちゃうほどだった…

「あ、あとさ…」

「ん?」

「…ちょっと言いにくいことなんだけど…」

「うん…」

これだけ歯切れの悪いコマツさんは初めてかもしれなかった
私にとって都合の悪いことだっていうのは想像ついたけれど…

「マナミがさ、オトコに走りやがったんだよ。しかも、オレが直紹介したマコトとくっ付いたんだ」

確か、コマツさんからアフターのときに1回だけ紹介されたことがあった
タイプ的にはマナミととてもよく似ていた気がした

マナミは恋多き人生を進むタイプなので、『それだけ?』と思ってしまった
トパーズには恋愛禁止令でもあるのかな?
それとも直紹介した人を寝取られた腹いせ?

「別にオレは恋愛禁止令とかはやってないけど、今まで色んな連中見て来て、メンバー同士でくっ付くと、必ずと言っていいほど共倒れになるんだよ。人間て何だかんだで楽な方に流れるもんだし」

「逆に彼氏が出来ることで2人3脚ってことにはならないの?」

「そうなるケースはビジネス始める前から付き合ってたっていうパターンだけだね。もちろんこのビジネスがきっかけで付き合って、結果もバンバン出ればホント言うことなしだけど、実際はそれとは逆の状態にしかならないもんだよ」

「…そうなんだ」

「もうアイツはセミナーに来ないし、カオリちゃんがフォローとかマケとか頼んでも応じないのは間違いないね」

正直なところ納得は出来なかった
理由はわからないけれど…

コマツさんの言っていることは正論だとは思うし、色んな人を見てきた上で言っていることなので間違いはないのもわかる
でも…

「信じたくないって気持ちはオレも同じだよ。でも、信じざるを得なかった。アイツ、マコトとヤッてるときにオレに電話してきやがったし。声聞いたときにすぐわかったよ。コイツヤッてたなって」

別に信じたくないってわけじゃないんだけどな…
どっちかって言うと、信じられないって感じ?

う~ん…
でも、それだけじゃないんだよね…

なんかコマツさんの言うことを聞き入れられない自分がいる
なんでこういう気持ちになったかわからないけれど…

「決定的だったのが、アイツこんな画像を送ってきやがったんだ。合成とかはしてないはず」

それはベッドにうつ伏せの体勢でいると思われる素っ裸のオトコの後姿だった
よく見ると、その背中にマナミのと思われる手があり、もう片方の手に携帯電話が握られていた
どうやって撮ったのだろうか?

「たぶん、天井が鏡みたいになってるラブホだったんじゃないかな。あと、こんなのもあるぜ」

今度のはマコト君とマナミが同じように全裸で抱き合ってディープキスをしている画像だった
マナミは睨みをきかせるみたいなカメラ目線だったけれど…
まあ、これはウソではないなって思った

※36

オレは渋谷と原宿を結ぶ、確かキャットストリートと呼ばれている遊歩道が好きだった

大通りの喧騒から一歩中に入るイメージだ
多少の別世界感を味わえるのがよかった

昼間は人通りが多いが、仕事が終わった18時半から19時ごろは適度に人気があるので、散歩をするにはちょうどいい
20~21時ごろは路面店が閉まり始めるので、寂れて来る

それだと逆にあまり居心地がよくない…

カオリとはよく来たことがあるが、マナミとはない…
なぜかふと思い出した…

※35

確かタカシと初めて会ったのは新宿文化センターのセミナーだった
コマツさんがオオシロ君を直紹介してから、1週間ぐらいで動員してきてた

ちょうど私も直紹介を4人して、グループも大きくなってきてて、オールモストが一番楽しいときだったな…

タカシはコマツさんほど背は高くなかったけれど、体形的には細身の長身そのものだった
セミナーに来たときは私服だったけれど、上も下も靴とかも黒で統一してて、しかもよく似合ってた

黒みたいな濃い色って人によってはその色に負けちゃうけれど、タカシはそういう色が映えるタイプだった
そういうのを分かった上でコーディネートしてそうだったから、センスがいいんだろうなって…

まあ、その日は初対面だったし、私もコマツさんにメンバーのフォローをお願いしてたからじっくり話すことはなかったけれどね
あと、結構警戒心が強いというか人見知りなのかなって思った

顔は笑うけれど、目は笑わないみたいな感じ…
自分の弱みを見せなさそうだし、人に心を許すこともほとんどなさそう…

でも、目に力があったし、肌もキレイで、何よりも独特の雰囲気があった
今まで付き合ってきたオトコたちとは一味も二味も違うものを感じた…

とは言っても、このときはまだコマツさんに対する気持ちというか想いの方が強かったから、すぐに付き合うとか体の関係を持つとかになるとは思っていなかった
セミナーから帰るときにコマツさんからあのことを聞くまでは…

※34

田町での仕事は9時から18時の定時で上がれる。まるで公務員のようだ…
なのに、収入に加えて仕事のラクさは明らかに上がっている

この世は不平等というか不均衡というか…

現実問題、生き延びるにはお金が必要だ
ならば、ないよりはあった方がいい
選択肢も増える

何よりもお金を持っていなさそうな連中が出す、貧乏神を具現化したような空気感が嫌いだった

見るとすぐわかる…
お金に好かれていない感が出ているのが…

※33

あのときの私、絶対どうかしてたな…
今じゃあり得ないぐらい頑張ってた気がする

ていうかこの会社、ホント夢も希望もないよね
なんか毎日がいつも同じって感じ。昨日も今日も明日も…

まあ、まだここから直接雇われてないだけいいか…
業務委託ってヤツだし

あ~あ
まさか、中退した大学の近くで仕事することになるなんて、絶対なんかのイヤガラセだよね
ランチのときに行ける場所限られちゃうし…

そういえば、あれからもう1年ぐらい経つんだっけ
早いなぁ…

私、このまま30になって40になって、みたいな感じで終わっちゃうのかな…
ずっとここにいたらそうなっちゃいそうだけど

ホント、あのときほど波乱だったときはないって感じだった
まさか半年ぐらいで今まで付き合ったことのないタイプのオトコ3人と付き合うとは思わなかったし
で、その誰とも結ばれてないし…

もちろん1人目はコマツさん
色々な意味で一番理想的だったけれど、彼には奥さんも子供もいたし、私は所詮都合のいい相手

でも、そうとわかっていてももしかしたら…みたいな期待はあった。
叶わなかったけれどね…

私が確か1ヶ月半ぐらいで直紹介4人を達成したときにコマツさんとは最初で最後のエッチをした
前戯、本番、後戯に限らず私が感じちゃうポイントを的確に攻めてきたし…

ちょっと力は強かったけれど、気持ちよかったし、何よりも普通に逝って終われたのがすごく良かった…

今までのオトコは、ただ私の上でとにかく力任せに動くだけ
ハッキリ言って痛くて…
逝ったフリをする気にもならなかった

コマツさんとの一夜があまりにも良かったから、私はもっとしたかったんだけど、あれ以降は一緒に帰るようなことはあっても、誘ってくれることはなかった

もちろん私から誘うこともあったけれど、いつも「オレは妻子持ちだから」って断られるばかりだった…

まあ、しょうがないないかって思ってはいても、体は疼いてばかりで、すごく欲求不満だった
そんなときにコマツさんが直紹介してきたオトコがいた

オオシロ君っていうコマツさんと同い年のオトコで、まさかエッチすることになるとは思わなかったけれど、そのときはちょうど2人目のオトコとすごく納得のいかない別れ方をしたあとで、心に空いた穴を埋めるためみたいな感じでやっちゃったんだよね…

まあ、1回で終わっちゃったけれど…

もちろん流れ作業みたいで気持ちがいいわけもなく、タイプ的には2人目のオトコと似ているところもあったけれど、トータル的に好きになれなかった…

私は基本的に元カレとやり直したいって思うことはないんだけど、唯一の例外がコマツさんの次に付き合ったオトコだった

オオシロ君が直紹介してきたオトコでミョウジンタカシという人だった
コマツさんみたいに強烈に魅かれたっていう感じではないけれど、気付いたら誰よりも好きになってた…

彼と過ごした時間は未だに色褪せることなく心と体に記憶として残っている…
まさか田町で再開できるとは思わなかったな…
もしかして、同じところで仕事してたりしてね…

タカシはあのときと変わっていなかった
少しだけ、前より表情に影が増えていたぐらい
私の気持ち、タカシは察してたかな?

※32

「なぁ、前から聞こうと思ってたんだけどさぁ…」

「なぁに?」

「自分さぁ、仕事してんの?」

「なんでそんなこと聞くの~?」

「いつも帰ってくると、当たり前のようにいるじゃん?気にならない方がおかしくね?」

「え~。いちゃいけないの?だってぇ、今月はまだアレが来ないってことは、妊娠してるってことじゃん?そんな状態で仕事なんて出来ないよ。ストレスとかでお腹の赤ちゃんに悪いじゃん。タカシだって元気な赤ちゃん見たいでしょ~?」

「ああ…。そうだな…」

正直どうでもよかった…
また、心にもないことを言ってしまった…
完全に職業病だ…

世間一般の普通と呼ばれる方々はこういった状況を素直に喜べるのだろう…
オレは既に感情が枯渇しているか凍りついているかのどちらかになるのだろう…

いつからそうなったのかはわからない…
気付いたらそうなっていた…
そんな感じだった

「タカシ?」

視界には入っていなかったが、マナミがオレの顔を覗き込んでいるようだ
オレの反応が逐一気になるのだろうか?

マナミと視線を合わせる気は起きなかった…
正直、最近はこうやって凝視されることにうんざり気味だった…

※31

『設定については何度も試してみてます!!対応エリアに入ってることも確認済ですって!!』

だから?
こっちのせいってこと?

てかさ、何度もメールしてんだろ?
うちらでわかるのは契約状態が正常かどうかってことだけだっつうの…
バカは死ななきゃ直らんってホントだな…

『違います!確かにそちらで申し込んだ無線LANです!機械もレンタルしてます!繋がらないのに料金だけかかるっておかしくないですか?』

いつも思うんだけど、あんたちゃんと利用規約読んでんの?
使ったか使ってないかじゃなくて契約したかしてないかで料金が発生するものなんだがなぁ…
賃貸契約みたいなもんなのにね…

しかも何を勘違いしてるのか、うちを通して申し込んでるサービスじゃねぇし…
ああ~、めんどくせ!

※30

「タカシ、だよね?」

ちょうど森永製菓のビルで仕事上がりの一服ならぬ一杯としてコーヒー牛乳を飲んでいたところだった
いつもはすぐ帰るのだが、今回は偶然そういう気分だった

カオリは基本的に変わっていなかった
よくありがちな付き合ったり、別れたりで別人のように雰囲気が変わることはなかった
強いて挙げるなら、表情に少し影が出ているくらいだった
オレと別れたことが直接の原因なのかはわからないが…

「ああ、久しぶり…」

カオリはまだやり直したいと思っているのだろうか?

「相変わらずだね…」

一瞬笑顔が見えた気がしたが、すぐに消えた

「ん?ああ、そうだな…」

その言葉の真意が図りかねた
考えすぎだろうか…

「…」

カオリが何か言いかけたように見えた

「とりあえず、元気そうで良かった…。じゃあ、またね…」

基本的にカオリは思っていることをなかなか言おうとしないところがあった
今回もご多分に漏れずだったが…

そして、どういうわけかオレの心にも言い様のないざわめきが発生していた
もう1度やり直したいということだろうか?
それとも、単なる肉欲だろうか?

すぐに答えは出せなかった
そもそも出す必要性がないかもしれないが…

※29

シャノアールに入るとコマツがタバコを吸っているのが見えた
言うまでもないが、そこにはマナミもほかのビジネスメンバーもいなかった
完全にコマツを独り占めできる状況だった

来る途中、それほど遠くない場所にラブホテルと思われる建物が見えた
カオリはもう少しオトコが喜びそうな下着を着てくれば良かったと思った

コマツはやや疲れているようにも見えたが、カオリの存在に気付くと思わず釣られて微笑してしまうような屈託のない笑顔を見せた
カオリは下半身が疼き始めるのを感じた

「お疲れ様です。まあ、ビジネスの話と言っても別に硬い話をするわけではないので、リラックスしてください」

「あ、はい」

カオリは内面を見透かされたと思い、ドキッとしてしまった

「大丈夫ですか?緊張してるように見えますけど?」

「まさかコマツさんと二人で会うことになるなんて思わなかったので…」

「そうですか…」

コマツは吸っていたタバコを消し始めた

「…コマツさん」

「はい…」

「私になんかお手伝い出来ることはありますか?」

「お手伝い、ですか?」

「なんか、いつもすごく忙しそうじゃないですか。今日とか特に。なので、私に出来ることがあればって思ったんです」

「そうですねぇ…」

どうやらコマツにとっては思い掛けないことだったようだ

「あと…。私…」

「わかってますよ」

「え?」

カオリは顔が赤くなるのを感じた

「であれば、まずは直紹介を4人してください。交換条件とかではないんですけど、何よりもカオリさんが稼げるようになりますし、それに併せて自分も稼げるようになるので。理想は3ヶ月ぐらいで出来ると一気にグループが増えます」

「わかりました」

旨く乗せられた気がしないでもなかったが、それほどカオリの中でコマツの存在が大きくなっていることの証明でもあった

※28

カオリの携帯電話が鳴る
コマツからだった

「もしもし」

『お疲れ様です。コマツです。もう帰った感じですか?』

「あ、まだ、です。今、八王子駅のエスカレーター、です」

『ああ、そごうのとこですよね?』

「あ、そうです」

『今日はすいません。新規の人が多かったので。セミナー終わったあとのすかいらーくにいたのも知ってたんですけど』

「ああ、気にしないでください。なんか忙しそうでしたし、マナミも帰っちゃったんで」

『そうでしたか…。このあとって空いてますか?』

カオリは胸が高鳴るのを感じた

「はい…。大丈夫です」

『じゃあ、南口のシャノアールに来てもらってもいいですか?』

「初めてコマツさんと会った場所でしたっけ?」

『確か、そうですね』

「わかりました」

『このビジネスは話しても話しても話しきれないことがいっぱいあるので』

カオリの頭の中はコマツと精神的に肉体的に距離を縮めることでいっぱいになっていた

2016/08/17

※27

オレは京王八王子の近くに住んでいた
定期は乗り換えの回数を減らすため、明大前乗り換えではなく、敢えて新宿乗り換えにしていた

新宿から田町でも渋谷から田町でも車内の混み具合に変わりはない
山手線の渋谷・品川方面は品川まではとにかく混んでいる

オレも含め、9時出社組の影響によるものだろう
会社の稼働時間はどこもなぜ図られたかのように9時前後なのだろうか…

個人的には正午から、もしくは夕方、場合によっては夜間から始業するところがもっとあってもいいと思う
始業時間帯の集中による混雑自体がなくなれば、通勤ラッシュという言葉もなくなるだろう

※26

結局コマツさんと話せなかったなぁ…

まぁ、あれだけ新規の人がいたら無理だよね…

コマツさんだって体は1つしかないんだし…

※25

セミナーが終わると、私はマナミとすかいらーくに行くことになった
何年か前にすかいらーくは全てガストに変わったものだと思っていたので、逆に新鮮だった

これってある意味天然記念物だよね(笑)
すかいらーくに入ると、既にコマツさんがABCみたいなことをやっていた
なんか忙しそう…

「あの新規、今日来てたね。オールモストやるのがほぼ決まってたっぽいから、コマツさんも優先させたんだと思う」

「ああ、なるほど…」

「たぶん今日は新規で来てた人多かったみたいだから、ここいっぱいになりそうだし」

なぜかマナミは面白くなさそうに見えた

「じゃあ、今日はコマツさん大忙しだね」

「まあ、自分の取り分が増えるから別にいんじゃない~」

マナミはタバコに火を点け始めた

「どうかしたの?」

「別にどうもしないよ」

あ、なんかぞろぞろクリエイトホールにいたっぽい人たちが入ってきた

「さってと、混まないうちにトイレ行ってこよっと」

明らかにマナミは不愉快そうだった
まあ、たまたまそういう気分だったっていうことにしとこっと
にしても人が一気に増えたなぁ…

コマツさん大変そう
なんか手伝ってあげられないかな…

※24

当日はマナミと待ち合わせをすることにした
場所はJR八王子駅北口を出て、前に広がっている大通りを真っ直ぐ5分ほど進んだところにあった

来る途中にヨドバシカメラやほっかほか亭があり、それなりに賑わっていた
どうやら八王子クリエイトホールはいわゆる生涯学習センターのようだった

可変式の舞台のあるホール、レクリエーション室、展示室、視聴覚室、料理講習室、スタジオ、録音編集室、創作室、学習室などがあるようだ

「今日は一番上の階でやるんだよ~」

こないだの新宿でのセミナーと違い、今日のマナミはいつも通りの超ミニスカートと膝が隠れるサイズの黒いリボンが付いたロングブーツを履いており、今回は完全に生足の状態だった
髪もアップにしており、新しい人のための事業説明会にしてはやや刺激が強いファッションだと思った
客寄せの一環だろうか?

会場は最上階にある視聴覚室だった
室内は白を基調としており、大学にあるような階段状の講義室のようだった

だいたい4~50人ぐらい入れそうな広さだった
今回も会場は前の席から7~8割ほど埋まった状態になっていた

コマツがセミナーで話していた内容は前回とほぼ同じだったが、不思議なことに前回では頭でしかわかっていなかったところが、また改めて聴くことによって体に浸透し、靄のかかっていた視界がよりクリアになったような感覚があった

もっともコマツが話していたからだとは思うが…

※23

田町にはほぼ行きつけになっている『麻布ラーメン』というラーメン屋があった
ここ以外では浜松町や麻布十番などにも店舗があるらしかった

トッピングにネギやニンニクがあるのは一般的だが、それ以外にもやしのキムチがあったので、よくにサービスで食べられるライスに乗せて食べていた

無論ラーメンにも乗せたりしてみたが、個人的にはライスに乗せるのが好きだった
ピリッと来る辛さはあったが、コクがあるのでむしろ心地よかった

また、メニューの中に『とんこつキムチラーメン』があった
使われていたのは白菜キムチで、辛さはなく、むしろ甘味を感じるものだった

これが本場の味なのだろうか?
今までキムチは辛いだけという先入観があったが、それはいとも簡単に崩れたのは確かだった

あと、忘れてはならないのは『つけ麺』だろう
ピリ辛で濃いめのスープとしっかりとコシのある麺との相性は思いのほか良かった

実はラーメン自体もそれほど好きではなかったが、オレの味覚が変わったのか凝り固まり気味だった感覚が解放されたのか、週に1回は食べないと落ち着かなくなってしまった
いいことかどうかはわからないが…

※22

あれ?マナミから電話だ
何だろう?

「もしもし」

『あぁ~、ごめんね~。今だいじょぶ?』

「うん。どうしたの?」

『んと。今週の土曜にさ、セミナーあるじゃん。一緒に行かない?』

日程表…日程表っと

「うん。いいよ。あ、でもこの日って『新しい人のための事業説明会』って書いてあるけど、行っても大丈夫なの?」

『問題ないよ~。ていうか、日程表に載ってるセミナーは全部行った方がいいよ~。ってコマツさんも言ってたし』

「そうなんだ」

『それに~。あのセミナーの雰囲気っていうか空気ってさ、なんか違うじゃん。なんていうのかな…』

「ああ、なんかわかるかも」

『でしょ~。その空気を吸うだけでも結果に繋がるって言われてるしね~』

「へぇ…。まあ、それもなんとなくわかる気がする」

『だよね~。じゃあ、また土曜にね~』

「うん。じゃあね」

えっと、会場は『八王子クリエイトホール』かあ…
時間は13時…
どこにあるんだろう…

※21

「まさか、昨日の今日で振込みまでしちゃうなんて思わなかったよ~」

「早い方がいいんでしょ?」

「まあね~」

JR八王子駅南口にあるシャノアールは今日も空いていた

「あ、コマツさん来たよ~」

いつも通りのスーツ姿にボストンバックを持っていた

「お疲れ様で~す」

「おう。お疲れ。カオリさんもお疲れ様です」

「お疲れ様です」

「行動早いですね。間違いなく成功しますよ」

「そうなんですか?」

「今まで色んな人を見てきたのでわかるんですよ。すぐ行動する人とそうでない人では結果が大きく変わってくるもんです」

「へぇ…」

コマツに言われると、本当にその通りになるような気になるから不思議だ

「さて、では約束通りセミナーでは話さなかったことを話したいと思います」

コマツはボストンバックからA4のレポート用紙を取り出した

「このビジネスが流行らせる仕事っていうのはなんとなくわかってもらえたと思います。自分自身が広告塔となって、このビジネスチャンスを一緒に広める同志を集めるイメージですね」

「商品じゃなくて、ですか?昨日ちょっと調べてみたんですけど、商品をどれだけ流通させるかによって収入も変わってくるみたいなことがネット見てたら書いてあったので」

コマツはニヤリと笑った
『そう来ると思った』と言っているかのようだった

「確かにそれもあります。商品の流通によって収入に差が出るのは事実です。では、なぜビジネスチャンスを広める人を集めるって言ったかというと、その方が稼げるし、何よりも効率がいいからなんです。ちょっとイメージしてみて欲しいんですけど、オールモストの扱っている商品て消耗品ですよね?基本的にお客さんは浮気性です。つまり、商品を先に広めると、このビジネスの醍醐味である継続的な収入になりにくいということになります。ビジネスメンバーだって毎月定期購入してますし」

「ああ、なるほど…。確かにそう言われれば、そうですね」

「で、実際のビジネスの進め方なんですけど、喋らないでください」

「え?」

このビジネスは人に伝えていくものだと言われた矢先だっただけにカオリはコマツの真意を図りかねた

「もちろん、一言も話さないでくださいっていうことではないですよ。伝えるときにこのビジネスの全てを話さないでくださいっていう意味です」

「あ、そういうことですね。でも、なんでですか?」

「伝わらないからです。それに、やり始めの経験値が低い状態で話すとかえって逆効果です。例えば、相手から何かしら説明を受けるときに、よくわかってない人から受けると余計わからなくなりますよね?それと同じです」

「…確かにそうですね」

「マナミちゃんからこの話を聞いたときもそうだと思いますけど、どんなビジネスかは一切聞かされてなかったですよね?それと同じことをカオリさんもやればいいんです」

「はい…」

「コツは楽しむっていうことと興味付け、ですね。自分が楽しんでないものを他人が楽しめるわけがない。ということです。相手が聞きたいって言ってくる状態にすれば勝ちです」

「…なるほど」

「で、相手を聞きたいっていう状態にしたあとは今回みたいなセミナーに連れて来て下さい。日程表を今渡します」

その日程表はカレンダー形式になっており、左上にTOPAZと書いてあった

「トパーズって宝石のトパーズ、ですか?」

「そうですね。自分のグループ名でもあります。このビジネスはやっていくとどんどん人が増えてきます。ビジネスグループってヤツです。由来ですけど、トパーズは別名黄玉って呼ばれてて、確か最初に発見されたのが明治時代らしいです。当時はすごく貴重品として高く売れたみたいです。で、このトパーズっていうグループも全員が20代ばかりっていうほかのグループとは異色の存在なんです」

「ああ、トパーズみたいに貴重だからってことで。って感じですよね?」

「はい、その通りです」

コマツは屈託なく微笑した
カオリは胸がジワリと熱くなるのを感じた

「セミナーって土日が多いですね」

「自分のグループはなぜかサラリーマンが多いんですよ。彼らの多くは土日休みなもんで」

「もし、セミナーに連れて行けない場合はどうすればいいんですか?」

「そういうときは、マナミちゃんがやったみたいにその場で自分に電話してください。そして、こないだのように自分が話しに行きます。これは業界ではABCって言われています。自分はマケって呼んでます。マーケティングケアのことです。あ、じゃあ今連絡先交換しましょうか?」

「あ、はい」

赤外線通信を使うことにした

「さっきから色々話しましたけど、大丈夫ですか?」

「はい、問題ないです」

「じゃあ、最後にセミナーに連れてくるときとかマケのセッティングをするときに忘れずにやって欲しいのが、ティーアップです」

「え?ティー、アップですか?」

「はい。何かっていうと、持ち上げることです。マナミちゃんも言ってたと思うんですけど、例えば『スゴイ仕事』『スゴイ人に会える』とかですね」

「そういえば、言われた気がしますね」

「ティーアップしたときとそうじゃないときでは決定率が大分変わってきます。マナミちゃんはティーアップがとにかく上手いです。ね」

コマツは敢えてという感じでマナミを見た
今まで上の空状態だったマナミは我に返ったようだった

「あと、とりあえずは自分で紹介することだけを考えてください。当面の目標は4人です。4人ぐらい紹介できると、グループがだんだん大きくなってきます」

「はい。わかりました」

「ちなみにマナミちゃんは、今何人直紹介してたっけ?」

「カオリでちょうど4人ですね~」

「へぇ…」

「まあ、そんな感じでサクッと行きましょう」

「はい!」

季節は冬だったが、カオリの気持ちは夏のように暑くなっていた

※20

マナミがオレのモノをくわえている…

どんな顔をしているのかは角度的に見えないが、ただ単にくわえるだけに留まらず、舌先で舐め回し、転がしていた

きっとこの世のものとは思えない形相をしているに違いない…
お互いの性器を交えるのとはまた違った気持ちよさとくすぐったさ、そしてムズムズ感があった
それが、何度となく逝かされたあとだったとしても…

これで200メートルを全力疾走したぐらい体力を消耗させられる…
逆にマナミは今まで以上に元気になるようだった

カマキリはオスよりもメスが体が大きい…
ある意味理に適っているかもしれない

※19

そうだ
疑うわけじゃないけど、一応ネットワークビジネスってどんなものか調べてみようかな
コマツさんも調べてみてって言ってた気がするし
早速グーグルで検索してみよっと

……なんかいっぱい出てきた…
とりあえず一番上に出てきたのにしてみよっと

『ネットワークビジネスというのは、人と人のつながりによって商品の流通を発生させていくという、新しいスタイルの流通業です。
まず、ネットワーク企業というのが存在します。そのネットワーク企業というのはすべて製品を持っています。
製品のない会社は存在しません。
参加するためには、まず自分がその会社の製品を買います。
そして、ビジネスメンバーの登録をして、いよいよ活動開始です。
具体的な商品としては「化粧品」、「健康食品」、「健康器具」、「通信機器」等があります。
値段は一品が数千円のものから数十万円のものまで多数存在します。平均は1万円前後でしょうか。
そして、この製品を自分の影響力によって流通させていくことになります』

へえ…
確か、オールモストはサプリだって言ってたような…

『さて、収入はどのようにして得るのかについてです。従来の流通業を考えてみましょう。
この化粧品を売るために企業は、まず、広告をします。
そして、店舗を持ちます。
店舗を持つということは、お客さんが来るということです。
商品が1つ2つでは話になりません。
よって、いろいろな種類の商品を店頭に並べることになります。
ということは、お店はある程度在庫を確保しておくことになります。
そして、無人のお店では商売ができませんので、社員やアルバイトを雇用し給料を払います。
こう考えてみると、1つの商品が売れるまでには様々な出費があることがわかります。
この、様々な出費に商品の原価をたして、利益を上乗せして売るわけです』

ふ~ん…
わかるようなわからないような…

『さて、ネットワークビジネスというのを考えてみましょう。
商品を流通させて利益を出すのは同じです。
しかし、広告をする必要も、店舗を持つ必要も、社員やアルバイトを雇う必要もありません。
なぜなら、製品を購入している愛用者が口コミによって宣伝し、店対消費者ではなく、消費者対消費者で商品を売買します。
店舗がないので、当然、社員もアルバイトも必要ありません。
この様々な経費がネットワークビジネスでは浮くことになります。それを、製品を口コミで流通させているビジネスメンバーに還元しようということです。
浮いた経費は半端なものではありません。
その経費分が収入として入るのですから億万長者だって簡単になれるのです。
この還元される収入システムには、いろいろなものがあり、企業によって還元率も違います。
しかし、ほとんどの企業は、自分が商品を売った人が、さらに消費者を紹介すると、その人の消費額からも収入を得ることができるシステムをとっています。
つまり、自分の「子」だけではなく「孫」や「ひ孫」からもコミッションが入るということです。
この連鎖による流通で商品を流通していくのがネットワークビジネスなのです』

ああ…
だから、コマツさんは1人紹介すると…みたいなこと言ってたんだ

『では、ネットワークビジネスにはどうのような魅力があるのかというと、以下のようなものがあげられます。

・権利的収入なので収入に上限がない

これは、先ほど説明したとおり通りですね。
普通の商売では自分が売った分の収入しか入りません。
ネットワークビジネスならば自分の「子」や「孫」が売った分からも収入がありますので、権利的収入といえます。
よって、億万長者も生まれるわけです。

・初期投資が数千円から始められる

ビジネスを立ち上げるというのは非常にお金がかかるものです。
自分で商品を開発して、流通システムを作り、収入システムを作り上げるのです。
時間もお金も半端なものではありませんね。
そこで、FC(フランチャイズ)というビジネスが、今流行っています。
FCというのは、商品と流通システムと収入システムが最初からあります。
本部のノウハウをそのまま使うことができるのですから自分で1から作り上げるよりははるかに楽です。
しかし、「加盟金」、「保証金」、「研修費」、「宣伝費」、「不動産保証金」、「内装工事費」、「消耗品」などなど、かかる費用が半端じゃありません。
最低でも500万円、高ければ3000万円くらいかかります。
しかも、月商の3~5%をロイヤリティとして本部に支払わなければなりません。
これは、システムを買っているわけですから仕方がないことです。
しかし、ネットワークビジネスは、システムを買うのではなく、自分が流通システムの一部となるのです。
よって、初期投資は少なければ1万円前後、多くても数10万です。しかも、ロイヤリティも存在しません。
これは、ビジネスを始めたいけど資本がないという人にはぴったりのビジネスと言えるでしょう。

・副業として在宅でできる

FCでは始めるときに、会社をやめて独立するという形にしなければ時間的に経営していくのは不可能です。
「俺、サラリーマンだけどセブン○レブンの店長なんだあ」
ってやつはまずいません。
独立するのは半端な勇気と覚悟ではできませんよね?
まして、結婚していて、子供がいるなんてときは万が一にも失敗はできません。
しかし、子供が大きくなるのを待っていたのでは50才、60才になってしまいます。
ということは現在勤めている会社に終身雇用になってしまうわけです。
独立したいけど、会社をやめる勇気はない、そんな人でもできるのがネットワークビジネスです。
ネットワークビジネスなら在宅で自分のペースで仕事ができます。そして、ビジネスが波に乗ってきたら会社をやめて本格的に取り組めばいいのです。
あの「金持ち父さん」もいっていました。「はじめから会社を辞める必要はない。パートタイムのビジネスをもて」とね。

・難しい知識をはじめから必要としない

ビジネスを立ち上げるにあたっていくつか専門的な知識を必要とします。
これは、自分で勉強しなければならないのです。
もし、わからないことがあったとしてもそれを聞く人がいません。
ネットワークビジネスではこのような専門的な知識をほとんど必要としません。
それにもしもわからないことがあっても、自分のアップの人にきけばすべて教えてくれます。
これは、非常にやりやすい環境です。
なにしろ、自分がやろうとしていることを先にやってきている先輩が手取り足取り教えてくれるのです。
この教育システムはネットワークビジネスの大きな魅力です。

・時間的自由が手に入る

世の中にはお金持ちと呼ばれている人がたくさんいます。
「医者」、「弁護士」、「大企業の社長」。
これらの人はみなお金持ちです。しかし、もしも、この人たちがそのお金を使って「世界一周旅行」に出かけたらどうでしょうか? その人たちはそのあともお金持ちでいることができるでしょうか?
答えは「NO」です。
この人たちは自分の労働によって収入を得ています。
つまり、自分が働かなくてはお金が入ってこないということです。お金は歩けど時間がない、ということになるわけですね。
しかし、ネットワークビジネスでは自分の「子」、「孫」からの収入がほとんでです。
自分が何をしていようと収入がもらえる権利的収入ですから、時間的自由が手に入るのです。
あの「金持ち父さん」も」言っていました。「SクワドラントではなくBクワドランとになれ」とね』

なんかメリットばっかり書かれてる気がするけど…
おっと、次は『■ネットワークビジネスの罠』だって。何だろう?

『ネットワークビジネスというのはたくさんの魅力をひめたビジネスということがわかっていただけたと思います。
では、一つお尋ねします。
あなたの周りでネットワークビジネスをやっているかたはどのくらいいますか?
そんなにはいないでしょう。
ではなぜ?
それは簡単です。
こんな、都合が良いビジネスは「胡散臭い」からです。
ネットワークビジネスというのは低資本で始められるためリスクは少ないように思われがちですが、、実は大きなリスクがありました。
それは、「ネットワークビジネスがネットワークビジネスであること」です。
ネットワークビジネスというのは自分の持っているネットワークに商品を流通させるものです。自分の持っているネットワークというのは「友達」であったり「親戚」であったり「同僚」であったりします。もしあなたがこの「胡散臭い」ビジネスを勧められたらどうしますか?
「こいつ!こんな怪しいものを俺に紹介しようというのか!」ってなりますよね
私だったら、友達やめます。
つまり、ネットワークビジネスというのは自分のネットワークに商品が流通すれば収入はたくさん入りますが、実際には流通させることがとても困難である、ということです。
流通させることができなければ、収入は入りません。
そして、みんなやめていくわけです。
そんな方々がやめたときに言うセリフがあります。「ネットワークビジネスってインチキだよ」と。これがさらに業界の「胡散臭い」イメージとなっていくわけです。ですから、ものすごい悪循環をしているということですね。
さて、一生懸命自分のネットワークに商品を流通させようと自分の知り合いを勧誘したとします。
もちろん、「胡散臭い」ビジネスですがあなたが始めたわけですから、同じように考えて、始めてくれる人も中にはいるでしょう。
しかし、100人に5人くらいですね。
副業で、自分のペースで、って…100人にアポとって、呼び出して、説明して。
いったい何年かかるのか…それでいて断られた人からはどんどんと信用をなくしていくのです。
つらい…非常につらいビジネスです。
ネットワークビジネスにはたくさんの魅力がある裏側でこんな罠が仕掛けられていたのです』

そうなんだ…
まあ、でもそうかもね
あれだけメリットがあるっていうことはそれ相応のデメリットもあるはずだし…

『ではネットワークビジネスの成功は絵に描いた餅、机上の空論なんでしょうか。
しかし、実際に成功している人がいるのも事実です。
そのような人たちの成功の秘訣、それは、「成功するまでやめないことです」そうすれば、必ず成功します。
ネットワークビジネスのリスクを認識し、いくら断られてもがんばって勧誘し続ければ成功はするでしょう。  
しかし、そんなことはみんなわかっているのです。
それでも、つらくてみんなやめていってしまうのです。
では、断られて、友達をなくすのがいやな人はこのビジネスでは成功ができないのか?
さて、ここで発想を転換します。実はとっておきの方法があるのです。それについて考えてみましょう。
さてアメリカでは「商品を流通させる」為には大きく分けて2通りのやり方がある、と言われています。1つはセールス、もう1つはマーケティング、殆どの流通がこの2つに分類出来てしまうそうです』

2つに分けられちゃうんだ…。

『●セールスとは、積極的に売りにいく方法
●マーケティングとは、相手の方から買いに来る方法

ネットワークビジネスは、本来は「マルチ・レベル・マーケティング」という呼び方をしますので、本来は「マーケティング」の部類に入るはずなのです。
しかし、ほとんどのネットワーク活動において「セールス」の範囲でしか活動は行われていません。
商品の押し売り、差別化の押し売り、ビジネスチャンスの押し売り、セミナーへの動員、クロージング、ネットワークでやっている事は全てセールス手法の延長です。
では、「マーケティング」とはどういうやり方なのでしょう?
それは見込み度の高い人を集め、相手の方から、「私、やってみたいです。」と手を上げてもらう手法です。
そして、「売り手優位の商売」を行う事です。
客に媚びを売る商売はろくな商売になりません。
相手の欲しいものを提供し、あなたの方が優位な立場で商売をすることです。
これも、相手の方から寄ってくるマーケティング手法だからこそ、出来るのです。
セールス手法で押し売りをしておいて、「買っても良いし、買わなくても良いよ。」なんて事を言っていれば、誰も買ってくれないでしょう?
つまり、最初から従来のネットワークビジネスは歯車が狂っているのです。
正しくマーケティング手法に則って展開すれば、相手の方からあなたの所へやってきます。
そしてあなたは、自分が優位な立場を守ったまま、ビジネス展開する事が可能になるのです。
殿様商売こそが、楽しい商売です。これを実現する為には、「ノーマルなマーケティング手法」をベースに組織構築を行うことです。
そして、その組織構築こそがネットワークビジネスの成功の秘訣になっているのではないでしょうか』

う~ん…
確かに私も押し売りはイヤだね…
マーケティングかぁ…
相手の方から来る、かぁ…

ん?『ネットワークビジネス推進連盟』なんてあるんだ
これは何だろう?

『ネットワークビジネス推進連盟(NPU)は、連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)の地位向上などを目的とした政治団体。
「連鎖販売取引に対する世間の無知・無理解・誤解・偏見・勘違いに晒されている状態」から脱却することを目的とした政治連盟であり、その議員連盟として健全なネットワークビジネスを育てる議員連盟(NPU議連)が存在していた。
なお、従来から社会問題になっているマルチ商法という言葉は使わずに、ネットワークビジネスと言い換えている。健全なネットワークビジネスを育てる議員連盟と深い関わりを 持つ』

へえ…
政治家も関わってたんだ
なんかメリットでもあったのかな?

『健全なネットワークビジネスを育てる議員連盟は、かつて存在した日本の議員連盟。ネットワークビジネスと称する連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)を行う業者が加盟するネットワークビジネス推進連盟が支援していた。
ネットワークビジネス基本法の制定、薬事法の改正、をテーマに掲げて活動していた。
2003年9月に流通ビジネス議員連盟として石井一らにより発足。発足後、2008年1月、健全なネットワークビジネスを育てる議員連盟に改称。
2008年10月、議員連盟の事務局長である衆議院議員の前田雄吉が、業界から少なくとも1156万円の講演料と代表である政党支部への政治献金を受け取っていたことが新聞に記載された。
2004年3月から4年連続で衆院予算委員会分科会において、「一部の悪徳なマルチ企業によりまして、多くのまじめな業者が迷惑している」と発言。
政府の産業構造審議会小委員会に業界側委員を加えるべきだとなど業界擁護の質問を続けてきた。
講演料や政治献金は違法性は無いが、講演料を支払ったマルチ業者の一部が業務停止命令を受けていたことから道義的責任を取り、前田は民主党離党し次期総選挙への不出馬を表明した。
民主党幹事長の鳩山由紀夫は、献金に違法性はなく、前田議員が事務局長を務めたマルチ商法支援の議員連盟は「すでに解消させてもらっている。もう今は存在していない」と説明した。
同月18日、民主党の副代表であり、当議連を開設した石井も450万円の政治献金を受けていたことが分かった。
これに対し石井は「特別な趣旨はなく、あくまで政治活動に対する献金」と回答している』

やっぱり…
みんなお金お金なんだね
なんかこういうのはヤダな…
コマツさんはこういうの知ってるのかな
今度聞いてみよっと

※18

セミナーが終わって、私はマナミと会場に来る途中にあったロイヤルホストに行った
喫煙席と禁煙席で分かれていたけれど、禁煙席は人がいっぱいだった
みんなやっぱりタバコの煙の中でご飯食べるのは好きじゃないのかな

「喫煙席にレッツゴー、だね~」

正直、私はイヤだった
喫煙席はなんか空気が良くないし、あとで服とかに付いた臭いが変な臭いになることが多いんだよね

「空いてるね~」

「みんなタバコの煙の中でご飯食べるのがイヤなんじゃない?」

「そうかもね~」

いつも思うことだけど、マナミって私に限らず人の話聞いてないように見えるんだよね
それにマイペースだし…
なんかストレスとか全然なさそう

「お!いい席見っけ~♪」

マナミは奥にある席に壁側を背にして座った

確かに周りに誰もいなく、人の出入りもそれほどなさそうな場所だけにちょうど良かった
私は基本的にこういうところで、見ず知らずな他人の大して興味を引かない会話が耳に入るような状況は好きじゃないんだよね
ファミレスは特に席と席の間が狭いからホントに鬱陶しい

「あ、コマツさんだ」

コマツは例の高そうなルイヴィトンのボストンバックを肩に担いだ状態でやってきた
何が入ってるんだろう?
実は何も入ってないってオチだったりして

「結構色々入ってますよ。資料とか」

え?何で私の考えていたことがわかったんだろう?

「顔に書いてありましたよ」

コマツは『全てお見通しだぜ』と言っているかのような顔をしていた
おかしいな…
表情に出したつもりはないんだけどな…

「このビジネス長くやってるとわかるようになるんですよ。人間てちょっとした心の動きも表情に出てしまう生き物なんでね」

「へえ…」

そういうものなんだろうか?
よくわからないけれど…
まあ、コマツさんがスゴイというのはわかるけどね

「では、本題に移りましょう。セミナーでも話したんですけど、ネットワークビジネスって聞いたことありますか?」

「ありますね。授業でちょこっとなら。でも、ほとんど出てなかったので、詳しいことはわからなかったです」

「なるほど。聞いてみてどうでした?」

「とにかく、すごかったです。こんな仕事があるんだなって思いましたね。やってみたいです!」

「そうですか…。大学はどうするんですか?」

「辞めちゃおうかって考えてます。なんか飽きてきちゃったので。もうほとんど行ってないですし」

ポーカーフェイスだったコマツに一瞬だが、『コイツ本気か?』という表情が浮かんだ

「カオリ~。そんなことして大丈夫~?」

「うん。だって、これ以上大学にいるメリットないし…」

マナミは何かを促すようにコマツをチラリと見た

「なるほど…。わかりました。では、忘れないうちにこの登録用紙に名前とか住所とかを書いておきましょうか」

ああ、確か2コマ目に言ってた定期購入が必要とかってヤツだよね
口座は今わかんないなぁ

「わかるところだけでいいですよ」

さすが、コマツさん…
何でもお見通しなんだね…
それとも私が分かりやすいだけ?

「で、この用紙はなくさないでください。必要事項を全て埋めて、所定の金額を振り込み終わったら、マナミちゃんに教えてあげてください。そしたらセミナーで話しきれなかったことをまた改めて話したいと思います」

「はい。わかりました!」

一歩前進した、かな?
とりあえずこの書類、帰ったらさっさと仕上げちゃおっと

2016/08/16

※17

『そちらで契約して使っているセキュリティソフトがうまく動かないんですが…』
『無線LANにつながりません』
『無線LANてどうやって設定すればいいんですか?』
『お宅で契約して使っているセキュリティソフトのアップデートの仕方がわかりません』

やはり、馬鹿という人種は例えメールであってもその馬鹿振りは変わらないようだ
皮肉なものだ…

そんな連中と話すことがなくなるので、非常に気がラクだ
今度の仕事はメール対応のみで、時給単価も200円ほど上がる…

依頼主次第でこんなにも変わるとは…
とりあえず、今回は運が良かったということなのだろう

※16

気のせいだろうか?
仕事場でカオリを見かけた気がする

いや、人違いかもしれない…
似たような雰囲気の子がいないとも限らないからだ。

オレより背は低かったが、女性としては長身でシャープな顔立ち…
世間で言われる美人タイプだろう

笑ったときに八重歯が出てきて、それがまた屈託ない感じでよかった
俗に言うクールビューティーではないところがカオリの特徴でもあった

「お帰り~♪」

なぜかここ最近、帰るとマナミが常に家にいることが多い
以前から仕事はしていたり、いなかったりだったようだが…

「ねぇ、ねぇ~…」

お得意の目で訴える、が発動していた…
しかも、既に一紙纏わぬ姿に…
長い夜が始まりそうだ…

正直あのクリッとした大きなガラス球みたいに澄んだ目で見つめられると、細かいことはどうでもよくなってしまう
罪なオンナだ…

※15

セミナーは二部構成になっていた

最初に『流行らせる仕事とは何か?』ということをコマツが1時間ほど話した
内容は難解な専門用語を連発するものではなく、社会経験の少ないカオリにも理解できるような噛み砕かれた表現だったため、非常に分かりやすかった

要約すると、『権利収入を得られるビジネスオーナーになれる』『そのプランを提供してるのがオールモストという会社』『仕事は従業員・自営業・投資家・ビジネスオーナーの4つのステージに分けられる』ということだった

「ね。言ったとおりな感じでしょ~?」

「うん…。なんかよくわかんないけど、すごそうな気がする…」

ちょうど休憩時間だった
2人は席が1番前から埋まっていた関係で前から5番目に座っていた

マナミが何かを確認するように後ろを振り返った
カオリは多くの情報が頭に入ってきたせいかやや放心気味だった

マナミが一瞬頷いたように見えたが、よくわからなかった

「ねえねえ。せっかくだからコマツさんに挨拶しに行こうよ」

「え?いいの?」

「ていうか、コマツさんセミナー終わったあとも色々忙しいみたいだから今しかないよ」

「う、うん…」

カオリの中では疲労感とある種の期待感が濁流のように渦巻いていた

コマツは最後列の席で手帳に何やら書き込んでいるようだったが、2人が近付くと事前にわかっていたかのように顔を上げた
初めて会ったときよりも肌がキレイで、艶があるように感じた
髪型はジェルを使ってオールバックにしているのは変わらなかったが…

「コマツさん。お疲れ様で~す」

「おう。お疲れ。カオリさんもお疲れ様です」

カオリは軽く会釈するのがやっとだった

「疲れましたか?」

コマツは優しく包み込むような表情を見せた

「そう、ですね…。色んなものがいっぺんに入ってきて、よくわかんないです…」

「まあ、そうでしょうね。普段聞かないことばかりだったと思うので」

「でも…。なんだかすごそうですね…。やってみたくなりました」

「そうですか。とりあえず2コマ目がこのビジネスの心構え的な内容になってるんですよ。それを聞いてもらって、始め方とか具体的なことはここに来る途中にあったロイヤルホストで話したいと思います」

「じゃあ、終わったらあたしがカオリと先に行ってま~す♪」

「そうだね。よろしく」

マナミは意中の男に告白されたかのように嬉しそうだった
カオリは多少気になったが、それ以上にコマツを振り向かせたいと思う気持ちの方が強かった

コマツは結婚していて世帯を持っている立場ではあったが、そんなことはどうでもよかった
カオリの中のオンナはコマツを妻子持ちの男ではなく、1人のオトコとして見ていた

※14

BIZ新宿は別名、新宿区立産業会館と呼ばれる場所だった
来る途中にはヒルトン東京や東京医科大学病院もあった
また、隣には住友不動産オークタワーというガラス張りの高層ビルがあった

カオリは会場になっている場所が怪しげな雑居ビル的な所だったらと多少は不安があったが、取り越し苦労だったようだ

セミナーが行われる会場はBIZ新宿の2階右にある大きめの会議室だった
左にも会議室らしきものがあるようだったが、奥まっていてよく見えなかった

「ちょうどいいときに着いたね~」

会議室は開場されており、入り口には『オールモスト社事業説明会。主催TOPAZ』と大きめに書かれた縦長のホワイトボードが置かれていた
あまり字はキレイではなかったが…

会場内は既に満員というほどではなかったが、前の席から7~8割ほど埋まっていた
大学の講義などは後ろから埋まっていくことが多いせいか、こういった光景は珍しかった
それだけ有益な情報ということなのだろうか?

来場者の男女比はほぼ半々ぐらいだった
若干女性の割合が多いせいか、その場の空気に華のようなものが感じられた
スーツ、私服、ビジネスカジュアルといったように様々な立場の人間がいるようだった

コマツは一番後ろの席で足と腕を組んで座っていた
来たるべきときに向けて集中しているような印象だったが、カオリとマナミが来たのを確認すると軽く会釈した
険しかった表情が一瞬無邪気な少年のように綻んだように見えた

カオリはなぜかドキドキしてしまった
コマツが見せた表情のギャップのせいだろうか?
元々屈託のない笑顔を見せる男に弱いというのもあるが…

※13

新宿は場所によって様々な顔を見せる街の1つだ
スタジオアルタや歓楽街の代名詞的存在のでもある歌舞伎町のある東口
都庁を始めとした官公庁やアイランドタワー、新宿野村ビルのような高層ビルの建ち並ぶ西口
高島屋タイムズスクエアや時期が来ると美しいイルミネーションが印象的な南口や新南口

コマツの言っていたBIZ新宿は西口方面だった
カオリにとってはほとんど馴染みのない場所だった
恋人とのデートで来たことがある場所は南口方面かホテル街のある東口方面ぐらいのだったからだ

「こっちはあたしも全然来たことなかったんだよね~。コマツさんと会うまではさ」

いつもは肩甲骨の位置まであるオレンジがかった癖毛の茶髪をアップにしているマナミだったが、今日はそのまま下ろしていた

服装は、多少TPOを意識しているせいか、好んで履いている極端に短いタイトなミニスカートではなく、紫のニットワンピに黒いタイツというものだった

とはいえ、着ているコートは腰までの長さの黒いラビットファーコートで、ブーツも黒いフリンジ付のショートブーツといったマナミらしい部分も随所に見て取れた

カオリはセミロングのストレートヘアーを栗色の茶髪にしており、マナミと同じように下ろしていた
服装はグレーのタートルネックに黒と白のチェック柄のウールコートを着ており、濃いブルーのジーンズに茶色のロングブーツだった

「ヴぁ~!寒い!この辺て歌舞伎町とかよりも絶対寒い!」

「ねぇ。マナミ…」

「ん?」

「……やっぱいいや。大丈夫」

「あっそ」

マナミは『何が言いたかったのはわかってるけどね~』と言っているような顔をしていた
全てはBIZ新宿に行けばわかることだ

2016/08/15

※12

オレには古傷があった
小学生とか中学生ごろに小指を骨折したり、転んで足にやや激しめの擦り傷を作ったりした
それが何の前触れもなく、時々痛むことが未だにある

既に15年は経過しているにも関わらず…
時々思い出す…
既に男女関係を精算した元カノと呼ばれる連中たちを…

その大半が2~3ヶ月ほどで終わっていた
しかし、思い出すときは鮮明に思い出す…

彼女たちが醸し出していた空気感…
触れ合っていたときの感触…
そして、匂いや味…

その中の1人にカオリがいた

あまりに唐突な出会いと別れ…
そして、何よりも記憶に新しい…

また、あのときに戻りたいとは思わないが、それでも時々思い出す…

※11

移転の日が来た
場所は熊本になるとのこと
しかも、その知らせを受けたのが、実際に移転をする1週間ぐらい前とは…

まぁ、そういう会社なのだろう
以前働いていたいわゆるブラック企業と同じようなニオイを改めて感じた
おそらくこの会社は今回の移転を期に人員整理をするつもりなのだろう

地方移転の1番のメリットは、やはり経費削減
加えて雇用促進に貢献したということで、国から助成金が出るらしかった
世間体も保てるのだろう

ここまで狙いが見え透いていると、逆に抵抗したくなるのが人間の性というもの
幸い、世間の景気も良くなって来ていることもあり、移籍先もたくさんあった
なぜか、会社からは提示はなかったが…

選ぶ基準は収入アップ、都内、今よりもラクそうな仕事…
それが田町にある勤務先だった

田町、と言われたら何を想像するだろうか?
オレは最初ピンと来るものがなかった

品川の隣?
次の駅は浜松町か?
という状態だった

駅前にある森永乳業のビルを始め、基本的にはオフィス街だが、それ以外の顔も持っていた
名前はよく覚えていないが、南口に運河があった

残念ながら水はそれほどキレイではなかったが、その運河の近くにいると、殺伐とした日常を一瞬だけ忘れることが出来た

やはり、腐っても汚くても水。ということなのだろうか…
それとも、オレの心がささくれすぎていただけだろうか…

気がつくと、昼休みはほぼ確実にその運河のところにいた
危うくそのまま仕事場に戻るのを忘れそうなこともしばしばあったが…

それだけ思いのほか居心地がよかった、ということなのだろう

2016/08/13

※10

マナミの言っていたその仕事はJR八王子駅南口にあるシャノアールで聞くことになった
店内は開けたような作りになっており、席同士の間隔も広かった

駅前という立地の割には人の入りは少なかった
1階が本屋になっており、店自体は2階にあるからだろうか?

眉毛からフェロモンが出ていると言われたその青年実業家はコマツという男で、確かに満更ウソでもないかもしれなかった
むしろ、全身からフェロモンというよりはオーラのようなものが出ていた

身長は180センチぐらいで、おそらくブランド物と思われる高価そうなダブルのスーツを着ていたり、金色のジッポでタバコに火を点けたり、ルイヴィトンのボストンバックを持って来たりしていたが、いわゆる成金的な厭らしさは感じなかった

「自分は元々金持ちじゃないですよ。4~5年前ぐらい前に、そのときはまだフリーターだったんですけど、出来ちゃった結婚してますからね」

「ギャル男だったんでしたっけ?」

付け足すようにマナミが言った
事前に打ち合わせをしたかのようだったが、特に違和感はなかった

「そうなんですよ。ガングロでしたし、髪型とか色はスーパーサイヤ人でしたし」

「え!そうなんですか?」

言われてみればそのような面影もある気がした

「でも、言われなきゃわかんないですよねぇ~」

「ああ、よく言われるね」

コマツは心なしか苦笑しているように見えた
確かにマナミのリアクションはいかにも演技をしているかのような不自然さが多少感じられた

「…さて、じゃあ、本題に移りましょうか。カオリさんて呼んでも大丈夫ですか?というかマナミちゃんからは苗字は聞いてないので」

「あれ?そうでしたっけ~。すいませ~ん」

マナミは悪戯っぽく笑って誤魔化していた
『オンナは愛嬌』という言葉がピッタリ当てはまるような笑い方だった

「は、はい。大丈夫です・・・」

カオリは少し緊張していた
声も喉に異物が引っかかっているかのようにすんなりと出なかった
咳払いをするほどではなかったが…

「仕事の話はどこまで聞いてますか?」

「とりあえず、スゴイっていうことしか聞いてないです。あとは、1年か2年後には働かなくても生活していけるようになるってことぐらいですね」

「なるほど。そうすると、内容は全然聞いてない感じですよね?」

「はい…」

マナミは『内容喋ってないからわかるわけないし』とでも言いたげにニヤニヤしていた

「わかりました。一言で言ってしまうと、流行らせる仕事です」

「え?流行らせる、仕事…ですか?」

「そうです。おそらく初めて聞く仕事だと思います。普通の仕事、例えば事務とか営業とかみたいに求人したりはしないので。もっと言うと、今日この場でセッティングがなければ、もしかすると一生聞くことがないかもしれないぐらいの情報でもありますね」

マナミはコマツの一言一言に同調するように、深く頷いてみたり、小刻みに頷いてみたりしていた
カオリも思わずつられてしまいそうになったが、いきなり流行らせる仕事と言われてもよくわからなかった

何を?
どのような形で?
そもそも学生の自分にも出来るのだろうか?

頭の中で色々な疑問点が出ては消え、出ては消えを繰り返していた

「大丈夫だって。高卒のあたしに出来るんだし。コマツさんだって大学中退してるし。そうでしたよね?」

コマツは『喋り過ぎだ』と言わんばかりに苦笑していた

「そうなんですよ。まあ、中退せざるを得なかったっていうのもありますけどね」

「だから、カオリって結構頭いい大学行ってんじゃん。出来ないわけないって」

「カオリさんて学生なんですか?」

「はい。今3年です」

「コマツさん。別に気にしなくていんじゃないですか~?カオリはあたしとタメですよ」

「う~ん…」

一瞬だが、ポーカーフェイスだったコマツの表情に困惑の色が見えた

「え。学生だと出来ないんですか?」

「別に学生証のコピーとかって出さなきゃダメみたいなのってないと思うんですけど?」

いつになくマナミから生きるか死ぬかの瀬戸際にいるかのような必死さが感じられた
カオリはなぜマナミがここまで必死になるのか、今まで見たことのない形相だっただけに余計にコマツの言っていたその仕事が気になった

コマツの持つ圧倒的なオーラや佇まいに惹かれるものを感じたのは言うまでもないが…

コマツはマナミとカオリを見比べながらしばらく考えていたが、全てを見透かしたかのように微笑し、閉ざしていた口を開いた

「わかりました。確かに学生証の提出などはやっていないですが、自分の信条としては学生の人には伝えないことにしているんです。理由としては、この仕事というかビジネスがあまりにもすご過ぎて学校を中退したり、中には学生であることを隠してこのビジネスをやる人間もいたりするからなんです。しかし今回は、もちろんこの場ではないですけど、特別にお話ししたいと思います。土曜日にBIZ新宿っていうところで自分がこのビジネスについてのセミナーをやることになっていますので、そこに来てもらえればと思います」

「はい」

「6時でしたよね?」

「確かそんな感じだったと思う」

「大丈夫だよね?カオリ?」

「うん」

不安がないわけではなかったが、カオリの中ではコマツとの距離を縮められるかもしれないという期待感に似た感情の方が強かった

※9

「ねぇねぇ。久しぶりにご飯でも行かない~?」

突然訪れた別れに失意の日々を送っていたカオリに、高校からの親友でもあるマナミから電話があった

確かに久しぶりだった
カオリは大学に進学したが、マナミは家庭の事情などもあり、定職には就いていなかったようだが、既に働いていた

そういった立場の違いもあり、連絡は取ってはいたものの、会うことは滅多になくなっていた
とは言え、大抵の話題は誰と付き合って別れてといったことだった
多いときは1ヶ月に10回ほどそういったメールが来たことがあった

カオリも恋愛が長続きしないタイプだったが、さすがにマナミほどではないと思っていた
終わってしまうのは自分に合わせることが出来ない男の方に原因があると思っていた

「あぁ~。確かにそういうのもあるよね~」

「でしょ?ホント困るよね」

「何か、カオリってそういう男ばっかだよねぇ~」

「うん。私は相手に合わせていける方なんだけどね」

「まぁ、モテてるうちが花だよね~。もっと楽しんだ方がいいかもよ。カオリはキレイ系だし、スタイルとかもいいんだからさ~」

「…うん。ありがと」

昔からマナミの言葉には不思議な説得力があった
まず心にもないことは言わないタイプだったし、思っていることを相手の心に響くように伝えることが出来るからだろう

「あ、そうそう。あたし、最近ね、スゴイ人に会って、スッゴイ仕事の話聞いちゃったんだ~」

「え?スゴイ人?スゴイ仕事?」

カオリには何のことだかすぐにはわからなかった

「そうそう。そのスゴイ人さ~。何の仕事してると思う~?」

「さぁ…」

いきなり言われても検討が付くはずがなかった

「青年実業家なんだよ~」

「え?青年、実業家?」

聞いたことのない職業だった
カオリは大学を卒業したあとは一般企業でOLをやることになるのだろうと思っていた

それに一生働くことはなく、遅くても20代後半には結婚をして、子供が出来て、主婦をやりながら小遣い稼ぎをパートや派遣ですることになる
そのように漠然と思っていた

「そうだよ~。青年実業家~。ってよくわかんないよね」

「うん…」

「まっ、それはあたしもおんなじなんだけど~。とりあえずイケメンなんだよね~。もちろんただカッコいいってだけじゃなくて、オーラがほかの男と違うんだよね~。眉毛からフェロモン出てるし♪」

「へぇ~。そうなんだ」

一体どのような人物なのだろうか?
マナミはどちらかと言えば面食いなところがあるので、ルックスは間違いなくいいだろう

「ねぇ、カオリ・・・」

マナミの目付きが急に鋭くなった
目鼻立ちがハッキリしており、目にも力があるタイプなので、カオリは思わずマナミをジッと見てしまった

「就活すんの?」

「ん~…」

思いがけない問いかけだったため、すぐに言葉が出てこなかった

「もう冬だし…。そろそろ動いた方がいいかなとは思ってるけど、あんまり気が進まないんだよね」

「ふ~ん…。そうなんだ~。てっきり、フツーに就職すんのかなって思ってたよ」

「そう?なんで?」

「ん?カオリは大学行ってんじゃん。まぁ、みんながってわけじゃないけど、あたしの中では大学行く子って、そのままフツーに就職して、結婚して、みたいな感じなんだよね~」

「ああ。確かにそれはあるかもね。でも、私は何かそれだけじゃ面白くないかなっていう気持ちもあるんだよね」

「ふ~ん…」

マナミはルイヴィトンのシガレットケースからタバコを取り出し、火を点けた
ライターは銀色で細長かった

「まぁ、何も会社に入るのが人生の全てってわけじゃないしね。今は色んな働き方があるし」

「うん。それもそうだね」

「あたしも今はキャバとか色々やってるけど、さっきちょこっと話したサイドビジネスってヤツで1年か2年後には働かなくても生活していけるようになるし」

マナミのタバコが残り3分の1ほどの長さになっていた

「へぇ。そんなにスゴイ仕事なんだ」

カオリはチラリとマナミのタバコを見る
マナミもその視線に気付く

「あ、こんなに短くなってるし~。ま、いっか」

灰皿でタバコの火を消すマナミ

「気になる~?」

「ちょっとね」

「ちょっと、なんだ~」

マナミはニヤニヤしていた
まるで『ちょっと、じゃなくてすごくでしょ?バレバレだし~』と言っているかのようだった

「うん。ちょっとだけ、ね」

「あ、そぉ~?」

「そうだってば!」

「じゃあ、教えてあげないっと」

「別にいいもん~」

カオリは相手に主導権を取られるような状況が好きではなかったが、本当はとても気になっていた
結局は後日、マナミに教えて欲しいとメールすることになったが…

※8

「タカシが…いっぱい入ってる…」

マナミの声はかすれていた

いつも以上に締りが良かった…
無論、湿り具合やお互いが擦れ合う感覚も…

粘りつくような、子ネコが鳴くような喘ぎ声…

擦れ合う速度が上がっていく…

「タカシぃ~…」

絶頂間近のようだ…

………

「すご~い…。ドクドクいってるね♪」

今回の結果はどうなるだろうか…

2016/08/12

※7

当時カオリは六大学の一角という世間体的には聞こえのいい大学に通っていた
それなりに恋愛も楽しんで来た

例え一つの恋が終わったとしても、すぐに次が始まるといった状況で、生きているうちに3度はあると言われる何もしなくてもモテる時期の真っ只中のようだった

しかしその反面、全てが上手くいっている、付き合っている男が自分から離れることなどない、自分には努力などは必要ないと少なからず思っていたかもしれなかった

カオリはいつものように、付き合っていた恋人が住んでいるアパートに向かっていた
部屋の前で熱烈と言っても大袈裟でないほどのラブシーンを繰り広げているカップルが見えた

日が落ちている時間帯だったためハッキリとは分からなかったが、お互いの唇を吸い合う音が聞こえるほどの激しいキスシーンのあとに、カオリがいつも入っていた恋人の部屋にその2人は入った

部屋に電気が付き、程なくして消えた
何が行われていたかは想像に難くない…

カオリは心に空洞が出来たような感覚に襲われるのを感じた
それと同時に腹立たしさや悲しみが一気に押し寄せて、それが涙となって流れて来た
今まで味わったことのないものだったから無理もない

現状出来ることは溢れ出る感情に身を任せる、それだけだった

※6

オレは田町で仕事をしていた
つい最近までは西新宿が勤務先だった

契約社員という名目で、やっていることは俗に言う派遣というものだった
別に嫌いではなかった
正社員などと違って、理不尽なサービス残業や明らかに理に適っていない意味不明な組織への忠誠心を強要されることがなく、決められた時間の中で決められた業務をこなせばいいのだから

ただ、ここのところ明らかに経費削減と思われるような露骨なシフトカットが出始めており、勤務先の基盤を地方に移転させるという不穏な噂も後を絶たなかった

正直なところ、何も勤務先が西新宿である必要性はなかった
収入も減って来ている現状もあり、何よりもマナミと出来ちゃった結婚してしまいそうな状況でもあった

しかし、過去に転職というか再就職をしたことがあるだけに、所属先を変えるまたは異業種に転職する気にはなれなかった
手間と時間と経費の部分から見ても得策ではない

そもそも多くの会社が行っている人物重視の選考という名目の面接が嫌いだった
所詮はふるい落としをするための参考でしかない…
そうとしか思えないような扱いしかされなかった

その試験を通過するには、オレの最も苦手な自分自身をその会社の求める人物像にある程度改造するという作業が必要だった
やろうと思えば出来ないことはなかったが、そこまでしてその試験を通過したいとは思わなかったし、何よりもその価値を見出だせなかった

それは結局のところ偽りの自分なわけで、そんな張りぼてをいつまでも演じてられるわけもない
いずれは化けの皮が剥がれる

ならば、最初からありのままの自分を受け入れてくれるようなところ、またはそういったことをあまり重視しないようなところに身を置く方がいい

ネコや羊の皮を被り続けることやそれを取り繕い続けることに価値はないと思っていた
結局のところは夢も希望もない、そしてやりたいこともない、というだけなのだが…

※5

オオシロはコマツからの紹介を受けて、オールモスト社のネットワークビジネスに参加していた

当初はこの手段に将来性、そして希望を感じていたこともあり、精力的に動いていた
その結果、毎月約10万円ほどの収入を得ることが出来た

だが、オオシロは自分が稼ぐとそのうちの幾分かが紹介者であるコマツの利益になることが気に入らなかった
自らの取り分からピンハネされることはなかったが…

加えてコマツにABCを依頼することにも煩わしさを感じていた
新規であるCとAであるコマツの相性をいちいち気にしなくてはいけなかったからだ

無論、コマツに繋ぐことで失敗に終わったことも数多くあった
そして、自分自身でACならぬBCでサインアップ+入金まで漕ぎ付けたこともそれなりにあった

コマツのやり方に疑問を感じていたこともあり、この収入については事実上自力で稼いだも同然だった

※4

「人生の歯車が狂ってしまった…」

おそらく誰しも一度は感じたことがあるのではないだろうか?
少なくともカオリはそのように感じていた

カオリは現在、東京港区三田にある某IT系企業のオフィスで契約社員として働いていた

業務内容はいわゆるヘルプデスクという一見聞こえのいいものだったが、実際は不特定多数のエンドユーザー対応というそれなりに骨の折れる仕事だった
仕事や職場環境にはこれといった不満は感じていなかったが、充実感も感じていなかった

「こんなはずじゃなかったのに…」

カオリの人生が狂った一因として思い当たることは、まだ大学生だったときに出会った人物や自分自身に降りかかった様々な出来事だった

※3

オレの腕の中にはマナミがいた
小さくて、細くて、人形のような顔…

抱いているのに逆に抱かれているかのような錯覚を覚える摩訶不思議な体…
オレの冷めた体を温め、凍りついた心も一部融解させた最初で最後の存在だった

しかし、それはあくまで一部であり、芯まで溶かすことは出来なかった…

「タカシの目って、どんなときもいつもおんなじだよね」

「そうか?」

「うん…。いつも動かないっていうかどこ見てるかわからない感じっていうのかな。上手く言えないけど…」

よくわからなかった…
考えたこともなかった…
いつからそうなったのか?
物心ついたときから?
元々そうだったのか、それともある時期を境にそうなったのか?

基本的に相手の目を見るのはたとえ心を許している人間でもあまり好きではなかった
マナミはそれとは対照的にオレを凝視する傾向があったので、気になったのかもしれない

そもそもなぜマナミと付き合うようになったのだろう?
必然なのか?
偶然なのか?

正直なところよくわからない…

気がつくと抱き合い、お互いの性器を交え、分泌物を舐め合い、そして心のキズまで舐め合うような、俗に言う恋人と呼ばれる関係になっていた

その関係自体は、悪くはなかった
マナミもまんざらではなかったようだった

「タカシの子供が欲しいなぁ~♪」

「付けなくてだいじょぶだよ・・・」

耳元でそのようにささやかれることも多かった
無論、その言葉に甘えることの方が多かったが…

今までの相手ではそういうことはほぼ皆無だった
マナミだからこそ、という感じだった

こういった状況だと、子供が出来て、結婚して、といった流れになるのも時間の問題かと思われた
マナミもそれを望んでいたに違いない

※2

コマツは現在オールモスト社のネットワークビジネスで毎月約30万円ほどの収入があった

グループ人数の増加によって、一時期月収100万円ほど稼いだこともあったが、それはまだオオシロやカオリが動いていたころの話だった

そのまま乗数の法則によって、収入が増えていくものと思っていたが、現状は頭打ち気味だった

多くの収益が期待できるはずのオオシロやカオリが動かなくなってしまった
当然そこからの収入は入ってこなくなる

現状は新たに自ら直紹介をしたディストリビューターの稼動分や一般ユーザーの定期購入によって、なんとかなっている状況だった

ネズミ講と誤解されたり、買い込み権利収入と揶揄されたり、取り扱い製品が高いことによって、借金させられる等の悪評が立っている業界でもある

風当たりが厳しいのは否定できなかった

※1

時刻は23:59…
あと何秒かわからないが、今日という日が終わりを告げようとしているようだ…

オレの目の前にはPCの画面がある
その画面右下にデジタルな文字列で23:59という数字が並んでいる

この数字が0:00になれば明日という日に切り替わる、ただそれだけのこと…
昨日も今日も明日も特に違いはない…

強いて違いを挙げるなら、表現方法の違いぐらいか…

そんなことは今のオレにはどうでもいいこと
なぜなら、あのときからオレの中の時間は時を刻むのを止めてしまったのだから…

2016/08/11

§30

日が落ちていく
ダークグレーで廃墟のような街並が黒くなっていった
温度も下がってきたせいか、立ち上っていた陽炎も消えていった


日が落ちた
街など最初からなかったかのように、ただ黒く塗りつぶされた空間があるだけだった

無音だった
気流もなければ、生命の気配もなかった

そこには、静寂と闇があるだけだった



----完----

§29

濁流は激しくうねっており、全てを飲み込み、押し流してしまうかのようだった
俯せに浮かんでいるシュウが見えた
暴れる素振りは一切なかった

「これも必然か…」

キウェインだった
ちょうどシュウのいた場所だった


橋から身を乗り出し気味だったシュウは、そのまま頭の重みで、自然に落ちていった
キウェインは遠目に、何をするともなく、傍観するように、立っていた

迫り来る、荒れ狂う流れ
目は、飛び出しているかのように見開かれていた
口は三日月型になっており、言葉にならない何かを呟いているようだった

雲1つない青空
太陽は、冷たくプラチナ色に輝いていた


翌日、海に男か女かわからない遺体が浮かんでいるのが発見された
髪を含め、全身に毛らしきものが生えていなかった
身元を確認したところ、シュウだということが判明した

また、その翌々日、行方不明で捜索されていたカナエが、シュウの部屋で遺体で発見された
付着していた指紋から、シュウが素手で絞殺したようだった

なお、机には自治体から、3日以内に貧民街へ強制送還するため、自宅待機していること、守られなかった場合は、命の保証はない、という旨の通知が置かれていた

§28

カナエは、仰向けのまま、目を見開いたまま、微動だにしなかった
瞳孔は開いており、何をしても収縮、膨張することはなさそうだった

「バイバイ…」

シュウは、カナエの目を静かに閉じた
焦点の合っていないような眼差し
口元には歪んだ笑みが張り付いていた

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音は、全く聞こえなくなっていた
雨戸の隙間からは、微かに日の光りが漏れていた

§27

カナエの手が、情のない機械的な、しかし無駄のない的確な動きで、シュウの、下半身で最も敏感な場所を弄っていた

シュウは眠っているようだったが、口元には薄ら笑いが浮かんでいた

フフ…
大っきくなってきたね…

あ…
なんか出てきたよ?
これなぁに?

シュウはうっすらと目を開ける

黒い、無機質な、宝石のように輝く瞳
細身で、白く透明感のある、滑らかな触感をした素肌

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音
テンポはかなり速かった

日の光り、月の明かり
いずれも届かない部屋

カナエは、シュウの背中や二の腕を力の限り、指が食い込むほどの力で掴んでいた
機械的だった喘ぎ声が1オクターブ程度上がり、艶やかだった

シュウの動きはこれまでで1番早く、激しく、情熱的だった
背中に浮かぶ汗は、止まることがなかった

汗で光る、白く透き通るような素肌
形の良い胸の膨らみ
程よい肉付きをした、長く線の綺麗な脚が、シュウの脚に巻き付いていた

「もぉ〜、激しい〜」

!?

シュウの目の前にいたのは、あの小柄で細身の、黒目の割合が多い女性ではなく、取り立ててスタイルがいいわけでもなく、綺麗でも可愛いわけでもなく、何をやっても中途半端で、ただ目の前にあるもの、やってくるものをこなしているだけ、という印象の、カナエだった

§26

列車が「3区」に到着した
人はほとんど乗っていなかった

シュウは、濡れていない箇所を探すのが難しいほど濡れていた
足元には水たまりが出来ており、重くなった髪からは水滴が滴り落ちていた

瞬き1つしない、焦点の合っていないような眼差し
口元には歪んだ笑みが張り付いていた


車内に雨の音が響いていた
降り続く土砂降りは、収まる気配がなかった

ガラスには大量の水滴が付着していた
滲んだ黒と、明かりと思われる黄色が所々に混ざっていた

!?

カナエだった

「…どうしたの?すごい濡れてるけど?」

「…いや、…なんでもない」

肩を突かれて、驚いたように振り返ったシュウの、焦点の合っていない眼差しは、怪訝なカナエの視線を避けようとしているせいか、不自然に泳いでいた
口元の歪んだ笑みも、上手く隠すことが出来ず、左の口角だけ上がっており、顔全体が引き攣っていた

「……これから帰り?」

「…ああ」

2人は、「10区」に着くまでの約40分、一言も口を開かなかった
「4区」や「7区」でも乗ってくる人間は疎らだった
土砂降りが列車を打つ音は、大きくなるばかりだった

2016/08/09

§25

雲1つない青空
太陽は、冷たくプラチナ色に輝いていた

普段は静かで穏やかな川が、大幅に増水しており、激しい濁流と化していた
また、所々に渦も発生していた

シュウは、橋から身を乗り出し気味に、その流れを眺めていた
焦点の合っていないような眼差し
口元には歪んだ笑みが浮かんでおり、肩は小刻みに震えていた



キウェインが、遠目に、何をするともなく、傍観するように、立っていた
無機質な瞳には、シュウの姿が映っていた

§24

や…
見ちゃ、いや…

シュウの口元に歪んだ笑みが浮かんでいた

潤んだ小動物のような黒目
白く、透明感のある、滑らかな触感をした素肌
細身ながら、出るところは出ている、メリハリのあるボディライン
女性は、蔦が局部を隠している以外は何も身に付けていなかった

や…
来ないで…

ガラス球のように澄んだ黒目に、恍惚の表情を浮かべたシュウが映っていた

だって…
これ以上近付いちゃうと…

シュウの顔は強張っていた
背中から、紅く染まった刃の切先が出ていた
足元は、瞬く間に紅く染まっていった
紅い液体が一定のペースで滴り落ちていた

死んじゃうよ?

女性の瞳は無機質で深遠だった
目の前にいるはずのシュウを全く認識していないようだった
その手には剣が握られており、真っ直ぐ、シュウの胸を貫いていた

§23

降りしきる雨を街灯の淡い明かりが照らしていた
無音だった空間に、激しい雨音が響いていた
雨足は闇夜で見えなかったが、辺りは水煙で霞んでいた

シュウは、ただ突っ立っていた
髪からは、後から後から水滴が滴り落ちていた
どこを見るともなく見ているような目付きだった

足元には大きな水たまりが出来ていた
大中小の波紋が、いくつも出来ては消えを繰り返していた

黒一色だった世界に、ダークグレーが滲んできた
やがて、ぼやけたダークグレー一色となり、所々に水玉が浮かんでいた

§22

池の真ん中にある噴水が、ちょうど作動したところだった
水が放物線を描くように噴出するタイプだった

ちょうど、キウェインが、例の小柄で細身の、黒目の割合が多い女性とともに、シュウの背後を通り過ぎるところだった
ほんの一瞬だったが、キウェインがシュウを一瞥した

!?

シュウの顔が強張った
恐れからか、全身が小刻みに震えていた

足元は、見る見るうちに紅く染まっていった
多少の粘性を伴った紅い液体が、一定のペースで滴り落ちていた
胸の、ちょうど心臓のある辺りから、刃の切先が出ていた

女性はキウェインの様子に気付いたようで、だいぶ離れてから、何を見ていたのか尋ねているようだった
シュウは振り返るどころか、動くこともできなかった

光りや音のない、黒くて暗い世界が見えた
噴水は、白い線で縁取りされているだけだった

2人が完全に見えなくなってから、シュウはようやく、足元に紅い液体が、胸を刃が貫いていないことに気付いた
しかし顔は強張ったままで、震えも止まっていなかった

水面は、微風のためか細波だっていた
白に薄い灰色を混ぜたような雲
日の光りは弱く、雲の切れ目から僅かに漏れてくるだけだった

§21

太陽が、無機質なプラチナ色の冷たい光で、廃墟のような街全体を照らしていた
人為的に造られた建物、道路は風化しているせいか、ダークグレーだった

南中高度から、正午辺りの時刻と思われたが、人気がないのは変わらずだった
人間以外の動植物の気配もなかった

温度が高いのか、街全体から陽炎が立ち上っていた
街自体が蜃気楼のようだった

太陽は、ただ冷たく輝くだけだった
それが自らのタスクであるかのように

2016/08/07

§20

シュウは、その男か女かわからない、白い衣類を身につけた人物から目を離せなかった

微動だにしなかった
ほぼ確実に死んでいると思われるが、突然動き出す気配も感じられた

!?

何者かに触れられた気がし、シュウは振り返った
しかし、誰もいなかった

その区画は、街灯のない行き止まりだった
通りから死角になる場所で、無音で、空気の流れも感じられなかった

シュウは向き直った
白い人物は姿を消していた



もう1度振り返り、向き直ってみた
人影らしきものは見当たらなかった



無音のままだった
暗くて、黒いままだった

§19

!?

シュウの胸の、ちょうど心臓のある辺りから、刃の切先が出ていた

池の真ん中にある噴水が、ちょうど作動したところだった
水が放物線を描くように噴出するタイプだった

シュウの足元は、見る見るうちに紅く染まっていった
多少の粘性を伴った紅い液体が、一定のペースで滴り落ちていた

光りや音のない、黒くて暗い世界が見えた
噴水は、白い線で縁取りされているだけだった

§18

なんかさ、いつもと違ったね

気持ちよかった?

うん
でも、なんか変な感じ

変て、何が?

何だろう…
今までで1番気持ちよかったんだけど、次はないみたいな、これっきりみたいな…



やっぱり終わっちゃうのかな…



日の光り、月の明かり
いずれも届かない部屋

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音、ともにテンポが遅くなっていた

2016/08/03

§17

池には橋が架かっていた
ジグザグに横断するような橋だった

真ん中には噴水が設置されていたが、作動していなかった
時間帯によるのだろうか

水面が細波だっていた
微風のためだろうか

いつもは、水鳥や鯉によって多少なりとも賑やかだが、今回は静かだった

白に薄い灰色を混ぜたような雲
日の光りは弱く、雲の切れ目から僅かに漏れてくるだけだった

§16

人気のない、照度不足の街灯が疎らな住宅街だった
戸建、集合住宅は、明かりが点いていないものを探した方が早そうだった
街灯と街灯の間は、彩度や明度の高い色でなければ認識できないほどだった

辺りは無音だった
音という概念が、最初からなかったかのようだった

入り組んだ区画ばかりだった
街灯のない行き止まりも多かった
通りから死角になる、何かが起こっても、誰も気付かないような戸建、集合住宅も多かった

人が、俯せに倒れていた
身につけている衣類は、上下とも白だった

男か女かわからなかった
髪は残らず剃り取られており、目に付く手や脚にも毛らしきものはなかった

§15

シュウの動きは、これまでで1番早く、激しく、情熱的だった
背中に浮かぶ汗は、止まることがなかった

カナエは、シュウの背中や二の腕を力の限り掴んでいた
指が食い込むほどの力で掴んでいた

どこか押さえ気味だった声も、何かが外れたようになった
どこから出たのかよくわからない声だった


静かで、荒い息遣い
汗で光る肢体

日の光り、月の明かり
いずれも届かない部屋

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音
テンポはかなり速かった

§14

葉と葉の間から、日の光りが漏れてくる
木々が生い茂っているためか、日溜まりはわずかだった

スラムでも有数の自然公園だった
緑が多いのはもちろんのこと、中心部には、湖と見間違うほどの池もあった

いつもより人が少なかった
いつもより静かだった

葉と葉の間から漏れてくる日の光りは、冷たく、無機質で、プラチナ色だった
生い茂っている木々のため、よく見えなかったが、雲の切れ目から漏れてくるようだった
雲は、白に薄い灰色を混ぜたような色だった

2016/08/02

§13

雨が壁に当たる音、雨戸を打つ音
テンポはかなり速かった

日の光り、月の明かり
いずれも届かない部屋

雨の音に、カナエの、高い喘ぎ声が混じっていた
シュウの、動きの強弱に関わらず、常に一定の高さだった

カナエとの関係が始まったのは、大学生のころだった
人として嫌いではもちろんなかったが、好きというほどでもなかった

身長は155cm前後で、取り立ててスタイルがいいわけでもなく、綺麗でも可愛いわけでもなく、何をやっても中途半端で、ただ目の前にあるもの、やってくるものをこなしているだけ、という印象だった

もう少し経てば、好きになるのだろうか?
収入のない状態が続けば、貧民街に送り込まれるらしいが、実際はどうなのだろうか?

シュウの動きがいつになく激しくなった
背中には汗の粒がいくつも浮かんでいた

機械的なカナエの喘ぎ声が、1オクターブ程度上がり、これまでなかった艶やかさも出始めた
部屋に響いていた雨音は、完全に掻き消されていた

§12

カナエの瞳には、蛍光灯以外何もない、暗い天井が映っていた
隣では、汗ばんだシュウが静かに寝息を立てていた

白を基調とした、物らしき物が何もない部屋
壁にかけられた時計が、時を刻む
その音が辺りに反響していた

閉め切られた雨戸から日光が漏れてくることはなかった
曇っているからだろうか

シュウとの付き合いは、大学生のころからだった
なぜこのような関係になったのか、未だによくわからなかった
嫌いではもちろんなかったが、好きではなく、どれほど付き合いを重ねても好きになることはなかった

身長は160cm前後で、高いとは言えなかった
取り柄のようなものはなく、何をやっても中途半端な印象だった
無論、そういった内面は外面にも滲み出ていた

このまま腐れ縁となるのか
もう2〜3年程度経てば変わってくるのか
その可能性にかけたいのか

よくわからなかった

シュウは寝返りを打った
手が胸の膨らみに、脚と脚も触れ合い、全体的に密着度が上がった

意図的なものではなさそうだった

カナエの手が、シュウの、下半身の敏感な場所を弄り始める
情のない機械的な動きだった
そして、無駄のない的確さも併せ持っていた

§11

4〜5階建ての、マンションと思われる建物だった

無機質でメカニカルな外観
凝ったデザイン
エントランスには、オートロックのパネルや観賞植物が設置されていた

外壁の所々や、奥に階段があると思われるガラス張りの箇所には、蔦が這っていた
特に、ガラス張りの箇所に繁っていた

や…
見ちゃ、いや…

潤んだ、小動物のような黒目
白く、透明感のある、滑らかな触感をした素肌
細身ながら、出るところは出ている、メリハリのあるボディライン
女性は、蔦が局部を隠している以外は、何も身に付けていなかった

シュウの口元に、歪んだ笑みが浮かんでいた
瞳には、繁った蔦が映っていた